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「お姉ちゃんに殺されるか、私に殺されるか、選んでください?」
二度目の死を強要してくる金髪ツインテール幼女。
その小さな身体から放たれる威圧感は異様だ。にじり寄る彼女から離れたい、そう願ってもガシッと彼女に足を踏まれて微動だにできない。
「リアよ……リスト外の人間殺害は大幅な減点対象になるのぅ」
その片割れ、姉と称する少女が妹を諌めるように再び待ったをかけてくれた。
「たのむ。何でもするから命だけはッッ」
俺は神にもすがる思いで姉の方を見る。
憎きアイドルに対して命乞いをする、自分でもなんて情けないんだと思う。しかも女児相手に。
それでも陳腐なプライドよりこの命が大事だ。何の採点基準だか知らないが、彼女たちが何らかの点数に固執しているのは生き延びるチャンスなのだ。
背に腹は代えられない。
「でもお姉ちゃん……この人を殺さないとヘンタイになっちゃう……」
「落ち着くのじゃリア。どうやら、わしらは長居しすぎたようじゃの」
姉の方が渡り廊下の奥を見つめる。
俺も釣られてそちらに目を向ければ、複数人の生徒が俺達の方を指差してガヤガヤと騒ぎ出していた。
他の目撃者の出現に歓喜しつつ、俺は一番の問題と衝撃をみんなに与えるであろう大志の亡骸に恐る恐る視線を向ける……だが、大志の身体は輝く粒子となって消失しつつあった。
それらの光は双子の妹が持つ『魔史書』に吸収されていっているではないか。
何度目かの信じられない光景、それに目を奪われている間に俺達を発見した生徒たちがどんどん接近して来る。
双子幼女を見て、浮かれ切った笑みを浮かべる野次馬。そんなみんなを目にして冷や汗が浮かぶ。
「あーお兄さん、新しい選択肢です。ここにいる全員が死ぬのと、あなたが黙っているの、どっちを選びます?」
「おぬしが騒いだらみな殺しじゃの」
あどけない顔をにたりと歪め、エグい微笑を向けてくる幼女二人。
俺の嫌な予感は当たってしまった。
少しでも何か喋ったら、この場の全員が大志みたいに死ぬ、と?
この殺人犯を前にみんなに警告すら出せないと?
俺さえ騒がなければ、本当に誰も殺さない保証はどこにある?
「あれ? 2組の鈴木と……はじめまして。見ない顔だけど小学生かな?」
「とっても可愛いね!」
「君たちみたいな子がどうして高校に?」
「その光の粒、それにその本……」
「ねね、もしかして君たちって魔法少女アイドル!?」
俺の緊張が限界点を突破しそうだというのに、周囲に集まり出した生徒たちはご機嫌そうだ。
「鈴木、なんでそんな所に倒れてるんだ?」
「なんか臭いな……ってゲロ!?」
「これって鈴木が吐いたのか?」
「大丈夫か? もしかしてこの子たちの可愛さに、感動し過ぎて吐いたとか?」
「おまっ、それはやべーって笑」
「なんか具合悪そうじゃね?」
口々に状況把握をする生徒たちに対し、二人はアイドルらしい笑みと振り付けを加えて名乗り出た。
「汝乃ロアと」
「汝乃リアです♪」
「わしらは【アイドル研修生】なのじゃ」
「明日の切継愛先輩のライブに備えて、会場の視察にきたのです!」
さっきまでの氷点下より冷たい顔からは、想像できないぐらい温かみの詰まった笑顔を振りまく。その豹変ぶりに驚愕しているのはもちろん俺だけだ。
「うわ! やっぱり切継ちゃんのアンチ・ライヴの前準備なんだ!」
「ぜったい明日は見に行くからね!」
「じゃあ、切継ちゃんのバックで踊ったりする感じ!?」
口々に歓喜の声を上げるなか、俺だけ胃が軋む思いで沈黙を貫く。
「そうじゃの」
「それが【アイドル候補生】のお仕事ですので」
しれっと双子幼女が自らの職務を肯定すると、周囲の生徒たちは狂喜乱舞だ。『かわいい』だの『デビューできたら絶対に応援する』とか『小さいのに頑張ってるんだね!』など、口々に褒めたたえている。その光景があまりにも滑稽で、俺は頭がおかしくなりそうだった。
たったいま大志を殺し、この場にいる全員を殺しかねない相手に対し、無邪気に応援なんて言葉を口にしている。
「ではみなのしゅう、ごきげんようなのじゃ」
「視察はもう十分ですので、みなさん明日のライブをお楽しみに!」
やっと、やっと双子が帰る素振りを見せてくれた事に肩の力がほんの少しだけ抜ける。
そうだ。このまま穏便にどこかへ行ってくれ。
極度の緊張から早く解放されたいと、心と身体が叫び出しそうになる。そんな衝動を必死に抑え、ひたすら息をひそめるように双子の挙動を見送る。
「そういえば、やつを放っておくのも良くないのぉ」
「じゃあ、この鈴木さん? ってお兄さんは、私達が責任を以って面倒見ますので!」
は?
双子の言葉に俺は信じられない思いだった。
二人は俺にだけ見えるように、冷たい笑みでこちらを見ていた。
目だけが笑っておらす、『抵抗したら殺す』と言われている気分だった。
「わしらの事務所に連れて行って介抱せねばならんのぉ」
「具合を悪くしたのも私達のせいです。それなら回復するまで面倒を見ますので、ご心配なさらずに!」
「マジかよ! いいなぁ!」
「俺も吐いときゃよかったぜ!」
「てか鈴木、ガチで大丈夫なのか? 本当に具合わるそうだぞ?」
本気で心配してくれる隣のクラスの友人が、労わるように俺の肩に触れた。
顔の表情筋が上手く動かない。固い頬、重い目尻、だけれど俺がもしここで失敗したら、こいつらは一瞬にしてミンチにされる可能性がある。
だから俺は無理矢理に口角を上げ、友人達に笑みを向けた。
「だ、大丈夫。元々、たた体調が良くなくて、そこでこの子たちを見た衝撃でさ……ハハッ、情けないよ」
「うちの事務所には専属の医師もおるしのぉ」
「護送用の大型車も学校のすぐ傍にとめてありますので、すぐお兄さんに適切な処置を施しますね?」
双子幼女の発言に生徒たちは『いいなぁ』の一点張りだ。
俺からしたらお前らの方がよほど羨ましいよ。
それから人だかりをさばき、俺は幼女二人に連行された。
双子幼女が言ってた事は本当で、校舎のすぐ傍の道にはいかつい軍用装甲車が二台も停められていた。
もちろん俺はその中に問答無用でブチ込まれた。