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俺は、今まで体験したことのないスピードで、台風の中心……『ハリケーンアイ』に突入するかのように、吹き荒ぶ旋風の中に飛び込み、その中心まで突き進んだ。
俺は、背中に生えている十本の鎖を二メートルほどの長さに伸ばすと、左足でブレーキをかけながら着地した。
足の皮が剥がれるかと思ったが、身体能力が向上していたおかげか……それは免れた。
俺はミノリ(吸血鬼)の安否を確認するために目を凝らしながら、こう言った。
「待たせたな、ミノリ。待ってろ、今この力でお前の『強欲の姫君』としての力を封印してやるからな」
その直後、俺は自分の目を疑った。
なぜなら、ミノリ(吸血鬼)は眉間にシワを寄せて、爪を噛みながら、正座をしていたからだ。
例の妖精も正座をしていたが、こちらは余裕の表情を浮かべた状態で腕を組み、ミノリの番が終わるのを待っていた。
両者がこの渦の中心でやっているのは……。
それは、白と黒の石を交互に壁面に打ち、相手の石を挟むと自分の石の色に変わり、最終的に石の多い方が勝ち……という単純ながらゲームとしての複雑さはコンピューターでも未だに解析不可能なボードゲーム。
____通称……『オセロ』だ。
そんな『オセロ』をしている両者を見ているうちに、いても立ってもいられなくなった俺は、その間に割って入った。
「おい、お前ら。ここでいったい何をしてるんだ?」
「おや、来たんですか? 全然気がつきませんでした。いったいどうやってここまで来たんですか? というか、少しイメチェンしてませんか?」
例の妖精は、そう答えたが……俺は、それには応じず、ミノリにこう訊いた。
「おい、ミノリ。お前、その姿のままで大丈夫なのか? それ、すごくやばい力なんだろ?」
「……………………」
「なあ、おい」
「…………るさい!」
「え? なんだって?」
「うるさいって言ってるのよ!! さっきから何なのよ! あたしが集中している時に、のこのこやってきてジャラジャラ、ジャラジャラと! 正直、不愉快なのよ! あたしたちの勝負の邪魔をしに来たの? それとも寂しくなったの? ふざけないでよ! あたしたちは今、本気で戦ってるのよ! この勝負の結果次第で、あたしたちの旅がこんなところで終わるかもしれないのよ! あんたはそれでいいの? あたしたちと旅をしたくないの! ねえ、お願いだから邪魔しないでよ! あたしはあんたたちと一緒に旅がしたいのよ! そして、こんな呪われた力なんかと、おさらばして普通の人間と同じように暮らしたいの! あんたは、そんなことも分からない無能なの? じゃあ、もっといい脳みそに改造する? ねえ改造する? しないわよ! バカッ! できるなら、とっくにしてるわよ! でもそんなの嫌なのよ! あんたはあんたのままでなきゃ、イヤなのよ! 理解してよ……。そうじゃないと、あたしは……あたしは……!」
俺は今にも泣き出しそうなミノリを無言で抱き寄せると、ふわふわでサラサラな白い髪を優しく撫でながら、こう言った。
「お前が一番、俺たちのことを思っていてくれたんだな。安心しろ、俺は変わらないし、みんなもあれでお前のことを考えてくれている。だから、余計な心配はするな。この勝負に負けたとしても、そこで始まってもいない旅が終わるわけがない。そんなことが本当にあるのなら、俺がなんとかする。だから、今は少し落ち着いてくれ。あと、色々気づけなくて、その……すまなかった」
彼の言葉を聞いたミノリは、何がおかしいのかは分からないが、笑っていた。
「ぷっ……ふふっ……」
「ん? 俺なんか変なこと言ったか?」
溢(こぼ)れかけの涙を指で拭いながら、ミノリは俺の顔を見た。
「その、ふふっ……あんたが本当に……クスッ……どうしようもないバカだってことが分かったから、つい」
「そ、そうか」
「ええ、そうよ」
なんだかミノリに、からかわれているような気がしたが、いつものミノリに戻ってくれたことの方に思考がいったため、あまり気にならなかった。
俺はミノリを抱きしめたまま、耳元でこう囁いた。
「それで? 戦況は、どうなってるんだ?」
こういう時の切り替えの良さは、自分でもすごいと思った。
しかし、今はあの妖精に確実に勝つ方法を考えることの方が先決だ。
まず初めにすることは状況の把握と作戦会議……だよな? そんなことを考えているとミノリが状況報告をした。
「あたしは白で、あいつが黒。悔しいけど、あたしの方がやや劣勢よ。でも角は全部あたしが取ったから、安心して」
「そうか……なら、次の一手で終わらせるぞ」
「え? あんた、何言ってるのよ。あいつ、結構強いのよ? 分かってる?」
「そんなことは関係ない。それにあいつらはお前が作った渦のせいで身動きが取れない。今は、かろうじて結界で防いでいる状態だから、この勝負を早く終わらせた後、お前の力をこの鎖に封印しないいけないから、これ以上、時間をかけるわけにはいかないんだよ」
「それもそうね……って、あんた、いつのまにイメチェンしたのよ」
「それはいいから、とりあえず俺に任せてくれないか?」
「はぁ……分かったわ。でも、無茶はしないようにね」
「ああ、分かってる」
その後、俺はミノリを俺の背後に座らせた。
俺は、白の石を一つ取ると、ボードに近づいていった。
それと同時に妖精が、こう言った。
「あなた、もしかして……吸血鬼型モンスターチルドレンでも勝てない私に挑むつもりですか?」
「ああ、そうだ。あと先に言っておくが、お前は次の一手で確実に終わる」
「この私が……ですか? いやあ、面白い冗談ですねー。あは、あは、あはははははー」
「さて、それは……どうかな?」
その瞬間、妖精から雑念が消えた。
妖精の目は、獲物を警戒しつつも攻撃の機会を窺う『ビーストアイ』になっていた。
そんな中、俺は一つの可能性を信じて、前に進む。
これは単なる『オセロ』でもなければ、遊びでもない。
名付けるなら、そう……『ガチバトル』だ。
俺は必ず勝たなければならないが、逆に言えばただ勝てばいい。
そうと分かれば恐怖など恐るるに足らない。
さあて、かっこよく決めるとするか!