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< pnside >


診察室の前の椅子に座ると、背中が少しだけ汗ばんでいた。

今日で二回目の再診。

一回目より落ち着いていると思っていたのに、呼ばれるのを待っている間にじわじわと緊張が上がってくる。


三年ぶりに再会して

そのあと家に帰って

夜に何回も思い出して 眠れなかった。


……いや、元々眠れなかったからここに来たんだっけ。


看護師さんがカルテを持って出てきて、柔らかく名前を呼ぶ。

同時に診察室のドアが少し開いて、中から静かな気配が漏れてきた。

彼がいる診察室だけは独特な雰囲気をまとっているような気がした。


rd「……どうぞ」


その声だけで、胸の奥がきゅっとなる。

昔より落ち着いてるのに、少しだけ優しくなってる気がした。


椅子に座ると、先生は俺の顔をちゃんと見る。

見られてることに気づいた瞬間、視線をそらしたくなるけど、そらしたら逆に変に思われそうでそのまま耐えた。


rd「最近はどう?」


pn「……えっと、まあ、その……」


pn「ちょっとだけ、眠れなくて」


自分で話し始めて気づいたけど、息が浅い。

先生はそれに気づいたのか、少しだけ前のめりになる。


rd「前から?」


pn「……最近、ちょっと」


rd「不安?」


pn「……うん」


自分の声が小さく聞こえた。

三年前もこんな風に質問されて、全部拾ってくれて、全部受け止めてくれた。

あの頃は病気のせいで心のどこかが壊れてて、先生に向かって全部投げてた気がする。


でも今は大人になってしまって、簡単には甘えられない。

言葉を選ぼうとして、逆に言えなくなる。


rd「図書館の仕事、疲れてない?」


pn「……なんで分かるの?」


rd「前に言ってたよ」


rd「本の匂いが落ち着くって」


pn「覚えてたの……?」


そう言った瞬間、心臓が跳ねた。

言わなきゃよかった気もする。

でも、言えてよかった気もする。


先生は少しだけ息を吸った。


rd「覚えてるよ。ぺいんとが言ったことは…全部」


その“全部”がやけに重くて、胸の奥まで届いた。

視線を下に落とす。

見られたら顔が赤いのばれそうで嫌だった。


rd「それで、眠れないのは…仕事の疲れから?」


pn「……わかんない。疲れてるってほどじゃないし」


rd「じゃあ…不安の方が大きい?」


pn「……うん。夜になると、いろいろ考える」


rd「どんなこと?」


pn「……言わなきゃだめ?」


rd「全然、言える範囲でいいよ」


その“言える範囲で”の言い方が、昔と同じだった。

逃げ道を作ってくれる言い方。

だから余計に言えなくなる。


pn「……夜になると…三年前のこと思い出す」


rd「三年前の……入院の頃?」


pn「……うん」


あの頃の自分は壊れてた。

先生がいなきゃ生きてられなかった。

でも今は違う。

独りで歩けるし、働けるし、生きられる。

それでも、三年前の何かが夜だけ蘇る。


pn「別に、暗い気持ちになるとかじゃないけど … 少し、落ち着かなくなる」


rd「気持ちの揺れは悪いことじゃないよ、大丈夫」


rd「大人になって環境が変わると、よくあるよ」


先生は優しく言う。

その声が落ち着いてて、聴いてるうちに呼吸が整ってくる。

やっぱりこの人の声は落ち着く。


rd「眠れない時は、どんな感じになる?」


pn「……考え事が止まらない」


rd「考え事?」


pn「……先生のこととか」


声に出した瞬間、一気に熱が耳に広がった。

先生の指が、机の上で少しだけ止まった。


rd「……俺の? 笑ヾ」


pn「忘れてたわけじゃないから……なんか、思い出すのは普通じゃない?」


rd「普通だよ、普通だけど……思い出すの、嫌?」


pn「嫌じゃない…」


嫌どころか、また会えた日からずっと浮かんでる。

でもそれは言えない。


先生はすぐに続きを話さず、少しだけ沈黙を作った後、穏やかに声を落とす。


rd「ぺいんとは頑張り屋さんだね」


その一言で頭が真っ白になった。

なんでそんな言い方するの。

そんな声で言われたら、期待するじゃん。


……期待、したら…だめなのに。


pn「……別に、普通だよ」


rd「普通じゃないよ、沢山努力したね」


視線を合わせられなかった。

胸が温かくて、苦しくて、ちょっと泣きそうになる。

大人になったはずなのに、先生の前だとすぐ揺れる。


rd「眠れない日はまた来ていいよ。遠慮しなくていいから」


pn「……うん」


rd「図書館も、無理はしないこと。気持ちが沈む日があったら、ちゃんと伝えて?」


pn「……考えとく」


rd「うん、それでいいよ」


優しい声だった。

医者の距離を守るはずなのに、線が少しだけ揺れてる気がした。

でも俺の方がもっと揺れてる。


診察が終わり、椅子から立つとき、先生は静かに名前を呼んだ。


rd「ぺいんと」


その声だけで胸がじんとする。

三年分の静けさが一気に溶けるみたいだった。


rd「次も、話聞かせて?」


pn「……うん」


部屋を出ても、足が地面についてないみたいにふわふわする。

これ以上踏み込みたい。

でも踏み込んだら壊れそう。


だから今日はここまで。

次の診察で、また少しだけ近づきたい。

近づけると、いいな。

…… 近づけないかもしれないけど。






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