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彼に謝罪しに行こう。僕もまた、彼を大事に思うのだから。
僕は、彼の待つ扉を開いた。
「コリエンヌは行かなくてもいいの?」
「どうしてそんな事を聞くのかな…?ドルはティ二と話がしたいんだ」
なんだかチタニーと話すことが随分と久しい気がする。
「話したいのはコリエンヌ。貴方だって同じでしょう?」
「ど、どうかな…」
私は分からなかった。仮に話せる機会があったとして、私から伝えられることはなんだろうか。彼女が私を利用したんだ。私は君を止めようとはしなかった。森で会ったのは君なのか。君はやっぱり、妹さんを助けるためにあんな格好をしていたのかな。
それらを全て彼に伝えられれば、私の気持ちは届くのだろうか。
「チタニーは、私の心を汲んでくれたんだよね」
教会のイスに腰掛ける彼女の元へ、身を屈める。
「うん。コリエンヌは怒ってる?」
チタニーは真っ直ぐな瞳をしていた。小さな足を揺らしながら、私と向き合っている。その姿はやはり、ただの幼い少女そのものだ。未来を見通せる力があって、私を操るような事が出来るなんて、何かの悪い冗談みたいだ。
「ううん、怒るわけないよ。ただ…」
彼女の瞳が私の不安な心に反射しているように揺れている。
「君が本当に未来を見通しているのなら、私がこれからどうなるのかも、分かってしまっているんだよね…?」
私は彼女の手に拳が出来る。それは、聞かなくても肯定だと言うことを分かっていた。
「コリエンヌは…」
私の頬に小さな手が触れる。見上げると、深淵に閉ざされたような瞳があった。
「コリエンヌは今日。殺されるよ」
私は分かっていた。
もし私が、あの写真を見ていなければ、彼女の言葉に頭が真っ白になっていただろう。
「それは…私がどこにいてもそうなる未来かな?」
チタニーは黙って頷く。
場所を変えても、私の死は必ず今日訪れるということ。それは、ぼんやりとわかっていた。
「コリエンヌ…」
彼女は私を見つめてはまた、泣きそうになっている。
「そんなどうして、君が泣くのかな…」
それは未来を告げたチタニーとは、いつもの幼い少女に戻っていた。
「コリエンヌがその覚悟を捨ててくれれば、何か変わるかもしれない…」
まるで懇願するように言葉を告げるチタニー。心を読み取るようなその言葉に、私は驚かされた。
「びっくりだな…未来だけじゃなくて心も読めるのかな?」
「ううん…分からない。でも、コリエンヌの背中が一人、花園から遠ざかっていくのが分かるの」
私の覚悟は動かなかった。彼女の頬から伝う涙を見ても、私の行動は彼女を救うものだと確信していたから。
「私が黒服集団の元へ行けば、この場所に復讐の種はなくなるはずだよね」
私は自分自身に言い聞かせるように言う。
私は、彼女の気持ちを罪に変えたくない。ただ、その気持ちが黒服集団の復讐心を買ってしまっていた。だから、私は彼らの元へ償いに行くんだ。
「どうせ殺されるなら、私だけの犠牲でいいと思うんだ」
彼女が見通す未来で、私が今更、揺らぐことはないんだろう。今はまだ決意が揺らいでいるけれど、きっと数時間後の私はそれを振り払っている。だって、未来がそうなのだから。
「大丈夫、私が君達を守るから」
「それはコリエンヌ。貴方の気持ちを優先したいだけじゃないの」
チタニーは大人びたような顔立ちで言う。今の彼女は、一度覚えた時の恐怖を思い出させる別人に戻っていた。
「どういうことかな…」
彼女は私を捕えるように見つめる。
「貴方は自分が殺されれば、事が済むと思っている。第一に、私たちがそれを許してくれると、救われると思ってる」
彼女は無表情でありながら、声色は怒っているようだった。
「私が皆が、コリエンヌが一人で行くさまを見て何も思わない訳がない」
「それは…」
私は言いかけていた言葉を飲み込んだ。
「それに私は、貴方の行動一つで左右される安い命ではない」
彼女はもう、ただの少女ではなかった。
「それは…」
私は口にしていた。
「貴方が人ではないからですか…?」