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夜明け前、港湾倉庫街近くの人気(ひとけ)のない路地。 俺は車を停め、双眼鏡を覗いた。
高梨の家族は、倉庫の一つに監禁されているらしい。
護衛は三人。皆、黒いフルフェイス。警察官の動きにしか見えなかった。
「無茶だな、一人で突っ込む気か?」
背後から声がして、反射的に拳銃を向ける。
神代だった。
「脅かすな……」
「そういう顔をするなよ。助けに行きたいんだろ。だが条件がある」
神代は煙草に火を点け、紫煙を吐きながら言った。
「USBの暗号ファイル、俺に渡せ。開ける手段を持ってるのは俺だけだ」
「信用しろってのか? お前が黒幕じゃない保証は?」
「黒幕なら、とうにお前を消してる」
にやりと笑うその目は冗談に見えなかった。
迷った末、俺はUSBを差し出す。
神代は懐からノートPCを取り出し、複雑なコマンドを打ち込んだ。
数分後、暗号が解け、画面に映し出されたのは内部文書の数々。
そこには“秘密会計”の記録があった。
莫大な裏金が動き、政治家や大企業に流れている。
署長クラスの名前も並んでいる。
そして、ファイルの最下段に表示された一つの名前に、俺は息をのんだ。
「警視庁副総監 北条雅臣」
神代が画面を閉じる。
「……これが黒幕だ。佐藤はこのデータを暴こうとして殺された。高梨の家族をさらった連中も北条の手先だ」
怒りが胸を灼いた。
「なら、すぐにでも救出に――」
「焦るな」神代が遮る。「突入すれば高梨の家族が盾にされる。俺たちだけじゃ無理だ」
「じゃあどうする」
問いかけに、神代はゆっくりと煙草を踏み消した。
「――裏切り者を味方につける。あんたの相棒だ」
高梨。
裏切った男であり、唯一の希望でもある。