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第四章:罰される恋
天界の法は絶対だった。
特に、“悪魔との接触”に関しては、禁忌の中の禁忌とされていた。
水は呼び出されていた。
天界本庁、青白く輝く神聖審問の間。
「第七軍所属、水。君の行動が天界の法に反すると見なされた」
淡々とした声が、冷たく響く。
椅子に座る高位天使たちは、誰一人として水の目を見なかった。
「……僕は、自分の意思で赤に会いました」
水は静かに、真っ直ぐ言葉を放つ。
「彼は敵です。だけど、彼と剣を交え、言葉を交わす中で、憎しみ以外のものを見つけた。
僕は――彼を信じたい。だから、会ったんです」
「恋をしているのか?」
その一言に、場の空気が凍る。
けれど、水はうなずいた。
「はい。僕は……彼に恋をしています」
その瞬間、白が立ち上がった。
「ちょ、ちょい待ってや!」
「白、控えなさい」
「うるさいな!水君はなぁ、嘘ひとつつかへん奴や!
あの悪魔がどうとかより、水君が本気で誰かを想うなんて、俺……初めて見たんや!」
ざわつく空気。高位の者たちは視線を交わし合いながら、重々しく口を開いた。
「水、その恋は天界の法を破るものと判断される。……罰を受けなさい」
「……はい」
水は俯かず、堂々と立っていた。
その背を、白が支えていた。
一方、魔界では赤が壁に叩きつけられていた。
黒の拳が、容赦なく肩を打ちつける。
「……お前、天使に本気で惚れたんか」
「……ん」
「馬鹿かお前はッ!!」
ドン、と地面が揺れるほどの声に、桃が止めに入る。
「アニキ、落ち着け!」
「落ち着けるか! 赤の立場がどうなるか分かっとんのか!」
それでも赤は立ち上がる。
「俺は……自分の命を燃やしてでも、水を守るって決めた」
「なぁ赤、そいつが裏切ったらどうすんだ」
「殺せばいい。……けど、信じたってことだけは、きっと後悔しねぇ」
黒は黙って赤を睨み続けた。
やがて、ポケットから小さな魔石を取り出す。
「これ、持ってけ。お前が命を懸けるなら……せめて、死ぬな」
赤は目を見開く。
「アニキ……」
「お前が信じたもんを、俺らが支えんでどうすんねん」
桃が笑う。
「まったく、ろくでもない恋だな。でも、そういうの、嫌いじゃないよ」
罰を受けた水は、戦線から一時離脱。
ただし、処刑や記憶封印といった重罰ではなく、「監視下での自粛」という異例の処置だった。
――誰かが、水のために、動いていたのだ。
それが白であり、青であり、そして赤の“仲間”たちだった。
そして、赤はその間も、何度も戦場へ赴いては水の姿を探していた。
「……会いたいな、水」
それは、互いの命を賭ける恋。
禁じられたその愛は、世界のどちらにも居場所を許されない。
けれど赤は、信じていた。
いつか、彼とまた、笑い合える未来が来ると。
たとえ、罰される恋だとしても。