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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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「だから別に怒ってないってば!」

プールから上がったあとは、敷地内にある温泉に別れて入り、夕食のBBQ会場で嶽丸と顔を合わせた。


プールに乱入してきた女の人のことで私に嫌な思いをさせたから…と、伊勢海老にアワビ、タラバ蟹といった高級食材を貢いで許しを請う嶽丸。


「さっきめちゃくちゃ怒った顔してたじゃん?」


なぜか嬉しそうに焼きタラバ蟹を差し出す嶽丸を見て、意外にもその通りだったと内心認める。


急に現れた派手めな美女。

嶽丸に遠慮なく擦り寄る赤い爪。

…確実に、嶽丸と過去に関係があった人だとわかった。


そう思った途端、心の中を冷たい何かが埋め尽くして、その場にいたくない…と思ってしまった。


縛り合う関係じゃないのに、嶽丸に触れる白い手がどうしようもなく嫌だなんて、そんなこと言えるはずない。


でも嶽丸が戻ってきて、困ったような甘い顔で謝ってくれるから、その優しさと自分の感情の乱れに逆らえなくて…つい素直な反応をしてしまった。


…可愛いと言って見つめる目が、触れた唇が、どうしようもなく熱くて、意識が飛んだみたいになった嶽丸が嬉しかったなんて…あぁ…どうしたことだろう。




「海が見える場所があるんだと。…ちょっと、行ってみっか?」


終始ゴキゲンな嶽丸と美味しくBBQを堪能したあと、誘われて敷地内を散歩することになった。


地方とはいえ夏休み前のこの季節はちゃんと暑い。


…来週にでもなれば、全国からここに遊びに来る観光客で賑わうだろうな、なんて思いながら…暑いけど乾いた夜風を浴びていた。


ところで、なんで手を繋ぐんだろ…

嶽丸の手は私よりずいぶん大きくて、すごく指が長い…なんて、今更気づく私ってなに…?



「海…見えるかな…」


「うーん…」


繋ぐ手は、当たり前みたいに恋人繋ぎ。


時折握る手に力がこもって、そのたびに少し先を歩く嶽丸を見上げた。


内心…夜海を見に行っても、真っ暗で何も見えないんじゃないかと思う。


「あ…」



わずかに足元を照らす暗がりの中、急に立ち止まる嶽丸の後ろを歩いていた私は、その背中にぶつかるように止まった。


「あぶなっ!ちょっと急に止まらないで…」


文句を言いかけて、口をつぐんだ。



「…なんも見えねーな」


そこにあるだろう海を見つめる嶽丸の横顔が、月明かりに照らされて…とても綺麗だったから。



視線を感じたのか、急にこちらを向いた嶽丸。


その顔は、暗闇でもハッキリわかるほど真剣で、何か大事なことを言おうとしているのが伝わった。



「…みゃーちゃん」



この旅行で、美亜、からみゃー…って、呼び方に変わってる。

ちゃん付けするから、妙に甘くてくすぐったい。



「なに…?」







「本気で、好きです。すごく…」







その言葉は淀みなくて…澄んでいた。


…素直に、正直に言ってくれたのがわかって、途端に心臓がひどく早く鼓動するのを感じる。





「あと半年とか、言わないでくれ…」




暗くてもわかる。すべらかな頬に、涙が伝ってること…



「泣かないで…よ」


言いながら、自分の目に涙が溜まるのがわかる。




「ずっと一緒にいたい。みゃーの笑顔も泣き顔も、俺が1番近くで、1番先に見たい…」



伸ばした嶽丸の指先が、私の頬に伸びる。




「結婚したい…みゃーを俺だけのものに…」




結婚、というワードが出てハッとした。



「わ、私は…結婚とか、できない。幸せには、なれない」



頬に届いた嶽丸の指は冷たかった。




夏の外気は地方でもそれなりに暑いのに冷たい指先は、まるで緊張している証拠みたい…


私に「好き」って伝えることに、緊張したっていうの?

百戦錬磨の嶽丸が…?

遊び人の女好きの、嶽丸が…涙を見せるほど、真剣に伝えてくれた思い。



「みゃー…?」




「私とは、長く一緒にいちゃダメだよ…」




私は1人で生きていかなきゃいけない運命なんだから。



それで良かったのに、なんで嶽丸は…こんなに深く私の心に入ってきてしまったんだろう…




私はその場にしゃがみ込んで両手で顔を覆った。

いつの間にか、私の手もひどく冷たい。



「どした…?」



座った嶽丸が私を腕の中に閉じ込めてくれる。


その香りはいつものホワイトムスク。そして、嶽丸だけの香りをまとって、何より私を安心させるのに…どうして私はここにいてはいけないと思うんだろう。





落ち着くまで、ずっとずっと、私を抱きしめてくれた嶽丸。

宿泊するテントに戻ってからも、ベッドにそっと私を横たえて、宝物を見るような瞳で見下ろしてくれる。


「大丈夫。どんなみゃーでも好きだから」


そう言ってただ抱きしめて、落ち着くように背中をさすり、時折頬に…おでこに優しいキスを繰り返した。


…さすがに、私にだってわかる。


私たちはセフレになんて、なれないってこと。



「私なんてめんどくさいヤツ、やめなよ。嶽丸なら、もっと若くて可愛くて、優しい女の子と幸せに…」


「それ以上言ったら鼻の穴に指ぶっ込む…!」


「…っ?!」


腕の中にいる私と視線を合わせて、嶽丸は決心したみたいに言った。


「12月のみゃーの誕生日には出ていけって言ったよな?悪いけど…みゃーの方から離れたくないって言わせるから」


諦めない…と言いながら落とされた唇へのキスは、深いのに優しくて…私も素直に身を委ねてしまったんだ。


私のポチくんと俺のタマ

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