テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
カナ
18
#ブルーロックBL
らいあ。
7,470
僕はなぜ、今こうして生きているのだろう。誰もが自分の利益のために騙し合い、平然と嘘を吐く。人間とは、どこまでも汚い生き物だ。そんな醜い世界の一部でしかない自分自身に、僕は激しい嫌悪感を抱いていた。
かつて親の都合と、その崩壊した関係の煽りを受け、僕は保護所で過ごすことを余儀なくされた。社会の片隅にあるその場所で、ただ息を潜めるようにして過ぎ去った、およそ半年の月日。期間が満ちて保護所を出た僕は、半年遅れで新しい高校へと通い始めることになった。
けれど、そこに期待や希望なんてものは微塵もない。他人に期待すれば裏切られるだけだ。友達など、僕の人生には最初から必要なかった。
新しくあてがわれた制服は、まだ体に馴染まずにどこか硬い。教室のドアを開けると、すでに出来上がっているいくつかの「グループ」から、一斉に好奇の視線が突き刺さる。半年遅れの編入生。ワケありの烙印。
「おい、あいつ……」
ひそひそと囁き合う声が鼓膜を打つが、僕は感情を殺して、一番後ろの窓際の席へと歩いた。どうせこいつらも、外面だけを取り繕った汚い大人予備軍だ。関わるだけ時間の無駄。そう自分に言い聞かせ、机に突っ伏して目を閉じた。
だがその時、隣の席からトントン、と軽く机を叩く音がした。驚いて顔を上げると、一人の男子生徒が、こちらをじっと見つめていた。その瞳は、クラスの誰とも違う、妙に冷徹で、それでいて僕のすべてを見透かすような色をしていた。
「……やっと見つけた」
ひどく低く、冷ややかな声が、僕の耳元で弾けた。
驚いて顔を上げると、切れ上がった鋭い瞳が僕をまっすぐに射抜いていた。クラスの誰もが僕を好奇の目で見る中、彼だけは、値踏みするような、それでいて狂おしいほどの執着を孕んだ色で僕を見つめている。
周囲の雑音が一瞬で遠のいた。
見覚えがある。この冷徹で、吸い込まれそうなほど美しい双眸を、僕は知っている。
「嘘、だろ……」
喉の奥から乾いた声が漏れた。
半年間、あの狭くて暗い保護所で、僕と寝食を共にした「彼」だ。当時は誰も手が付けられない危うい雰囲気を纏った男だったはずの男。それがなぜ、今、僕と同じ男子制服を着て、涼しい顔で僕の隣の席に座っているのか。
「驚いた? 苗字が変わったから、僕だって分からなかったよね、律」
周囲に聞こえないほどの密やかな囁き。僕の本名を呼ぶその声は、かつて保護所の冷たいコンクリートの床の上で、僕の首筋に噛みつきながら「お前は俺だけのものだ」と誓ったあの男の、低くて甘い声そのものだった。
「なんで、お前がここに……」
「言ったでしょ。地獄の果てまで追いかけるって。ねえ、またあの時みたいに、僕に全部委ねてよ」
彼の大きな手が、机の下で僕の膝を信じられないほどの強さで掴む。その指先は、思い出すだけで身体が震えるほど、熱くて激しかった。
――キーンコーンカーンコーン……。
放課後を告げるチャイムが鳴り響くと同時に、僕は逃げるように教室を飛び出した。
だが、そんな僕の焦りを見透かしていたかのように、人気の途絶えた旧校舎の渡り廊下で、黒崎煉が昏い笑みを浮かべてそこに立ちはだかった。
僕が後ずさりするよりも早く、煉の手が伸びてくる。
「っあ……!」
ガシッ、と強い力で手首を掴まれた。
圧倒的な男の力。だけど、痛くはない。僕を壊さないように、加減された力強さだった。そのまま僕は、誰も使っていない資料室へと引きずり込まれる。
バタン、と煉が背後で扉を閉め、鍵をかける音が静まり返った部屋に小さく響く。
背中が冷たい壁に当たった瞬間、煉の身体が僕を閉じ込めるようにぴったりと覆い被さってきた。
「な、んで……なんでお前がここにいるんだよ、煉……っ」
「言ったはずだよ。引き取られた先の家を支配するために、今は完璧な優等生を演じてあげてるだけ」
煉は自嘲気味にクスクスと低く笑う。同じ男子制服のはずなのに、あいつが纏う大人のような色気が、恐ろしいほどの威圧感となって僕に押し寄せる。
「でも、そんなことはどうでもいいんだ。僕がこの地獄を生き延びた理由は、ただ一つ。またお前に会うためだよ」
煉の大きな手が、そっと僕の頬を包み込む。その指先は、僕を愛おしむようにひどく優しく、そして——愛の重さに耐えかねるように、かすかに震えていた。
「律……」
煉の顔が、吐息が触れ合うほどの距離まで近づく。無理やり奪おうと思えばいくらでもできるはずなのに、煉はそれ以上唇を重ねようとはせず、ただ切なそうに僕の瞳をじっと見つめている。僕が嫌がったら、いつでも止める。そんな「大事にしたい」という理性の間で揺れる綺麗な瞳を見て、僕の胸がズキンと跳ねた。
「拒絶しないで。あの保護所の冷たいベッドで、僕にしがみついて泣いていたのはどこの誰? 律、お前の身体は、僕の愛をちゃんと覚えてる……」
熱い熱が、僕の唇にそっと触れる。
命令するような強引さはない。だけど、ひたすら僕を乞うような、優しくて深いキス。僕の口内に優しく、でも逃がさないように滑り込んでくる舌に、さっきまでの恐怖は一瞬で溶け、甘い痺れへと変わっていく。
僕の手は、煉の胸を押し返すのをやめていた。それどころか、あいつの服の胸元を指で掴み、自分からもっと深く求めてしまう。そんな僕の微かな応えを見逃さず、煉の瞳に喜びの火が灯った。
「ああ、律……やっぱり僕のこと、忘れてなかったんだね」
煉の手が、僕の制服のシャツのボタンを一つ、また一つと、壊れ物を扱うように丁寧に外していく。はだけた胸元に、煉の熱い唇が押し当てられた。かつて保護所でそうされたように、今度は痛みを伴わない、だけど絶対に消えない独占の痕を、愛おしそうに何度も何度も僕の肌に刻みつけていく――。
コメント
2件
ありがとうございますまた続き書きます
みぅです🤍🥀 読んだよ……。うわ、この重さ、大好き。 「また会うためだけに地獄を生き延びた」って煉の執着がすごすぎて、吐きそうなくらい胸が苦しくなった。保護所で噛みつきながら誓ったとか、そういう過去があるからこそ、今の優しさと強引さのギャップが刺さる。 律くんの、嫌悪と手放せない気持ちの間で揺れてる感じもリアルで、ちゃんと二人の歪な関係が伝わってきた。続き、絶対読みたいです……。