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「後片付け、終わりましたっ!」
ルティとミルシェによる倉庫の片づけは、あっさりしたものだった。倉庫に置いていた過去装備のほとんどを錬金で使用したらしく、処分するものは極端に少ないのもあって、引っ越しのような慌ただしさにはならなかった。
ルティが倉庫長に話をする間、おれは釣りギルドに足を運んだ。
「ニャニャ! アック! 大変だったニャ~?」
「何と言えばいいのか……すみません」
「ニャんの、ニャんの! 普段釣れない大物が釣れて楽しいニャ。水が引くまでゲットニャ~」
何て前向きなネコなのだろうか。こういう繋がりは大事にしておきたいところだ。
「それは良かった。それで、えっとおれたちはラクルを出ることになりまして……シャトンにお別れを」
「ニャフフ……」
「え?」
何だかんだで釣りギルドに入ったことで助けられた。
その礼も兼ねての挨拶だったが、
「まだ見ぬ釣り場があるのニャね? そこにたどり着いたら迎えに来てニャ! そこにギルド作って人集めするニャ~!」
シャトンから飛び出した発言はおれを喜ばすものだった。
「え、いいんですか? だって、東アファーデ湖村があるんじゃ?」
「アックは見込みありまくりニャ。気に入ってしまったニャ! 約束ニャ~」
「その時はぜひ!」
おれの故郷には何も無く、希望を持つことは今まで無かった――そう思っていたが、ギルドを作って人集めすれば少しは変わるかもしれない。
「気に入らないのだ!」
「ん? どうした、シーニャ」
「アック、シーニャのアックなのだ。ネコなんかにあげたくないのだ。ウニャ!」
虎とネコ族ではそもそもタイプが異なるのだが。堂々と仲良さげなところを見せすぎたか。シーニャは後でもっと甘やかしておこう。
「アック様、準備完了しました!!」
「ん、そうか。お金は――」
「はい、たっぷり返ってきました!」
随分と返事がいいがいいことでもあったか?
「何で?」
「アック様が施した防御魔法が倉庫の劣化を防いだとかなんとかでして、逆にお礼を言われちゃいました! えへへ」
国作りには、ルティのような前向きな力と態度が役に立ちそうだな。
そしておれたちはラクルの倉庫を後にする。
「ふわ~! すごい光景~! 見てみて、シーニャ」
「シーニャ泳ぎたくないのだ、ウニャ」
「泳ぐはずがありませんわ。そうなのでしょう、アックさま?」
「まぁな」
さすがにラクルに迷惑をかけた。そんな状況で泳ぐのはおかしい話になる。
「アック様。もしかして、水を流しながら進むんですか?」
「いや、違うぞ。悪いが、ルティ。水が引いた場所が見当たるか探してみてくれ」
ラクルから出てすぐの所は地面が見えるが、そこで魔法を発動させると面倒事が起きそうだ。自分で引き起こしたとはいえどうしたものか。
海のような一面の水を失くす魔法はおれには使えない――というより、どうやればいいのか分からない。こんな状況を作り出したおれに対し、水に慣れた町の人間から文句が出ることが無かった。
それというのも魔導士被害がラクル全体に広がっていたからということらしいが、その辺を含めて力不足感は否めない。
「アック様、アック様! 見つけましたっ!!」
「よし、風で飛ぶぞ。みんなつかまれ」
風の神族の印は色んな所で役に立つ。空を長時間飛ぶといったことは出来ないが、一時的になら飛べるのでかなり使える。
おれにつかまった彼女たちごと風に乗せ、水が引けた地面に降り立った。そして、属性テレポート魔法を発動させた。
【属性テレポート ”氷”潜在スキル:残7】
次は氷か。自分で選べないのが不便な魔法だけど、こればかりはな。
多少の不安を抱えつつ、おれたちはテレポートした。
「――よし、移動出来たなっ――て……う、うおっ!?」
「ひえええええええ!? ゆ、雪山の頂上ですよ? アック様、す、滑り落ちますよぉぉぉぉ!!」
「ルティ、しっかりつかまってろ!」
ルティはすぐ近くにいるが、他の三人がやや離れた場所にいる。やはり不安定過ぎる魔法だった。
「ウ、ウニャ……」
「手がかじかんで厳しいですわーー!!」
「イ、イスティさまぁぁぁぁぁぁぁ!! 落ちちゃうよぉぉぉぉ~」
こんな時に限って、フィーサが人化したままだった。鞘に収めていた状態でやるべきだったがすでに手遅れ状態だ。フィーサに傷がつくことは無いだろうが、滑り落ちて行くのを見過ごすわけにはいかない。
「身を任せて滑り下りるぞ!! 岩とかに気をつけろよ!」
普通なら助かりはしないが、下りきる前に炎を発動させる、あるいは。
「え、えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「アックに掴まったままでいるのだ……高いところ、嫌なのだ」
「全く、アックさまったら退屈させない方ですのね。いいですわ、身を任せて滑り下りると致しますわ」
「よ、よし、行くぞ!」
潜在スキルが減らない限りまともなテレポート魔法は使えないとは、なんて厄介で不完全な魔法なのか。