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授業の進行と共に聞こえてくる先生の言葉を遠めで聞きながら、杉山は一人もんもんとしていた。教科書と並んで開かれている方眼ノートは数行で止まっており、反対に黒板には文字が埋まっていく 。
(…長沢の言ったこと、本当なのか?)
ー大野、お前は一体 何を抱えているんだ…?
…俺には、言えないことなのかよ。
心配や寂しさを紛らわすように奥歯を噛み締め、自分が情けなく感じた。 状態を確かめるようにちらりと横を見れば、どうやら硬い表情で鉛筆を握りしめている。
…今回の出来事できっと、大野に対してあれこれと問いかけてくる人や、騒ぎ立てる人はいなくなるに違いない。
もしそんな奴がいたら俺がぶっ飛ばしてやると密かに意思を固めながら、根本的な解決には至ってないことに杉山は気づいていた。
皆んなに、大野にとって知られたくないことがあることを知られてしまった。
それも、最悪な形で。
詳細こそ知らないものの、これではいけない。
杉山はもう一度、大野へと視線をおくった。
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今日何回目かの放課を知らせるチャイムが鳴り、其々が自分の時間を過ごすなかで、教室では山田や関口を始めとする男子達が話をしていた。
「おい、それって本当かよ山田!!」
「勿論だじょー!!
オイラ帰ったら、 てるてる坊主いーっぱい吊す から、明日は晴れるんだじょー!!!」
窓に打ち付けられるようにして滴る雨粒を見てから、そんなことかと疑いの目を向けられるも、山田は嬉々としている。
「本当だじょー!明日は晴れるんだじょー!」
じゃあ、晴れたらサッカーだなと笑うはまじに、場の雰囲気はいっそう盛り上がっていった。
山田が吊るすであろうてるてる坊主のいく予想を話していると、ふとはまじが声をあげる。
「おい、もし明日が晴れたらさ、人もっと増やしたほうが良いんじゃねーか?」
現在のメンバーは、山田や関口に加えて、はまじ、ブー太郎と言ったところである。
辺りを見回したあと、顔を上げたブー太郎が口を開いた。
「確かに四人だと、敵と味方のゴールで一人ずつ使うから、一対一でつまんないブー。」
じゃあー
大野と杉山も誘おうと言ったのは誰だったか。
その場の空気がどっと重苦しくなるのが目に見えて分かった。
「いや、大野は…… 」
「そういえば今日、体育休んでたよな…。」
「長沢の話も本当っぽいしなブー…。」
「誘いたいけど、なんかな……うーん、。」
眉をひそめ、大野に対する心配や不安、遠慮について話が広まっていく。山田はそれを不思議そうに見ていた。
「皆んなが誘いにくいなら、オイラが誘ってくるじょー!!」
手を大きく振り、開こうとする口をはまじが塞ぐ。
「おい待て山田っ、!!
お前さっきの放課後、 長沢の話聞いたろ?! 大野はー」
コソコソと小声で話すはまじに、頷きながら驚いた様子の山田。
杉山は黙って一連の流れを見ていた。
(……なんだよ、それ。)
今までに無い大野に対するよそよそしさを感じ、杉山は顔を曇らせる。
(普通に誘うで良いじゃんかよ。くそっ、 サッカーぐらい………ッ)
杉山は右を向くと、大野に向かい合った。
「おい、なんだよ杉山?」
「いや、もし今度晴れたらさ、一緒にサッカーしねぇか?」
ほら、前は予定合わなかったしと笑う杉山に、大野は申し訳無さそうな、気まずそうな顔で断りを入れる。
体育の授業を見学したことについて思い出せば 予想はついたであろうその結末に、杉山は微かな苛立ちを覚えていた。
(何で大野は普段通りにしてくれないんだよ、こっちは気を遣ってるのに、!)
「ー杉山、?」
黙りこくった自分を覗き込むようにして心配する大野に、杉山は言う。
「…何でだよ、」
いつもと異なる様子に、目の前の親友は困惑していた。
「おい、杉山ー」
「俺とはサッカー、したくないのかよ、?」
「違うっ!」
「じゃあ何で!」
口を開いては閉じを何度か繰り返す大野は、どうやら言葉につまっているのだろう。
長いようで短い沈黙が流れると、ごめんとだけ言う大野に、杉山はもういいと席を立った。