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中編
◇政治的意図はございません
カーテンの隙間から漏れ出す白い光に,目を覚ます。
日本は冷えた空気に震えながらも,起き上がった。
「ん~…よく寝た…」
昨日あれ程夕寝をしたのに,意外と眠れるもんだ。ぼんやりとした脳内でそんなことを考えながら,ベットから足を下ろそうとしたその時___
「痛っ!」
ぐに,と何かを踏みつける嫌な感覚と共に,甲高い悲鳴が上がる。
「あ,アメリカ君!?」
「…うぅ…」
何故か,アメリカが床に転がっていたのだ。いや,正確に言えば,寝ていたのだ。
「…あっ!ご,ごめんなさい!いや…おはようございます?あ,あぁ,すぐ退きます!」
日本に踏まれて目を覚ましたのだろう。アメリカは酷く動揺していた。
「…おはようございます,どうしてそんな所で寝ているんですか」
「え…あ,あぁ,気にしないでください…」
アメリカはひどく怯えて答えようとしない。日本は少し強く尋ねた。
「どうしてですか」
アメリカは申し訳なさそうに答えた。
「…やっぱり,同じベッドで寝るのは…嫌だろうなって…」
「…だから,床で寝たんですか?」
「…はい…」
日本は内心ため息をついた。寝床を共にするのが嫌じゃないかと配慮して…までは分かる。だからと言って,誰が床で寝よう?せめて椅子に座れば良かったのに…しかも,この底冷えしたボロボロのホテルで。
「…アメリカ君,引け目を感じることはありません。貴方を匿うと決めたのは僕なんですから。」
日本は未だに座り込んだままのアメリカの手を取り,立たせた。
(馬鹿だ…)
アメリカはこれでもかと言うぐらい冷えていた。手を伸べておいて,その冷たさに思わず自分から離してしまいそうだった。
「こんなに冷えてるじゃありませんか…」
日本はそのままアメリカをベッドに押し込み,布団を掛けてやった。
「あの,ごめんなさい…」
「謝られても困りますよ。貴方が凍えて死んでしまったら,誰が責任を取るんですか?」
「…日本さん,です」
「…そうですよ。今回は僕も配慮が足りませんでした…すみません。とにかく,今は体を暖めて下さい」
「…はい…」
ベッドに押し込まれたアメリカは,心地良さそうに目を細めた。
「眠かったら寝ても構いませんよ。僕は仕事に行きますから,大人しくしていてくださいね」
アメリカは返事をせずに,こくりと頷くと,夢の世界へと沈んでいった。
…全く,目の離せない子だ。
日本はやれやれとため息をついた後,時刻を確認した。
「僕は仕事に行かないと…」
日本は,布団の中で穏やかに寝息を立てて眠るアメリカに布団を掛け直してやり,部屋を後にした。
…一体,これからどうしよう。
日本は,電車の中で揺られながら,そんなことを思っていた。
昨夜,一人の少年を匿うと決めたが,改めて考えてみると……とても,まずい状況だ。まず,未成年,家出,同室,料金…色々な問題がある。仮にそれらがばれなかったとしても,その後は?自分が出張期間を終え,家に帰らなければならない時,彼をどうするんだろう。まさか,行く先までは連れて行けまい。だとしたら…見捨てるのか?いや,見捨てるんじゃない。元々,一時的に匿うだけなのだから。…だからと言って,彼をこの街に一人で放っておくのも危ない。あの危機感の無さだ,すぐに悪い輩に騙されてしまうだろう。
「…あ~!」
日本は考えるのを止めた。考えても仕方がないからだ。きっと,何とかなる!今は仕事!無理矢理に気分を切り替えて,不安の渦は心の奥底にしまった。とりあえず,ホテルに戻ってから考えよう…。
電車が停まる。
未来の自分に全てを任せて,日本は電車を後にした。
見知らぬ天井。
自分が知っているのは,白くて,薄暗くて,生活感のない天井だけ。
「…どこだよ,ここ…」
アメリカは静かに起き上がると,辺りを見回した。カーテンから白い光が漏れて,床に一筋の光の線を作っている。段々,思考がクリアになる。
そうだ,自分は,家出をしてきたんだ。…ここは,自分の家じゃなかったんだ。
思い出して,アメリカは,安堵と共に,とてつもなく大きな恐怖を抱いた。
逃げてきてしまった。逃げてきてしまった。あの,恐ろしい家から。恐ろしい親から。何もかもを置いてきぼりで。
アメリカはその事実に狼狽えた。今まで,何事も無いように,息を殺して生きてきたのに。自分はとんでもないことをしでかした。すぐに帰りたい…いや,帰らないと。早く帰って,謝らないと!昨日の自分は,まともじゃなかった!
アメリカは焦って,部屋を飛び出そうとした。けれど,踏みとどまった。
…日本さんに,なんて言おう?
大人しくしていてください。そう言った彼の顔が,脳裏にこびりついて離れない。一夜限りでも,お世話になったのに,何も言わず去ってしまうなんて。失礼にも程があるんじゃないのか。
アメリカは悩んだ末に,メモを残すことにした。
『お世話になりました。家に帰ります。迷惑をかけてすいませんでした。』
短く,簡単にメモを残すと,今度こそ部屋を飛び出した。一刻でも早く,家に帰りたかった。後先なんて考えなかったが,そんなことより,早く帰らなければならない。アメリカはそう思った。
部屋を飛び出し,階段を駆け降りる。途中で足がもつれて転びそうになるが,体勢を立て直して再び駆け降りる。一階まで降りると,エントランスを突っ切っり,ホテルの外へと続く自動ドアを前にした。そのドアが開ききるまでの時間すら惜しかった。落ち着かず,アメリカは身体を揺らした。そんなアメリカを,スッタフのドイツは不思議そうな顔で眺めていた。アメリカそのは視線を気にしなかった。ドアが鈍い音を立てて開くと,アメリカはすぐにホテルを飛び出した。
カッと太陽の日差しが突き刺さる。アメリカは再び走り出した。ホテルの周りには意外と人がいて,そのさまを不思議そうに眺めている。
…そういえば,駅までの道が分からない。ふと,アメリカは立ち止まった。家出をしたとき,電車でできるまで遠くに逃げてきた。その後,どこか入れそうな所を探して彷徨っていたから,駅までの道をしっかり覚えていない。
誰かに,聞かないと。アメリカは辺りを見回し,てきとうに暇そうな人に声をかけた。何だか不思議そうな目でこちらを見てきたが,その人は駅までの道を教えてくれた。
「ありがとうございます」
その場を離れた後も,背中に視線が刺さっているような気がした。先程とは打って変わって,アメリカは怖くなった。見られている。自分は,すべてを見られている。悪いこと,誤ったこと,おかしいこと。すべてを見られている。
その視線が,自分を責め立てるように感じた。無数の視線が針となって,アメリカをい抜く。段々呼吸をするのが難しくなって,アメリカは立ち止まる。視線は更に集まった。アメリカは,立っているのがやっとだった。視界が暗くなったり明るくなったりして,耳の辺りに蓋をされたみたいにぐわぐわした音が聞こえた。誰かに話しかけられたような気がしたが,アメリカは人々を押し退け,また歩き出した。
…あとどれぐらい歩いたら駅に着くだろう。まだホテルを出たばっかりだ。きっとこれから,気が遠くなる程歩かなければならないだろう。
家出なんて,しなければ良かった。昨夜はあれ程まで家に帰ることを嫌ったのに,今は後悔と罪悪感と情けなさで満たされている。
…少し走りすぎたかもしれない。すっかり重くなってしまった体を引きずって,アメリカは歩みを進めた。
「やっと終わった!」
とある会社のビルから出てきた日本は,大きく伸びをした。
「あ~…空気美味しい…」
ちょうど,仕事が終わり,出張先のビルを後にした所だった。
「さぁ,早く帰らないと…」
本当はもう少し,仕事から解放された多幸感を噛み締めていたかった。けれど,部屋に置いてきぼりのアメリカを心配して,日本はすぐに帰りの電車を確認することにした。
電車はすぐに来た。日本はまた電車に揺られながら,考え事をした。
…ホテルに戻ったらどうしよう。ずっとこのままだとよくない。とにかく,話し合わないと…
日本は一日中,どうすべきか考えていた。仕事中はアメリカのことは考えないようにしていたが,やはり,ことあるごとに顔が浮かぶ。
そういえば,彼はまだご飯を食べていないはずだ。昨日は惣菜パンを買っていたから,お金は多少持ってるかもしれない。けれど,彼のことだ。何かしら引け目を感じて,食事をとっていないかもしれない。
戻ったら,まずはご飯を食べさせてやらなくては。日本は,昨日の彼の笑顔を思い浮かべた。
もぬけの殻。
ベッド,ユニットバス,クローゼット…どこにもいない。いや,もしかしたらエントランスか食堂かもしれない。日本は部屋を出ようとした。そのとき,視界に一片の紙切れが入った。それは,無地の四角いメモ紙のようなものだった。
『お世話になりました。家に帰ります。迷惑をかけてすいませんでした。』
メモの内容を読み取った日本は,静かに部屋を後にした。
追わないと,アメリカ君を。
コメント
8件
初コメ失礼します…!! めちゃくちゃ描写美味いですねっ!! フォロー失礼します!!

続きが気になります!!

日本さんはどうするんだろう…
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