2人で住むにはちょうどいい広さの部屋でさとみくんの帰りを待っている。
もうだだっ広くて1人では持て余すような家じゃない。
ここはさとみくんと俺の家。
俺は何かをするでもなく、
ただひたすらにさとみくんのことを考えてさとみくんの帰りを待っている。
引っ越して来てから数週間が経っていた。
もう長らく制服を着ていない。
いつも一緒にいたはずのクラスメイトの名前も顔も思い出せない。
何が苦しくてあんなに毎日泣いていたのだろうとすら思う。
分からない。
分からないからさとみくんのことを考えて
さとみくんで頭の中をいっぱいにして
それだけでいいのだと自分を信じ込ませた。
時々一人で帰りを待っている間不安になることがある。
帰って来なかったらどうしよう
だなんてそんなさとみくんがするはずもないことを。
信じきれないのは俺の悪い癖。
もう無理に治す必要なんて無いのは知っているけど
さとみくんを疑っているようで気分が悪い。
「早く帰って来ないかな….」
早く抱きしめて貰いたい。
いつもみたいに優しい目を向けて
頭を撫でてキスをして欲しい。
….俺欲張りだ。
いつからこんなに欲深くなっちゃたんだろう。
でもこんな俺でもさとみくんが好きでいてくれるならいいやなんてね。
先程ご飯を食べたばかりだと言うのに横になっていたからだろうか、
眠気が襲ってきて俺はそのまま目を閉じた。
…あんなにしつこかったストーカーが引っ越した途端急に居なくなるなんて可笑しいと気づけなかったのは
きっと毎日が今まで感じたことが無いくらい幸せだったから。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「おはよう莉犬」
くつくつと煮える鍋の音と部屋まで広がってくる出汁の匂い。
優しい声に意識が浮上してつい寝てしまっていた事に気がついた。
「あぇ、おかえりなさいさとみくん….」
キッチンから美味しそうな匂いがしてくるということはさとみくんが帰ってきてからしばらく時間が経ってるということ、。
せっかくだからお出迎えしたかったな。
お邪魔しますじゃなくてただいまって言ってくれるのが嬉しくて毎日欠かさずおかえりなさいを言っていたのに。
「もうすぐでご飯できるから、椅子座って待ってて」
「うんわかった、」
「なぁに莉犬どうしたの」
「…お出迎えしたかった、、おかえりって言いたかったのに…」
俺寝ちゃってたから悔しい。
そういえば嬉しそうな顔をするさとみくん。
「俺は家に帰ったら莉犬が居るってだけで嬉しいよ」
「でも、出迎えなくて寂しかったから明日はおかえりって言ってよ」
「…うん!!」
さとみくんの言葉ひとつで幸せな気持ちに慣れちゃうなんてやっぱり俺単純だ。
「俺先に行ってるな」
部屋を出ていくさとみくんを目で追った後俺も早く行こうとその場を立った。
廊下を歩いてリビングへと向かう。
道中いつもは気にならないはずの部屋がどうしようもなく気になった。
さとみくんの部屋。
入ってはダメだと言われてる訳では無いけれどあまり入って欲しくなさそうだったのを思い出す。
もしかしてさとみくん何か隠してるのかな…?
俺は首を横に振る。
そんなはずないってわかってる。
わかってる、けど..でも、
さとみくんはいまご飯を作ってるところだろうから、
少し中見て、出れば大丈夫…
ドアノブを捻る。
目の前に広がっていたのはなんら代わりない普通の部屋だった。
安堵から息が零れる。
「…あれ、何か落ちてる」
机に積み重なった紙の中から数枚床に落ちてしまっているみたいだった。
せっかくだし拾っておこう。
勝手に入るなんて悪いことしちゃったな。
そんなことを思って紙のそばまで近づいた。
拾い上げた時それが写真紙だと気づいた。
なんの写真だろうなんて表を向けたらそこに印刷されていたのは俺の写真だった。
目線の合わない、
引っ越した時に全部捨てたはずの、
俺の盗撮写真。
「なんで、これ…さとみくんが持ってるの、」
怖くて捨てることすら出来なかったこれは引越しの片付けをしている時全て束ねてごみ収集の来たタイミングで捨てたはずだ。
それになんで、これ。
俺のポストに度々入っていた送り主のないラブレター。
封筒に入る前の文字だけ書いてあるそれは明らかに俺を苦しめてきた物と一緒だ。
他にも色々。
まるでさとみくんがストーカー犯であるかのような物がこの部屋にはいくつもある。
疑うなんてしたくない。
さとみくんはそんなことしない。
いくらそう思っても冷や汗は止まらない。
だってあんなに俺を苦しめてきた犯人が俺を救ったさとみくんだなんてどう考えてもおかしいじゃないか。
きっとそろそろご飯もできる頃だろうし、さとみくんが待ってるのだから早く行かないと
そう思うのとは裏腹に恐怖で足が固まって動かない。
「….あれ。莉犬何してるの」
背後から声がする。
さとみくんだ。
「あ、さとみ….くん」
「莉犬…もしかして気づいちゃった?」
ねぇその気づいたはなにを指しているの。
勘違いであってくれと思いながら声を出す。
絞り出した声は細くて聞こえてるかどうかも怪しい。
「…ストーカーって..さとみくんだったの、」
「そうだよ」
それはもうあっさりと、まるで悪気のないよいに。
「なん、で、?」
苦しくて怖くてその度にさとみくんに縋っては泣いていたのに、
さとみくんは泣いている俺を見てどう思っていたの?
吐いている俺を見て何を感じていたの。
恐怖で身がすくんだ。
目の前にいるのは大好きなさとみくんなはずなのに。
分からない。
どうして。
どうして。
「どうして?…ってそんなの莉犬が好きだからだけど?」
恐怖で胃からものが込み上げてくるような心地がする。
「かわいいね莉犬」
分からない。
さとみくんはこんな人だった?
違う俺さとみくんの事そんなに知らない。
距離を詰めるさとみくんから逃げるように後ろへと後ずさりする。
後ろが壁なことくらいわかってる。
「なんで逃げるの莉犬」
分からない。
俺を苦しめていたストーカーは実はさとみくんでした。
そんな事実を目の当たりにして今俺は恐怖している。
何食わぬ顔で俺の傍にいてくれたさとみくん。
違う。
分からない。
壁に背中がついてずり落ちるようにその場にしゃがみこむ。
腰が抜けるってこういうことかなんて何処か冷静な俺は考えた。
「莉犬。逃げてもいいけど、もう莉犬は俺から離れられないよ」
浅い呼吸を繰り返す。
「そ、な…こと、、ない」
目を合わせるようにしゃがんださとみくんを押しのけて逃げるように部屋を出た。
いつでも学校に行けるようになんてすぐ取れるところに掛けていた制服を持って前住んでいた家へと向かった。
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次で最終話です🙌
今日中に投稿できるかも、
コメント
2件
わぁぁぁあ最高すぎますめちゃくちゃ好きです🥹次回で最終回?!続きがほんっとに気になりすぎるぅぅ!!最初は同棲生活が始まってラブラブで甘々な2人が尊すぎました💕桃くんにおかえりを言うために桃くんだけを考えて待ってるとか可愛すぎてまるで新婚夫婦!! でも…まさかのバレちゃった😵💫桃くんがストーカーだと分かった瞬間の赤くんの恐怖感が伝わってきました!この後どーなるのかすごい気になります!!