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【📞不在着信】21:02
【📞不在着信】21:32
【📞不在着信】21:39
【おい電話でろよ!】21:46
【お前卑怯だろ あの男と浮気してたならお前も同罪だ 勝手に別れることは許さねえ 慰謝料払え!!】21:48
【連絡しないなら法的処置を取るからな 俺を怒らせたことを後悔させてやる】22:07
【いいのか?俺は紗那の恥ずかしい写真も持ってるぞ これをネットで拡散したらお前の人生終わりだな】22:08
【このまま返事来なかったらお前の裸体を晒してやるからな!】22:09
【📞不在着信】22:16
【📞不在着信】22:18
【母さんに連絡して知り合いの弁護士に相談することにした】22:46
【紗那の浮気で慰謝料請求してやる】22:47
【今さら謝っても許さないからな!】23:08
【📞不在着信】23:58
【📞不在着信】0:09
【📞不在着信】0:18
*
「それでは総仕上げといこうか」
千秋さんはテーブルの上で両手を組んで私をまっすぐ見つめて言った。
私は彼と向かい合って座り、コーヒーを飲みながらこくんと頷いた。
週末の午後、私たちは今後のことを話し、行動に移すことにした。
「いろいろ助けてくれて、ありがとうございました」
「礼を言うのはすべて解決してからでいいよ」
「あなたに出会えていなかったら、きっと私は今までと変わらない生活だったと思います。だから、そのことのお礼をまずは言います。そしてあの親子と完全に縁切りできたら、またお礼を言います」
「そっか。じゃあ、そのときは寿司でお祝いしよう」
「私のおごりで」
「それは楽しみだ」
千秋さんは好きな寿司ネタが玉子だと言うので、意外に可愛いなと思い、微笑ましく思った。こんな他愛ない話で盛り上がっていたところで、自宅のインターホンが鳴った。
千秋さんは知人の弁護士を呼びつけていた。
千秋さんは玄関先で挨拶を交わし、弁護士の知人をリビングに招いて私に紹介してくれた。
「前から話していた弁護士の川喜多さんだよ」
弁護士の川喜多さん……?
私はひと目見て驚き、言葉に詰まった。
弁護士というにはあまりにも想像と違っていたからだ。黒髪に分厚い眼鏡をかけて、チェック柄のシャツにダボッとしたスラックス。身長は私より少し低いくらいで少し横に丸い体格の男性だ。
「初めまして、川喜多さん。今日はよろしくお願いします」
私は彼に挨拶をしたあと、どうしても気になる箇所に目をやった。
リュックにキャラクターのキーホルダーがついている。
それに気づいた私に川喜多さんは分厚い眼鏡の縁に触れて真面目な顔で言った。
「お気になさらず。趣味です」
なるほど、よくわかった。千秋さんと仲良しなわけだ。
千秋さんは笑顔で彼の紹介をしてくれる。
「彼はこんな見た目でも優秀なんだ。安心していいよ」
「君はいちいち失礼だね。まあ、いいけど」
川喜多さんは千秋さんをじろりと睨んで返す。
何を言われても堂々と切り返すその姿に彼は肝が据わった人なのだろうという印象を抱いた。
「では石巻紗那さん、山内優斗から慰謝料ぶん取って堂々と別れてやりましょう」
分厚い眼鏡を光らせて力強くそう言ってくれる川喜多さんに、私は心の底から安堵した。
「向こうが証拠もなしで慰謝料請求をしてきているので、こちらは山内優斗の不貞と紗那さんへの暴言の証拠を持って正当に慰謝料を請求してやりましょう」
川喜多さんは私が提出した資料をまとめて淡々と説明する。
「また、山内優斗がこれ以上紗那さんへの付きまとい行為ができないよう、こちらもしっかり対応しましょう」
果たしてあの優斗がすんなり引き下がるだろうか。
母親と一緒にいろんな言い訳をしてしつこく追いかけてくるのではないか、そんな気がしてうんざりしながら私は彼に質問をした。
「あの、優斗が私に近づけないようにするなんて、本当にできるんですか?」
「あなたと彼は同棲関係にあったので接近禁止命令の申し立てができます。あなたが脅されている証拠を警察へ持って行き、申立書を作成して裁判所で発令してもらうのです」
「えっ……警察……裁判……?」
そんな大事になるなんて思わなかったので私は怯んでしまった。
すると川喜多さんは表情を変えずに淡々と補足する。
「もちろん最終手段です。そうなる前にあちらの動きを完全に封じてしまいましょう。山内優斗の母は世間体を非常に気にする性格です。また、父のほうは中小企業の部長で問題を大きくすると立場的に困るでしょう」
「そ、そこまで調べて……」
川喜多さんはまるで探偵みたいだなと思った。
タイミングよく私のスマホに優斗の母から電話があった。
私が躊躇していると、川喜多さんが言った。
「スピーカーにして電話に出てください。僕は録音します」
そう言って、川喜多さんはすぐさまボイスレコーダーを取り出し録音ボタンを押した。
私が電話に出ると優斗母の声が高らかに響いた。
『紗那さん、あなた浮気していたんですってね?』
耳をつんざくほどのうるさい声に、私は目を見開き、千秋さんは半眼で険しい顔になったが、川喜多さんはまったく表情を変えず紙にペンを走らせて私に見せた。
【適当に会話してください】
私は言われた通り、優斗母に返事をする。
「私ではありません。浮気をしたのは優斗くんです」
『優斗から聞いたわ。あなたに別の男がいるってね。まだ婚約は解消していないのに他の男といるなんて不貞に決まっているでしょ!』
「都合のいいことを言わないでください。優斗くんが私に出ていけと言って、浮気相手を家に連れ込んだ優斗くんに私はしっかり別れを告げたんです。それで私たちの関係は終わっています」
『またそんなことを言って話をややこしくしないでちょうだい』
「話をややこしくしているのはそちらではありませんか?」
私がやや感情的になって言い返すと、私のとなりで千秋さんが肩を抱いた。
それで少し落ち着いた。
「だいたい、そちらは私の不貞を疑って責め立てるような立場ですか? 実際に不貞を働いたのは優斗くんなのに」
『男と女は別なのよ! 家と夫に尽くすのが女の人生でしょ。男は愛人を持ってこそ甲斐性があるというものよ。男を立てられないような女に幸せなんかないわよ!』
何か言い返そうと思ったけど、こんな会話をしても堂々巡りだ。
あまりにも無駄すぎると思って、私は冷静に優斗母に告げる。
「そちらの価値観を強要されても困ります。私にはそれに応じることはできませんので」
『別れるなら慰謝料を払ってもらうわ。こっちは親戚にも結婚の報告をしているのにその責任も取ってもらうから。あなたがうちの親戚に頭を下げて優斗との婚約をやめることを言いなさい。それが償いよ』
なぜ私がそんなことをしなければならないの!
と思わず言い返そうとしたら、千秋さんが私の頭をなでなでした。
そちらへ気を取られているあいだに優斗母がどんどん話を進める。
『とにかくうちへいらっしゃい。こっちは弁護士に相談しているのよ。逃げられないわよ』
私がまっすぐ川喜多さんを見つめると、彼は真顔でこくんと頷いた。
「わかりました。お伺いします」