中学にも少しなれてきた とある冬の日
そのノートは 昼休みの終わりに渡された。
「これ、 あの子が渡してって言ってて」
先生はそれだけ言って すぐ次の仕事に戻った
わたしの手の上に残ったのは 桃色 のノートと ちいさな鈴
ちり。
触っただけで鳴った
ーーあの子だ、
と思った
とろくて、ひっこみ思案で 頭も中の下のあの子。
こういう、音のするものがすきそう。
授業が始まっても ノートは開けなかった。
黒板を写しながら ずっと机の端を見ていた
不登校になってから あの子の名前は だんだん出なくなった
最初は心配されて、 そのうち話題にならなくなって、
今は 「いない席」として存在している。
放課後
教室に残って ようやくノートを開いた。
『 ひさしぶり。
いきなりで ごめんね。
でも、交換日記 してみたいなって 思い ました。
今日は すこしねむくて、 かべにもたれていました。 』
丸くて ゆっくりな字
読んでいるうちに 胸の奥がじんわり温かくなった
どう返す?
ペンを持つ。
白いページを見る。
「元気?」
ちがう。
「久しぶり」
それも、ちがう。
何回か書いて、消して、
結局こう書いた。
『 ノートありがとう
びっくりしたけど うれしかったです。
今日の学校は いつもどおりでした。 』
ページを閉じると鈴がちり、と鳴った。
返事をしただけなのに 胸が少し疲れていた。
コメント
1件
新作ありがとうございます!!! 今回の作品もとっても好きです💖💖💖 「いない席」というのが特に悲しさやリアルみがあって好きです! 続きを今から読みますが、とても楽しみです。