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さつまいも

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「……私の勝ちね。これで優雅なカフェタイムの目処が立ったわ」
私が宣告した瞬間、桐島が崩れ落ちて、膝をつく――そんな『名探偵の結末』を期待していたのだが。
「違う、違うんだ! 俺は確かに横を通ったが、何もしてない。そんなことより、そこのパティシエを調べろよ!」
桐島が逆上し、震えるパティシエを指差した。
「こいつだ! さっき、厨房から出てきて倒れた爺さんと何か話してたぞ。真っ先に駆け寄って、何かを隠したのもこいつだ!」
「何も隠してませんって! とんだ、嘘のでっち上げです!」
「嘘をつけ! お前、この爺さんと借金トラブルでもあったんだろ」
店内の空気が一変する。野次馬の視線が、パティシエに集中した。
――えぇい、鬱陶しい。
犯人は桐島で確定して、さっさと幕を引くはずだったのに。
私は舌打ちしたいのを我慢して、バッグから二十二枚のカードを取り出した。遠くから微かに、パトカーのサイレンの音が聞こえ始めている。
時間がない。規制線が張られたら、私のモンブランはお蔵入り。
「……いいわ。東洋の盤面が濁ったのなら、西洋の象徴に答えを求めるまでよ」
私は空いている丸テーブルに、大アルカナを扇状に広げた。
――タロット。それは二十二枚の宇宙。
私は無造作に一枚、中心のカードを跳ね上げた。
「――『塔』の逆位置」
私は息を呑んだ。そうか。私の読みがズレていたのは、これが『事件』ではなく、さらにたちの悪い不条理だから……。
「塔の逆位置……。崩壊は止まらない。でも、それは外側からの悪意じゃない。内側から溢れ出した不測の事態による瓦解」
私はパティシエの真っ青な顔を見る。次に、憤慨する桐島の顔を見た。
二人の顔相には、確かに負の色がある。だが、この『塔』が示すような、決定的な『運命の破綻』を招くほどではない。それに、さっきの『木』の香りが、この二人の近くからは一切しない。
私は視線を、さらに低く落とした。
そこには、店の片隅で、何かを両手で握りしめている少年がいた。
彼が私の占術網から漏れていたのは、気配が薄いからではない。彼が、『悪意の不在』という、占術において最も見つけにくい空白地帯にいたからだ。
「ボク……その手に隠しているのは、なぁに?」
少年の肩が、小さく跳ねた。
私はタロットを伏せ、優しく、けれど逃がさないように少年に歩み寄る。
「ほら、早く見せて。救急隊員に、おじいさんの病状を教えてあげないと、死んじゃうかもしれないから」