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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第7話 〚増えた名前〛(澪視点)
その日は、
本当に突然だった。
朝のホームルームで、
担任がいつもより少しだけ言葉を選ぶように話し始めた。
「今日は、転校生を紹介します」
教室が、ざわっと揺れる。
この時期に?
という空気が、自然に広がった。
一人目の名前が呼ばれる。
「火野あかり(ひの あかり)」
明るい声で返事をして、
軽く会釈をする女子。
空気が一瞬、柔らいだ。
「白石湊(しらいし みなと)」
次に呼ばれた男子は、
落ち着いた表情で前に出た。
視線が静かで、
周囲を必要以上に見回さない。
そして——
最後の名前。
「……真壁恒一(まかべ こういち)」
その瞬間。
胸の奥が、
ほんの一拍だけ、強く鳴った。
ドクン。
(……え?)
心臓はすぐに静かになる。
未来も、映像も、来ない。
でも、
“反応した”事実だけが残った。
前を見ると、
教室の入り口に立つ男子。
見覚えがある。
ないはずなのに、
輪郭だけが、はっきりしている。
(同じ……名前?)
えまが小さくこちらを見た。
しおりも、みさとも、少し表情を固くしている。
海翔は——
黙ったまま、その転校生を見ていた。
視線が、鋭い。
担任が続ける。
「三人とも、今日からこのクラスです。仲良くしてください」
拍手が起きる。
でも、どこか揃っていない。
火野あかりは笑って、
白石湊は軽く頭を下げて、
真壁恒一は、静かにこちらを見渡した。
その視線が、
一瞬だけ、私で止まる。
心臓が、
今度は鳴らない。
(……見られた)
なのに、
何も見せてこない。
休み時間、
教室は転校生の話題でいっぱいだった。
「名前同じじゃない?」
「偶然でしょ」
「雰囲気違くない?」
小さな声が、いくつも飛ぶ。
私は、
そのどれにも混ざれなかった。
胸の奥に、
説明できない違和感だけが残っている。
海翔が、隣に立った。
「……大丈夫か」
「うん」
嘘じゃない。
でも、本当でもない。
(心臓は、何を知ってるの)
鳴ったのに、
見せなかった理由。
それが、
今日の転校生と関係している気がして——
少しだけ、背筋が冷えた。
日常は、
何事もなかったように続いている。
でも、
確実に名前が増えた。
そして私は、
その中に紛れた“同じ名前”を、
無視できずにいた。