テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「ふっ……! ふっ……!! ふんっ……!!」
桃色青春高校が大火熱血高校に敗北してから、一週間程が経過した。
11月も末になり、寒さが厳しさを増している。
「はぁ……はぁ……! くそっ! ダメだ……!!」
試合に負けてからというもの、龍之介は多くの時間をランニングに費やしている。
腕や肩を安静にして疲労を取り除くと共に、課題である体力不足を克服するためだ。
だが、その効果はイマイチのようである。
彼は今も、1人で川沿いを走り続けていた。
「はっ……! はあっ……!!」
(こんなんじゃ、次の大会でもまた同じことの繰り返しになる……!!)
そんなことを考えた、その時だった。
「……龍之介」
龍之介を呼ぶ声が聞こえた。
彼は立ち止まり、声のした方に視線を向けると――そこには不知火が立っていた。
「不知火? お前がどうしてここに……」
「どうしてって……ここは大火熱血高校の近くだぜ? ランニングコースに使っているんだ」
「そうなのか?」
「てかよ、お前こそどうしたんだ? 桃色青春高校からここまで、かなり離れてるだろ」
「ああ……。それなんだがな……」
龍之介は不知火に自分がここにいる理由を話した。
次の大会に向けて、今自分にできることをしているということを。
「……なるほどなぁ」
不知火は今聞いた話を頭で整理する。
そして、2人はしばらく黙ったまま沈黙していたが――やがて不知火が再び口を開いた。
「体力不足なんざ、気にする必要ないんじゃないか? あの日は特別に暑かったし、こっちには控え投手がたくさんいたんだし……。接戦になったら、こっちが有利なのは分かっていたことだ」
不知火はハッキリと言い放った。
龍之介は何も言い返さずに、じっと彼女を見る。
「あ……悪い。変なこと言っちまったな……。アタシだって、最後まで龍之介と投げ合いたかったんだけどよ……。卑怯な勝ち方をして申し訳ないと思ってる」
彼の沈黙に圧されたのか、不知火が謝罪した。
そんな彼に、龍之介は言う。
「いや……別に責めているわけじゃないんだ。卑怯でも何でもない。試合は総合力で決めるものだし、控え投手も立派な戦力だ。俺たちのチームだって、次の大会までにはリリーフピッチャーを育てるつもりさ。……だがな、できれば俺が完投したいという気持ちもあるんだ」
龍之介の口調は力強かった。
彼もまた、悔しく思っていたのだ。
「だから今は練習しかないと思ってる。走り込みでも筋力トレーニングでもいい。とにかくできることは全てやっておきたいんだ。ただ……」
「ただ?」
「体力はついてきているんだが、何かが足りないような気がしているんだ。不知火みたいに、暑さ自体を楽しんだり、ある程度疲れると逆に調子を上げたり……。そんな精神的な技術みたいなものが、俺には足りないような気がするんだ」
「精神的な技術か……」
「そうだ。そうしないと、俺はいつまで経っても半人前だ……。皆を野球部に誘ったエース兼部長として、もっと強くなりたい」
「……」
龍之介の絞り出すような言葉を聞いて、不知火はしばし考える。
そして――何かを決意したように口を開いた。
「……分かったぜ。そういうことなら、アタシも付き合ってやるよ」
「えっ!? でも……」
「遠慮するなって。アタシだって、次の試合までにドンドン調子を上げていきたいんだ。天才の龍之介と一緒に過ごせば、アタシだって得るものがある。そうだろ?」
不知火は照れくさそうに言った。
これで話は決まりだ。
2人は川沿いの道をランニングすることになった。
そして、汗だくになり、足が棒のようになるまで走り続ける。
「はぁ……はあ……! 今日はこのくらいにしておくか……」
休憩を挟みながら走りに走って、汗でびっしょりになった龍之介が提案する。
「そう……だな。さすがに疲れたぜ」
2人は川沿いの土手に座り込むと――ふうっ、と一息ついた。
「不知火……ありがとう」
ふと、龍之介が感謝の言葉を口にする。
「……なんだよ。改まって」
「お前が一緒に走ってくれるって言ってくれて、嬉しかったんだ。やっぱり1人で走るのは辛いからな……」
ランニングに、ミオやアイリを誘っても良かった。
だが、彼女たちは彼女たちでやることがある。
それぞれの元々の部活の練習に加え、野球部の打撃練習や守備練習もある。
投手でない彼女たちに必要な体力レベルはそれほど高くなく、龍之介のランニングに付き合ってもらうのは非効率だった。
「アタシで良ければ、いつでも付き合うぜ。実は、中学時代からずっと龍之介に憧れていたしな……」
「憧れていた? 俺に? ……それなら話が早い」
「へ? ――おい!?」
龍之介は不意に不知火の背後に回ると、優しく抱きしめた。
そして、鼻から空気を吸い込む。
「……や、やめろよ! 今のアタシは汗臭いだろ!?」
「いや、全然気にならないな。むしろいい匂いがする」
「か、からかうなー!!」
不知火は顔を赤くしながらジタバタする。
2人はしばらく暴れまわっていたが――龍之介が次に出た言葉で、動きを止める。
「なあ……。尻をこっちに向けて、上げてみてくれないか?」
「……えっ?」
「不知火は、尻の形も凄く綺麗だろ? それを間近で眺めつつ匂いを嗅いだら、何かが掴めそうな気がするんだ……」
龍之介が真顔で言う。
彼の視線の先には――不知火の臀部があった。
その美しい曲線と丸みを帯びた膨らみは、グラビアアイドル顔負けのレベルである。
そんな尻をまじまじと見る龍之介に、不知火は焦りながら言う。
「お前……よくそんなことを堂々と言えるな……」
「……ダメか?」
龍之介が悲しそうな目で見つめると――不知火は大きくため息をついた。
そして、小さな声で言う。
「分かったよ……!」
「ありがとう、不知火!! では、失礼して……」
不知火の了承を得ると、龍之介は彼女の背後に回り込み、臀部に顔を近付けた。
(すー……)
「ううっ……!」
不知火の顔が真っ赤になるが――決して抵抗はしなかった。
それをいいことに、龍之介は思う存分匂いを嗅いでいく。
こうして、2人だけの秘密特訓は続いていくのだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!