空席となった左側を見つめ、大野は重い溜息を漏らす。 怒ったような杉山の目が、頭から離れず 忘れられない。必死に話をするその口調が、更に大野を罪悪感へと導いていった。
しかし、いくらそれを持とうにも行動範囲には限界がある。自身ではどうすることも出来ないもどかしさに、大野は心の中で必死に言い聞かせる他無かった。
(穴が塞がれば、きっと杉山と今まで通りの関係に戻れるはずだ。理由も話して、サッカーだって出来る。 )
(頼むから……良くなってくれよ…っ!)
足音が近づいてくる。
ぎゅっと目を瞑る大野を横目に、少し荒っぽく椅子を引く杉山。
こちらを向いてはくれなかった。
「す、杉山っ」
言葉が見つからなかったとはいえ、杉山を怒らせてしまったと言う事実に変わりはない。だから、大野はせめて謝りたかった。
今までに無いくらいの気持ちでいっぱいいっぱいになりながら、口を開く。が、返事は返ってこない。
授業の開始を合図するチャイムだけが虚しく鳴り響き、気がつけば先生は教壇に立っていた。
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結局のところ、 二人の仲は改善しないまま一日が終わり、大野はリビングでサッカーの試合を観ていた。
(サッカー………また出来るよな、。)
気がつけば形だけの状態でサッカーを観賞しながら、杉山のことを思い出す。
ランドセルに教科書を詰めながら、学校で帰りの準備をしている時に偶然耳へと入った小話。それは、杉山がはまじ達にサッカーの誘いを受けているというものだった。
少し迷って誘いを了解した杉山に、驚愕するはまじ達。思ったよりもショックを受けている自分に、大野自身が驚いた。
内容なんて入ってこず、虚しいだけの時間が流れる。もういいやとテレビを消すと、大野は立ち上がった。
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ザワザワと賑わっている教室で辺りを見回す。 周りの楽しげな雰囲気とは反対に、胸元から感じる違和感で大野の顔は曇る一方だった。
ーとてつもなく、嫌な予感がするー。
瞬間、呼吸が出来なくなる程の痛みに胸を抑え込んだ。初めての状況に、大野は焦りと困惑が隠せない。その場で蹲るようにして身を縮める自分目掛けて、どうやら上から声がしたようだった。
「大野、顔色悪いぞ?!」
声の正体は杉山で、今日の学校での様子とは打って変わっていた。
ー見られている。
ひたすらに痛みが治まるのを願いながら、大野は歯を食いしばる。握りしめろれているシャツには幾つかの皺ができており、手は力が込められ白くなっていた。
(嫌だ、こんなのバレたくない、! 誰にも知られたくないのに、くそっ!)
気がつけばあんなに騒がしかった教室は静かでいて、大野を囲むようにして皆んなが立っている。胸の痛みは増すばかりだ。
「大野!大丈夫か!! よし、一旦保健室行くぞ!!」
体育の先生が自身を見下ろして手を差し伸べる。後ろから、複数人他の先生がいるのが分かった。杉山を含むクラス全員がこちらを見ており、とても居心地が悪い。
あぁ俺、終わったなと悟った時、は っと目が覚めた。
見慣れた天井に、暫くの間頭が追いつかない。
胸に手を当て、呼吸を整える。心臓はばくばくと動いており、元通りになるまで少しの時間がかかった。
「ゆ、夢…………?」
今までに無いくらいの動揺ぶりに、頭を抱える。それは正に、悪夢だった。
なんとかして自身を落ち着かせながら、大丈夫だと言い聞かせる。
ー残り三週間、三週間後にはきっと、!
それだけが、大野にとって唯一の心の拠り所であり、希望だった。
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