ー待ち合わせ当日ー
約束の時間までまだ30分以上もあるというのに
既に公園からそう離れていない
喫茶店でコーヒー片手に
時計とにらめっこをしている。
(色々恥ずいことしてるな、俺…(笑))
1度公園に立ち寄ってみたが幼稚園帰りらしき
幼い親子連れが遊具を楽しんでいて、
長居すれば見つかってしまう可能性も
ありすぐにその場を離れた。
携帯が震える。深澤からのメールだった。
『会うの楽しみだな(笑)
そろそろもう近くで待ってんだろ?
青春を楽しめ(笑)』
ふっかさん…俺で遊んでない(笑)?
『どんなことがあっても
真実を受け止めてやれよ。
幸せな時間を過ごせよ(笑)』
すぐに岩本からもメールが入る。
全くあの二人ときたら…恥ずかしくなる。
紫苑に自分が誰なのか告げていなかった。
言えなかった。ただの俺で居たかった。
アイドルとか、そんなことではなく。
でも、今日こそちゃんと伝えたいと思った。
一人の男として紫苑に向き合いたかった。
コーヒーを飲み干し 店を後にする。
会いたい気持ちが強すぎて、公園近くから
離れられない。ガードレール脇の
公園がよく見える場所に蓮は立っていた。
〖来るの…早いね〗
紫苑が背後から声を掛ける。
「あ……。」
紫苑に会ったらかけようと思っていた言葉達が
冷たい風に消えていく。
うん。
ただ頷くことしか蓮には出来なかった。
〖どうしたの?なんか緊張してるみたい〗
フワッと春の暖かさのような
笑顔を浮かべる紫苑。
「(笑)」
ただただ 穏やかな時間が二人を包んでいく。
〖ね、一緒に行きたいところがあるの〗
紫苑が口を開く。
「いいよ。連れて行って」
2人はゆっくり歩き出した。
街が一望できる
小さなベンチが一つ あるだけの
小高い丘の開けた場所
歩いている時 何も話せなかった。
言いたい事 聞きたいことは山ほどあったのに
何故か言葉にならなかった。
「ここ?」
紫苑を見ると小さく頷いた。
〖私のお気に入りの場所
誰も連れてきたことないよ。
貴方が初めて。〗
「嬉しいな。紫苑の場所。一緒に来れて。」
儚げに笑う紫苑に 胸が苦しくなる。
2人は小さなベンチに寄り添うように
座り合う。
〖ね、聞いてくれる?
前に言った 会うまでの時間のこと…〗
「うん。ゆっくりでいいよ。ちゃんと聞くから。
俺のことも話していい?紫苑の後で。
俺、紫苑に聞いてもらいたい。」
静かに ゆっくりと言葉を紡いでいく。
〖私ね、生まれつき 心臓に欠陥があって
長生き出来ないだろうって…
もともとず~っと小さい頃から
先生から言われてたの。〗
寂しげな瞳が揺れている。
〖歌を始めたのも どうせ長生き出来ないなら
好きな事しよう、って決めたの。
でも歌っていたらなんだか
楽しくなっちゃって…。
そしたら生きたいって欲が出ちゃった〗
蓮は何も言わず 黙って紫苑の言葉を
受け止めている。
〖歌を通じて色んな人に出会って…。
出会った人達の中に私を支援をしたいって
言う人が現れて、色々サポートしてくれて。
アメリカで手術できることになって。
最後に会った日は渡米の前日だったの。
ちょっと怖くなって、病院抜け出して
町の中さまよってて…
なんでか会いたかったの。
たった2回しか会ってないのに…
なんか儚げな瞳をした壊れそうなあなたに。〗
ー続くー
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