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感想ありがとうございます! 最初、リソは悪役キャラで考えてたのですが、話が暗くなっていきそうなので、同類のオタク気質仲間になる方向に変えました😓 今では、それで良かったかな、と思ってます。
最初はリソさんと「喧嘩になるのかな?」と不安に思ってたけれど、LINE交換するまで仲良くなっていて、安心しました。 リソさんは性格も、寿司子さんと似てるみたいですね、可愛いです
控室の空気は、ナイフの刃先でなぞるような緊張感に支配されていた。
「……ちょっと」
低く、地を這うような声が響く。
「誰に断って、アタイのモノマネなんかしてくれちゃってんの?」
アカネとリコを押し分けて踏み込んできたのは、現役トップアイドルのリソだった。派手な衣装を纏ったまま腕を組み、その鋭い視線で寿司子を射抜く。
一歩、また一歩と距離を詰められるたび、寿司子は気圧され、無意識に後ずさった。
「すみません……その、流れで……」
言い訳が喉に絡まり、声にならない。その沈黙を切り裂いたのは、相方のリコだった。
「誰って……プロデューサーからの依頼や! 文句あんなら、あっちに言わんかい!」
リコが、寿司子を庇うように割って入る。だが、リソは鼻で笑い、冷たい一言を放った。
「ちょっと顔が似てるからって、適当にやってるのかと思ったけど?
アタイも五年、必死に積み重ねてきたの。あんな中途半端なダンスや口パクで名前を語られるのは、気分悪いわ」
──適当?中途半端?
その言葉が、寿司子の心の奥底にある導火線に火をつけた。
「……やりたくて、やったんじゃない」
押し殺したような声に、リソが眉をひそめる。
「え?」
「似てるってだけでオファーが来て……最初は断りたかった。私のやりたい笑いじゃなかったから」
寿司子は顔を上げ、リソの瞳を真っ直ぐに見据え返した。
「でも、チャンスだった。相方と一緒に売れるためなら、何でもやる覚悟した!」
寿司子は熱く反撃する。
「やったこともないダンスを何百回も動画で見て、足が動かなくなるまで練習して……ネタだって毎晩朝まで相方と練習した!
中途半端な覚悟で、あのステージに立ってたわけじゃない!」
静寂が訪れた。リソは目を細め、値踏みするように寿司子を見つめている。
「……言うじゃない」
「アイドルを侮辱したコントは謝ります……すみませんでした」
リソは何年も苦労してきたと言う。
そのことを知らなかった寿司子は頭を下げ、素直に謝った。
「ん?コント、面白かったよ。出番直前なのに、笑いすぎてヤバかった」
そのひと言で張り詰めた糸が切れるような音がした。
リソの口角が、ふっと上がる。
「あなたたち、才能あるよ」
予想外の言葉に、寿司子とリコの拍子が抜ける。
「でも! ダンスは全然ダメッダメ! 『レトルトパック・ラブ』のサビは、左手をこう! 足はここで入れ替えるの!」
「えっ、あ、なるほど……ここ、動画だと速度遅くしてもわからなかったところで……」
突然リソが踊り出し、寿司子が真剣な顔でそれに続く。
その光景を、リコとアカネは遠い目をして眺めていた。
「……ウチ、何を見せられとんのやろ」
「ごめんね。うちのバカ、ダンスと歌にこだわりが強すぎて。昔っからアイドルの権化なのよ」
アカネが肩をすくめて笑うと、リコも小さく息を吐いた。
「わかるわ……ウチの相方も、お笑いバカやしな」
「「バカバカ言うなッ!!」」
重なった二人の怒鳴り声。鏡写しのように全く左右対称だった。
寿司子とリソは、一瞬だけ顔を見合わせ、そして、どちらともなく視線を逸らした。
「決めたわ。あんた、今日からアタイの『六番目』のライバルよ!」
リソの宣言に、アカネが淡々と補足を入れる。
「ちなみに一番は養成所時代からの私。二から五番目は、ピンク・レディにおニャン子倶楽部、モーニング娘にAKB48。各時代のレジェンドたちね」
「六番目……また微妙やな。でも他業種からは寿司子が初か」
リコが苦笑いする中、リソはニヤリと不敵に笑い、人さし指を立てた。
「アタイらはアイドルで頂点獲る。あんたたちは、お笑いで頂点獲りなさい!本気のイナリズシ、見せてみな!」
「……望むところです!」
「はい、そこまで!」
アカネが手を叩く。
「次の予定押してるよ!
これでイナリズシのモノマネは私たち公認ね。新曲出たら宣伝もよろしく!
ほら行くよ、バカ!」
「待って!LINE交換してから!」
嵐のように去っていく春の☆湯煎式一行。
控室に、静寂が戻った。
寿司子は、無理やりリソのLINE IDが登録された自分のスマホを見つめた。手がまだ少し震えている。
「……怖かった。でも、ちょっとだけ、嬉しいかも」
「……そら、燃えるしかあらへんな」
その時、壁にもたれかかっていた影が動いた。
「新しいお友達?」
いつの間にいたのか、猫田がクスクスと笑いながらこちらを見ている。
「あなたたち、本当に予測不能ね……」
寿司子とリコは顔を見合わせ、同時に吹き出した。
誰に何と言われようと構わない。
バカには、バカにしか通じない流儀があるのだから。
──続く