「それは…」
私は口にしていた。
「貴方が人ではないからですか…?」
私の言葉に彼女は口を噤む。その様子に、正解してしまったのだと分かってしまった。人ならざるもの。そう、当てはめたくなかったのに…。
「お前の気持ちはエゴそのものだ」
周りの温度が低くなった気がした。
けれど私は、彼女に言葉を告げる。
「人の愛はいつだって、相手への一方的な好意だよ。人は神でもなければ憑依も出来ない。相手の気持ちなんて完全に読むことはできないよ」
私の気持ちがエゴだとしても、それで皆の安全が手に入るかもしれない。未来なんて分からない。ただ、私の分かる範囲で行動したいと思うのは悪いことではないはずだ。
「たとえ干渉で無意味な事かもしれなくても、それが人を思う気持ちだと思うよ」
それはドルにも伝えたい事だった。
「なら、愛と言えばコリエンヌが望む死を、皆が許してくれると?」
チタニーの姿で何者かが嘲笑しているようだ。私はそのどちらにも届くように言葉を続ける。
「許す許さないの話じゃないよ。君が私の気持ちを受けてくれるかどうかだよ」
彼女は黙っていた。けれど、苦しんでいるような表情をしていた。
「私がそれを嫌って言えばどうなるの?」
私はあまりにも素朴な質問に笑い困ってしまった。
「うーん…拒まれたら愛とは呼べないかな。相手に受け取ってもらえて初めて愛になるからね」
私も死にたい訳ではない。でも、彼女の言葉は信じたいし、今の私に出来ることをしたい。皆を守りたいと思う。
私は彼女へ手を伸ばす。
「おいで、チタニー」
彼女はふくれっ面をしながら私の手を見つめている。
「 私の胸に飛び込んでくるのが、そんなに難しいことなのかな…?」
彼女は首を振り、神にも少女にも似つかない声色で話す。
「あなたの胸には飛び込まないよ。私はそうした」
まるで未来を自分の手で決めているような言い回しだ。
「まだしていないよ。君は私が死のうが生きようが生き残る。その運命によって」
目の前の少女がもし…神であるならば、未来を見通す力があるならば私の命は意味の無いものだろう。けれど、私はチタニーを守ると決めていた。
「ええ、そうよ。私は、貴方とは違うもの」
強がる彼女は、今まで以上に人間らしくもみえた。
「貴方は殺される。今日、この日を持って。明日を越えられないの」
殺される自覚はなかった。私は自分が死ぬ姿を、まるで何かの力が加わっているかと思うくらいに想像できなかった。
「いいんだよ、これくらい。愛する人を守る強さは底知れないからね」
仮にチタニーの見える未来を迎えても、私に後悔はなかった。
「なら私のために生きるのは、そんなに難しいことなの?」
私は予想外の言葉に驚いた。私は生きることを望んでいないわけじゃない。
「うーん…私は死ぬつもりなどないよ。ただ、死ぬことに後悔はないだけで」
チタニーは不安そうな顔をしていた。
その表情に、出来るだけ安心を込めて微笑みを返す。きっと、未来が見える彼女には、私の言う事がすべて空虚をまとったように聞こえてしまっているのだろう。
「愛で満たされれば、人は生きる事にさえ無欲になるの」
「満たされることはないよ」
「いえ、欲求が朽ちることもまた満ちることよ」
生きる事を諦める…?違うんだ。私はチタニーの見たものも信じたいだけなんだ。それに、私は大事な人を守りたいんだ。本当はその気持ちに、未来は関係ないのかもしれない。
「愛が満ちれば生死が決まるなんて、そんな簡単な話じゃないんだ」
私は言葉を尽くしてもこの感情は、彼女に伝わらないと思った。
「私はただ、この瞬間に君を抱きしめたいだけなんだ」
私が死ぬのなら愛を伝えるのは、今しかない。
「いいよ、抱かれてあげる」
「おいで、チタニー」
私の手に彼女が触れたのは、確かだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!