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「母さん。……今のは、ないんじゃないか」
自分でも驚くほど冷めた声が出た。遠ざかる彼女の背中が、絶望に震えているのが見えた。
母さんは下町育ちらしく、悪気なく土足のまま人の心に踏み込んでくる。だが、今の言葉は「お節介」で済まされるレベルじゃない。
「子どもは、納期を守る製品じゃないんだ。……悪いけど、今日はもう帰るよ」
「陽一、あんた……っ」
ひったくるようにして荷物をまとめる。背後で、美咲が呆然と呟くのが聞こえた。
「お母さん、さすがに言いすぎ。……お兄ちゃんが言い返すなんて、初めてじゃん」
そうだ。僕はいつだって、波風を立てないように「良くできた息子」を演じてきた。
けれど今の僕には、泣きながら飛び出した彼女を追いかけること以上に優先すべきことなんて、存在しなかった。
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