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【ジャスティン亡き後・・・二年後】
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メビウス・ホールディングスCEOの松下竜馬がビジネスで利用するヘリコプターは、舞洲にある大阪ヘリポートの人員輸送機(エアロスパシアル式AS355F2)だった
今彼らは「メビウス新築オフィスビルお披露目内覧会」のために、東京の仕事から「メビウスタワービルヘリポート」へ「フリースタール飛行約141分」を過ごし、こちらへ向かっている
新しく建ったばかりの「メビウスビル屋上ヘリポート」ではCEOをお迎えする幹部団が慌ただしく準備をしている、空は快晴だ、しばらくすると空機の姿より先に、プロペラの音が周りに響いた
「来た!」
「いらしたぞ!」
最初は空に浮かんでいた小さな黒い点だったが、今はハッキリとヘリコプターだと認識できるまで近くに来ている、激しい爆音とホバリングの風を受けて、迎えに出ている幹部団全員の髪の毛と、スーツの裾がたなびく
ようやく羽の回転が止まり、ヘリコプターが地上に到着し、一同がホッとした、ヘリコプターからはまず一番最初にタラップを降りてきたのは、粋にダークスーツを着た35歳になった「竜馬」だった
逞しい肩を強調する仕立ての良いオーダースーツは海外産だ、次に降りてきたのは、ここ数年で長身の竜馬の身長をさらに抜いたブラックのスーツで一分の隙もない「最高財務部長の宗一郎」そして、その後から降りてきたのはネイビーのスーツを着た竜馬の従兄弟の「文也」だった
メビウス・ホールディングスは、ここ数年で不況下にあっても躍進を続け、業界では景気回復の輝かしいスターとなっていた、特に宗一郎と竜馬はとても高身長で、今は彼らがかけている、アメリカ空軍のようなサングラスのせいで、三人とも表情がまったく読み取れない
全員、無言で眉ひとつ動かさないが、全身にみなぎる強さと自信がオーラを放っている、三人は戦利品を品定めに来た将軍のように、傲慢とも思えるほどの堂々とした態度でビルの中に入っていった
幹部団は彼らの姿に、ただただ無言で圧倒されていた
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「せ~の・・・」
「よいしょ~!! 」
「よいしょ~!! 」
幹部団が鏡開きの樽に掛け声をかけて蓋を割っている「新オフィスビルお披露目パーティー」では大勢のスタンド花に、取引関係会社の人達でごった返していた
「・・・文也・・・あれは何をやっているんだ? 」
竜馬が文也に聞く、さきほど 「CEOもご一緒に!」と幹部団に言われたが、何か怪しげだったので竜馬は代わりに宗一郎に行かせた、アメリカで竜馬と同様の月日を重ねた宗一郎も、自分が何をされているのか訳がわからず、周りをキョロキョロ見ながら木槌で蓋をコンッと軽く叩いただけで、あとはずっと突っ立っている
「鏡開きさ、お祝いの象徴といえば、酒樽に木槌で「よいしょ!」の掛け声だよ」
「何のために? 」
目を細めてどうしてもバカ騒ぎをしているようにしか見えないと、竜馬は幹部団から視線を外さず言った
「スポーツの優勝シーンや、著名人の賞受賞のニュースで見たことない?日本ではお祝いする時に縁起をかついでするんだよ」
文也は忍耐強く答えた
「縁起とは?」
竜馬が咎める目で文也を見る
「説明するのに日が暮れるよ」
文也が肩をすくめた、文也は竜馬と宗一郎と同じく、やはり有能そうな雰囲気を出してはいるが、二人ほど人を怖がらせるような感じではない
「それにしてもすごく身長が高くなったね、竜ちゃん・・・みんな竜ちゃんと宗一郎がデカいから、ビビってるよ」
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レンコン 煮付け
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感心したように改めて竜馬を見る
「アメリカの食い物がよかったのかもな」
フッと竜馬がセドリックとマミーを思い出して微笑んだ、慈しむことと、育む事にかけては、天性の才能がある女性「セドリックマミー」にかかれば何でもデカくなる
現にマミーの畑のきゅうりはスイカほどある、文也がスマホを見ながら竜馬に言った
「竜ちゃん、今日うちに来れる?・・・母さんが今夜食事に寄ってくれてって今LINE来た」
「気持ちはありがたいが、あまり慣れ合うつもりはないよ、文也 」
竜馬は最後に母の妹の久美子に会った時のことを思い出していた、あの頃の久美子は、犯罪者となった姉の子供、竜馬と文也をあまり関わらせたくなかったのだろう
現にアメリカに渡ってから、ホームステイ先のカルロスに連絡していたがどうか知らないが、竜馬がアメリカにいた時は久美子他、竜馬の身内からは一切連絡がなかった
ところが竜馬が日本で事業を起こそうとした時、どこから噂を聞きつけたかは知らないが、突然叔母の久美子(文也の母)から竜馬の会社宛てに手紙が来た、その手紙には家計が苦しいから文也を雇ってほしいと書かれていた
最初はどうしようか悩んでいた竜馬だったが、実際文也を雇ってみたら彼はよくやってくれた、新天地、日本での事業興しにやはり現地、地元に詳しい文也は、良い竜馬の相談相手になり、シカゴと日本を行き来する厳しい環境の中、泣き言一つ言わずに竜馬と宗一郎のためによく働いてくれた
そして、太陽のような希望のジャスティンを亡くした竜馬の心を、明るい性格の文也は癒してくれた、文也は見事メビウスのために献身的に働き、正々堂々と竜馬の信頼を仕事で得た、そして宗一郎と満場一致の意見の元、縁故採用でも企画部長としてメビウス幹部の地位を、文也は見事勝ち取ったのだった
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竜馬と文也は「新・メビウス・ビル」の最上階、住居施設の目も眩むほど広々とした、ペントハウスに足を踏み入れた
文也はバカでかいアイランドキッチンが設置された台所を物珍しく眺めていた、ペントハウスは40階全てを占めていたが、ジャスティン邸で暮らしていた竜馬からしたら、期待はしていなかったが、はるかに小さかった
このペントハウスは、西日本の一等地としては広く、ジャスティン邸と比べれば、猫のひたいほどだった
竜馬は磨き上げられた大理石の床を歩き、窓から見渡せる大阪市内と、その向こうの淀川に目線を走らせた、建物の外見はありきたりの無機質で、ジャスティン邸のような歴史を感じられる装飾の佇まいではない
当たり前だが、建っている場所もオフィスビルだけに、辺りは繁華街で騒々しく、下層階にはオフィスが入っていて、上層階の住居部分に上がるメイン玄関には、コンシェルジュが配置されているため、常に人の目を気にしないといけない都会の物件だ
さらにペントハウスに入るには、顔認証システムと暗証キーが必要で、警備面では申し分がないが、いささかめんどくさい、竜馬はジャスティン邸のような、ドアから出ると季節の花が咲き乱れる素晴らしい庭園 ・・・すぐ森と土の匂い・・・ミシガン湖から吹いてくる季節の風を感じられる場所が好きだった
文也は竜馬がここがいいと言えば、すぐに住まいとなる部屋の窓からの眺めと、室内の美しさにはしゃいでいた「キング不動産ペントハウス担当の狭間」が竜馬に聞いた
「お気に召されましたか?そうでなければ、他にいくつか良さそうな物件がございます」
「売り手の仲介屋はどこだった?」
と竜馬は聞いた
「もちろん、全てキング不動産でございます 」
それはすなわち、取引をしている不動産の一部は、すでに竜馬のシカゴの共同経営者で、竜馬にもマージンが入ることを意味していた
「このビルに空きは出ているのかい?」
「公には埋まっております、オフィスビルも、住居部分も、テナント部分も・・・ですが、あなた様がどこを使うとおっしゃられる事によって状況は違ってまいります」
「竜ちゃーん!!すぐそこに公園があるよ!ドックランも見える~ 」
文也がはしゃいで言う
「彼が一人で住めるような場所はあるかな?」
竜馬が狭間に聞く
「35階が「独身者様向けのコンドミニアム」になっております 」
「ええ?竜ちゃん!でも・・・こんな高い所・・・悪いよ 」
文也がびっくりして目を丸くする
「富と権力を誇示するのは住まいを見せることが一番なんだよ、文也 」
竜馬は窓の景色を見ながら言った、その冷たい言葉に文也はゾクッとし・・・思わず何も言えなくなった
「CEOのおっしゃる通りでございます」
狭間が深々と頭を下げる
「それにここにお前を住まわせると、もっとこき使えるだろ?」
竜馬はそう文也に微笑んで、キング不動産の狭間と条件の話に移った
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竜馬達がリムジンから買収した会社の前に降りた途端、玄関口には多くの群集が集まっていた、その群集の中には、それぞれの色のプレートを掲げた人たちがいた
竜馬の後にリムジンから降りた文也の目に 「人員削減反対!」 と書かれたプレートが目に飛び込んできた、良く見渡してみると、会社入り口付近にただならぬ表情の人々が集まっていた、竜馬達に買収され、人員削減リストラされて不満を持つ、元工場員達が争議行為ストライキを起こしているのだ
「人員削減反対!!!」
「買収反対!! 」
「首切り屋は帰れ! 」
口々に叫び、入口に押し寄せる群衆をガードマンが抑え、必死に竜馬達と距離を取ろうとする、その騒ぎを聞きつけ、通行人や子供達でさえ、その会社の玄関を取り巻く抗議団体を、不安げな様子でいている
みんな、それぞれプラカードを手に持ち、憎しみの目を・・・会社に入っていく竜馬達に向ける
「り・・・竜ちゃん・・・ 」
文也が竜馬の後に続き、彼らを見て心配そうに言う
「怯むな、僕たちは何も悪いことをしていないし、ヤツらは騒ぐことしか出来ない」
竜馬が群集を無視して颯爽と玄関に入っていく、文也も慌ててそれに続いた、怒りの熱量が人を呼ぶようで、通りの向こうからも何事かと人々が 集まってきていた
「首切り社長め!! 」
「俺たちの会社をのっとって、バラバラにするつもりだ!」
誰かが大声で叫んだ、最後に宗一郎がその群集をスマホで撮影して言った
「念のため・・・だな 」
この頃の竜馬は多くの人々から「プロの人員削減リストラ専門家」と呼ばれ 「松下竜馬は人々の職を削減することを生業として財を成してきた人物だ」 と噂されてきた
その噂を聞いた竜馬は鼻で笑ってこう言った
「当たらずとも遠からずだな、僕は依頼された会社の将来のためになることを望んでいるだけだ 」
コメント
1件
うわあ、一気に2年後…!ジャスティン亡き後の竜馬、すごく大人っぽくなったけど、あのペントハウスで「ジャスティン邸の庭やミシガン湖の風を思い出す」シーンがすごく切なかったです。富と権力を誇示するところと、心の隙間が対照的で…。文也との軽いやりとりも、竜馬が少しずつ人との関わりを許してる感じがして好きだなあ。そして終盤のリストラ反対デモ!「怯むな」って言い切る強さと孤独さ、両方感じます。続きが気になります!