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サイド黄


もうすっかり夜も更けた。目を凝らせば星も瞬いている。

寝る支度ができたメンバーは、それぞれ2人ずつテントに入っていった。ジェシーと北斗、慎太郎と大我。俺は樹と。

樹「おー、けっこう広いね」

これはスタッフさんが用意してくれたテントだ。すでに寝袋も敷いてある。

樹「あ、そういえば俺最近床で寝たことないな」

「そうなの? まあホテルとかもベッドだもんね」

「どうやって寝よ…」

樹はしゃがむのができないから困る。

「左足をちょっと曲げてから、手をついちゃえば?」

そう言うと、杖を寝袋の脇に置いてから左足を少し曲げ、柔軟体操のように手を床に伸ばすが、届かない。

「…無理」

結局、バタンと倒れ込むように寝転んだ。「いてっ」

「おっと大丈夫?」

「だいじょーぶ」

返事をして布団をかぶる。朝起きるときも大変そうだが、この人は朝が苦手だから起こすのも大変そうだ。

とりあえずゆっくり寝て、今日一日の疲れをとろう。

「ふあ~あ、ねみい…」

思わずあくびが出る。

「えーもう眠いの? 早くね?」

「違うよ、樹がいつも遅すぎるからだよ」

「そう?」

「いーやお前生活リズム狂ってるって笑。今日は俺と合わせて早く寝ること。いいね」

「はーい」

案外言うことを聞いてくれた。まるで弟みたいなところをたまに見せるのも、ほんとかわいらしい。

「……静かだね」

「うん」

もうほかの4人は寝たのか抑えて喋っているのか、自分たちの声以外は何も聞こえない。

「…なあ高地」

「ん?」

ふと樹が俺を呼んだが、そのあとの言葉がない。「どうした」

「……俺、こうやってみんなと一緒にどっか出かけるなんて、思ってもいなかった」

静かな夜に俺と二人しかいないせいか、樹の口からは次々と言葉が出てきた。

「事故のあと入院してたときは、もうこの仕事続けられないかもって何回も思った。でもみんながたくさん見舞いに来てくれて…もし辞めたら、この人たちと会えなくなるって考えたらめっちゃ寂しくなったんだよね」

「うん」

「今さらこんなこと言うのもあれだけど…みんながいてくれてよかった。ほんとに」

それはせっかくならみんなの前で言ったらどうかとも思うが、ただ樹の声に耳を傾ける。

「これから先もずっと、この5人とじゃないと意味がないっていうか…そうじゃないと続けられる自信が俺にはない。思ってたより、メンバーの存在って……」

耳元で響いていた低めの声が途切れる。横を見ると、上を向いた樹の横顔に、キラリと光るものが流れた。それが涙だと気づくのに数秒かかった。

「……樹…」

「メンバーの存在って、自分で思ってたよりでかいんだな。もうそれは、たぶん俺の人生にとって必要不可欠になってる」

樹の言葉ひとつひとつが、溶け込むように心に落ちてくる。

「…はあ、ちょっと語っちゃった。もう寝るわ、おやすみ」

寝返りを打ち、背中を向ける。もう喋らないらしい。

「おやすみ」


どこからか、さっきは聞こえなかった虫の声が聞こえてくる。

俺は、樹を起こさないようにそっと立ち上がり、テントを出た。

空気は冷たく、つんとしている。見上げれば満点の星。というか、今まで都会の空しか見たことがないから、これが今までで一番きれいな星だと思った。

さっきの樹の言葉を思い出す。

——この5人じゃないと続けられる自信がない。メンバーの存在は、人生の中で必要不可欠——。

本当にそれを痛感したんだろうな、と感じた。

もしあのときドラマの撮影で6人が集まらなかったら。

あのときジェシーが5人を呼び止めなかったら。

あのときデビューできなかったら。

あのときの事故で樹が助かっていなかったら。

あのとき樹が辞めてしまっていたら。

今ここに、この6人はいない。それは何分の一の奇跡だっただろうか。

俺はいつの間にか涙を流していた。とめどなく溢れてくるそれを、止めることはできない。

こんな話を、メンバーで俺だけしか聞けなかったことは少しもったいない気もするが、俺にだけ話してくれたのかもしれない。すごく、特別なことに思えた。

頬を拭い、踵を返す。

今夜の樹との会話と涙は、誰にも話さないでおこうと決めた。

俺と、樹だけの秘密にしよう。




「樹起きて、朝だよ」

時刻は朝7時半。スタッフさんに、この時間には起きてと言われた時間だ。

肩をたたき呼びかけるが、「んん…」としか反応がない。

「起ーきーろ」

「まだ眠い…あと5分…」

「ダメ、もう時間。早く起きろって」

無理やり寝袋の布団をはぐ。

「寒…」

「ほら起きて」

やっと樹は上体を起こす。でも問題は、ここからどう立ち上がるか。

「俺立てない…」

昨日の言葉とは打って変わって弱音を吐く樹。「なんで?」

「眠いもん…」

何だそれと呆れる。立てない、とは言いながらも、足を布団から出したから自力で立つつもりなのだろう。

少しハラハラしながら、それを見守る。うつ伏せの状態からできるだけ左足を曲げ、腕で地面を押して勢いで立ち上がる。その反動で、身体がよろけた。

「おっ、危ない」

「ん…ありがと。ちょっと待って、杖が」

「いいよ、取る」

置いていた杖を持たせ、テントを出る。すでに4人は外にいた。

大我「お、高地、樹おはよう」

「おはよ」

樹「おはよ…」

北斗「おいおい完璧に寝ぼけてんじゃねーかよ」

ジェシー「AHAHA!」

慎太郎「なんか寝ぐせついてるよ笑。とりあえず顔洗ってきな」

ほかのメンバーはもう支度を整えたのだろう。樹は俺と一緒に歩き出す。

が、まだ夢の中にいるのか数歩行ったところでつまずき、転んでしまった。「うわっ」

「うおっ樹⁉」

樹の声と俺のヒステリックな叫び声を聞き、4人が振り返る。

慎太郎「どうした」

北斗「ちょ、大丈夫?」

慌てて抱き起こす。「大丈夫、だよ…」

ジェシー「どっか打ってない?」

「ん…」

でも、足を押さえているから大丈夫ではないのは一目瞭然だ。

「足痛いんでしょ」

たぶん転んだときに衝撃が走ったのだろう。そっと足をなでる。触っても、関節が固まっているのがわかる。

「ありがと…」

これまでも、足が上がらないせいで転ぶのは何度もあった。街を歩いていて、ほんのわずかな段差でつんのめったり、階段の上りでこけたり、スタジオにたくさん置いてある機材のコードに引っかかったり。

気が滅入っているだろうとは思う。何かしてやれることはないかと考えるが、寄り添うことぐらいしかできない。

「ありがとな高地、もう大丈夫だから」

放り出された杖を拾い、立ち上がろうとする。そのおぼつかない動きを見て、大我が心配する。

「肩持っていいよ」

「いい、立てる」

朝は甘えてきたくせに、今度は強がる樹。

俺らが普通に立ち上がるときの何倍もの時間をかけて、やっと立つ。

ジェシー「よし、一人で立てた」

北斗「えらいよ」

素直に褒めるが、樹は何も言わなかった。

諦めたような、悲しいような色の瞳だった。


続く

6つのカケラ、それぞれのHIKARI

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