サイド緑
もう帰る時間だ。メンバーとスタッフ総出で後片付けをし、車に戻る。
樹をちょうど通路に足が出せる位置に座らせ、俺はその隣に席に座る。カメラは帰りは回らないらしい。
「疲れてない? 大丈夫?」
「ああ」
いつになく淡泊というか、ぶっきらぼうな返事。
「でも楽しかった! またキャンプしたいな」
ジェシー「ねー。こーち、また連れてってよ」
高地「えー」
大我「俺も行きたい!」
北斗「じゃあ俺もー」
高地「ご自分でどうぞ」
ジェシー「AHA!」
ちらっと隣を見やる。樹は窓の外を見ていた。
「…さっきのこと、引きずってる?」
「え? 別に」
「でも…辛そうな顔してたよ」
「そうかなあ」
口角を上げて笑ってみせる。だけど、本当にわかりやすい人だ。
「わかるよ。きっと一人でできないのが嫌なんだよね」
樹の目が少し見開かれる。図星だな、と思った。
「迷惑とか心配かけるのが嫌だから、俺らに頼りたくないの?」
すると、樹はぽつりぽつりと話し出した。
「……杖なしじゃ歩けなくなったのもそうだけどさ…。けっこう色んなことが助けてもらわないとできない。最初は、頑張りゃいけるでしょって高をくくってたけど、結局無理だった。無念っていうか、悲しくて。…いい大人なんだから、他人に頼るのもカッコ悪いし。そうは思ってもやっぱり。ジャニーズなのに、着替えも一人でできないしダンスもできないし。おかしいよな」
「ううん、全然そんなことない。樹はもともとカッコいいから」
俺の必死のフォローも、さっと流される。
「毎回誰かに助けてもらうたびに、『ああ俺はこれからずっとこれなんだな』って思うと、自分に腹立ってくるんだよね。でもできないんだからしょうがない。今は怒りと諦めが混ざってる感じ。こんな無様な自分嫌だなーって」
その暗い思考を止めようと、懸命に言葉を探す。
「……ねえ樹、頼るってどういうことか知ってる?」
「言葉の意味はそりゃ知ってるよ」
「違う、意味を聞いてるんじゃなくて。頼るイコール迷惑かける、って思ってない?」
「…さあね」
ぷい、とそっぽを向く。でも構わずに続ける。
「いいんだよ、じゃんじゃん頼って。むしろ樹には頼られたい。いっつもまとめてくれたり進行してくれたりしてるけど、弟みたいに甘えてくるとこ、みんな好きなんだから、ね」
しばらく沈黙が続いたあと、ゆっくりこっちを向いて、
「……最年少のくせに、生意気な」
ぼそっと言った。でも目は笑っていた。
ふと、樹との会話中、誰も口を挟んでくる人がいなかったな、というのを思い出した。
慌てて車内を見回すと、後ろのジェシーと北斗、それから助手席の大我は爆睡していた。高地は運転しているから寝てはいないけど、ずっと静かだった。
会話が途切れたのを見計らってか、高地が口を開く。
「…最初樹がすげえネガティブなこと言ってたから、心配してなんか声かけようと思ったけど慎太郎が全部言ってくれたわ。だから樹、もうちょっと頼ってみてもいいんだよ? 樹は兄弟が多いから、ちっちゃいころからあんまり甘えてこれなかったのかもしれない。でも俺らならできるだろ? ちょっと不器用でもいいからさ」
「まあ樹は器用だけどね」
高地「アハハ、そうかもね」
「うん…ありがと」
はにかんだ笑顔で言う「ありがと」は、最高に愛おしかった。
「ねえしんたろ、肩かしてー」
俺の言葉を額縁通りに受け取ったのか、帰ってきてから早速これだ。
「はいはいわかったよ、ちょっと待って」
先に車を降りてから、肩を持たせる。
「んしょっ。…こういう車、高いから嫌なんだよね」
「まあロケバスだからね、多少はしょうがない。痛くない?」
「全然」
良かった、とうなずく。
「なぁ慎太郎」
明るい声が響く。
「なに?」
「俺、決めた。助けてほしいときはちゃんと言うよ。メンバーの前でなら、情けなくたって大人げなくたっていい気がする。みんな優しいから、安心できる」
俺はニコリと笑う。
「そっか」
「でもできることは自分でやったほうがいいよね。どうしてもできなかったら、メンバーっていう心強い助け船がいる。俺…この人らなしじゃ生きていけないかも」
からっと笑って言う樹。
やっと気づいたか。
俺が樹やほかのメンバーなしの人生なんて考えられないように、きっと樹の人生にも俺らは必要。
たぶん、そうやって6人の人生は組み合わさってるんだ。
だから何でもできる。ひとりのためなら、何だってやれる。
いつでも頼れよ、樹。
終わり
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!