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俺は精神的にも肉体的にも何の抵抗すらできず、少女たちにされるがままに装甲車へと放りこまれた。


「ッッ痛」


少女の握力とは思えない程の馬鹿力で腕を握られ、その痛みから解放されたと思えば、乱雑に投げ捨てられる。

すぐさま車内の様子を観察するべく周囲を見渡せば、中には4人の自衛隊員らしき人物が厳しい表情で俺を見据えていた。

学校付近にちょっとした銃弾なら平然とはじき返しそうな装甲車が待機していたのにも驚きだったけど、その搭乗員もやはりれっきとした軍所属隊員である事から、自分が何か大きな問題に巻き込まれているのが嫌でも理解させられた。


「何をぼーっとしておる」

「邪魔です」


背後から尻を蹴飛ばされ、盛大に転んだ俺に無関心な視線を送る双子幼女が車内に乗り込んでくる。


「『序列識別No.3107』および『3108』、処分対象【患者ターゲット】の殲滅任務、完了いたしました!」


「ステルスドローン機で確認済みじゃろうが、一応の報告じゃ。目撃者に【幸福因子サイリウム】による記憶操作施術を試みたのじゃが、効果は見られぬ。よって特殊軍法第三十七項にのっとり拘束したのじゃ、オーバー」


「私見ではありますが、この者には強い【絶望因子ブーイング】、もしくは既に【欠望因子アンチズム】が芽生えている可能性があります。至急、処理をすべきかと提言いたします」


いつの間にかゴスロリ服に戻った幼女二人は生真面目な顔で、装甲車に待機していた4人の軍人に良く分からない報告をし出す。しかし『処理』という単語が、俺の命を処理するのだとハッキリわかった。


二人の報告に対し、深く頷きながら前に出たのは、四人の中でも一番年上の男性だ。


「『序列識別No.3107』および『3108』、【患者タゲ】の殲滅任務、御苦労である。こちらのドローン偵察機でも、貴官らの有能な働きぶりは確認させてもらった」


それから偉そうなおじさんは、床に転がる俺を一瞥する。


「特に不確定分子に対する即時判断力と穏便な対応には、満場一致で【秀】と評価しておく。次の【リハーサル】も貴官らの働きには期待している」


「過分の評価、感謝なのじゃ」

「それで、少尉殿。この不確定分子には如何なる処分を下すのでしょうか?」


いかつい迷彩服の自衛隊員オッサンと、ゴスロリ服の双子幼女が厳粛な空気で対面している。そんな光景に酷い違和感を覚えつつ、俺はこの先どうなるかと不安が膨らんでゆくばかりだ。

憎きアイドル候補生なんぞの殺人現場を目撃し、国絡みの何かが背景にあると……自分は触れてはいけない事案に関係してしまったのだ。

訳も分からずにここまで流されてしまったけれど、運のなさに嘆いてるだけではマズイ。



「お、俺はッッ! この事は誰にも言わない! 口が裂けても口外しないと約束します!」


「お兄さん、落ち着いてください。犬猫の保健所があるように、人間を殺処分する政府機関があってもおかしくないでしょう? お兄さんは偶然、そういったお仕事をする人達の現場を見てしまっただけです。なので黙るか、死ぬか、選択してください」


「グゥッ」


ギリッと腕を幼女妹に掴まれ、後ろ手に捻りあげられる。

手、腕、肩へと鋭い痛みが走り、俺には成す術もなくなってしまう。


「まぁそう焦るな、『No,3108』。偵察ドローン機で彼に【出禁】の効果が見られないと悟った瞬時に、我々は即座に彼の身元データを調査した」


上司っぽいオジサン自衛官が双子妹を諭すような口調で言い渡す。


「鈴木吉良きちよし、16歳、身長172cm、体重60キロ、血液型はO。調査の結果、彼は【リスト】には載っていない。そもそも我々の管轄外なのだ」


「……というと?」


「彼は地下・・上層部の管理下にある。条約により地下の管理下にある人間には不干渉条約が結ばれているため、彼に関して我々から何かする権利は有していない。よって彼は解放となる」


地下? 地上と地下でヘンタイを殺す組織は別れているのか?

よくわからないけれど、この人達には俺をどうこうする権利がない?


「そんなッ! 彼が【欠望因子アンチズム】持ちなのは確定的じゃないですか! 街や人々に被害が出る前に!」


「くどいぞ、『No,3108』。これ以上の言動は減点対象とする」


「リア、落ち着くのじゃ。あやつに【中二病】の【患者タゲ】に該当する症状は見られていないのじゃ。は普通の人間と同じじゃの」


「っで、でも!」


「今は待つのじゃ。昇格試験がわしらの最優先事項じゃろ?」


「…………はい、お姉ちゃん」


俺を処分できないのが余程不満なのか、双子妹の方は静かな表情から一変して、俺を凄い勢いで睨んできた。



「『序列識別No.3107』および『3108』、これより護送車に移動し、事務所へ帰還しますのじゃ」


「了解した。御苦労である」


涼しい顔で双子姉が装甲車から出てゆくが、双子妹はすれ違いざまに俺にしか聞こえない声音でぽそっと呟いた。


「必ず殺してやりますから」


幼女からの死刑宣告に身震いしつつも、一応この場で命拾いをした事に安堵せざるをえない。

大きく息を吐き、虚脱感にみまわれる。

へたり込む俺に対し話はまだ終わっていないぞ、と自衛隊員のオッサンが目線を合わせるようにかがんできた。


「我々としては、今日の事を他人に口外しようがしまいが構わない」


その口調はひどく平坦なもので、俺を人間と見てないような侮蔑の籠った眼差しだった。


「いずれにせよ、誰も君の言う事など信じはしない・・・・・・のだろうからな」





「おにぃ、どうしたの? 今日は帰りが遅かったね」

「あ、あぁ……ただいま」


あれから無事解放された俺は真っ先に家に帰宅した。玄関まで出迎えてくれた妹の可愛らしい顔に荒んだ心が癒される。

今日あった事を家族に話すべきか、それとも黙っておくべきか、帰り道の途中で散々悩んだ末の結論は……。



「ちょっと、ゆ、優一のやつと寄り道してた……」

「ふぅーん?」


「な、なんだよッ」

「べっつにー」


他言はしない。家族に相談して、万が一にもそれがアイツらにバレでもしたら何をされるかわかったもんじゃない。

あんなやばい奴らと関わったら、一般的な家庭なんて簡単に闇の中に葬られる。去り際に双子妹が残していった「必ず殺してやりますから」という一言が脳裏から離れない。アレは間違いなく本気で俺に向けた言葉であり、10歳そこらの幼女が口走っていいものでもない。

そんな狂った奴らに、ウチの家族を狙われてなるものか。


「あっ、そうだ。母さんがお弁当の事で話があるってー。台所にいるよ~」

「はいはい」


妹の言う通り台所には母さんがいて、ちょっと不機嫌そうに俺を待ち構えていた。


「あんたはもうッ! ちっちゃな子供じゃあるまいし、何度もお弁当を忘れるんじゃないよ!」


命の危機に直面した後じゃ母さんのお叱りなんてのは、ぬるま湯に浸っているのと同じぐらいに――――温かった。



「どうしてそんなにおっちょこちょいなのかね! しっかりしておくれよ。せっかくこっちが早起きしてお弁当を作ってあげてるんだから、ちゃんと持って行きなさいね! そんなんじゃ、いつまで経っても彼女なんてできやしないよ!」


いつもはうるさい小言にウンザリする俺も、今日はなんだか嬉しかった。そう、自分を心配してくれる人がいるありがたみ、家がこれほどまでに安心できるものなんだなって……今まで気付かなかった幸せに感謝した。



「ごめんって。明日からは気を付けるからさ」


「わかればいいのよ。ほら、さっさと自分の部屋においき! ご飯の支度が終わったら呼ぶから、それまでにお風呂に入っておくんだよ」


「あいよー」


俺は自室に荷物を置き、さっさと風呂へ浸かる。今日一日の悪夢を払うように、脳裏にこびりついた友人の豹変ぶりと、無残な姿を洗い流すように身体を温める。


「わからない事だらけ、だけどわかった事もあるな……」


アイドル研修生はヘンタイを秘密裏に殺しまわってる。そしてそれは、この国の承認を得て【仕事】もしくは【軍務】として扱われている。

俺の中でアイドルに対する疑心と憎悪、何より恐怖が深まった。



魔法少女アイドルの鈴木くん~実は俺だけ男です~

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