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「――我慢だ、我慢」
ルティを抱きかかえたまま、おれは氷漬けになった風の神を融かしている。
「アチャチャチャチャ!! ア、アック様、まだですかああ~」
「もうすぐだ」
「お、おりてもいいですか~……」
「……駄目だ」
「こんな熱いだなんて聞いてないですよぉぉ~」
右手に宿されたアグニの印を使って炎魔法を出したが、以前とは威力が明らかに違う。ルティは抱っこから降りることを拒んだが、抱えたまま魔法を繰り出した結果、彼女も炎の影響を受けてしまったようだ。
元々ルティの場合は火属性に耐性がある。とは言っても、今回は耐えられるギリギリのラインらしい。彼女に耐えてもらいながら、フリーズ状態のラファーガを元に戻した。
しばらくして、
「……くっ、うぅっ、はぁっはぁっはぁっ……ち、ちくしょう。ボクが負けるなんて」
様子を見るに氷漬けにされた以外、特に大きなダメージは負っていないようだ。ルティの方はさすがにのぼせて地面にうつぶせている。
「ラーナ、ルティに水を頼む」
「分かった」
魔石も無事に回収し腰袋にしまった。魔石とは別にラーナが出て来たことにはただただ驚いてしまったが。
「あひゃあぁぁ!? お、溺れ……あれ?」
「違う。水を浴びせただけ。そのまま冷やすから」
「は、はい~」
ルティの方はラーナに任すとして、
「ところで、勝負に勝ったおれに風の印章をくれるんだろ?」
「し、印なら、あの娘にとっくに授けてある。あの子を抱えた時点でお前に付与を……」
「風で浮かせた時にルティに授けていた、か。ちっ、そういうことか」
「……ふん、安心したか?」
神のくせに性格が悪い男だ。アグニが素直すぎたというのもあるとはいえ。
「なぁ、次は氷に行けばいいのか?」
「氷と土は行く必要が無い。ボクとアグニの印があれば、勝負する意味なんてないんだからな!」
「……なるほど。ここから行ける属性は何だ?」
「残念だけどこの先に村なんか無い。あるのは神族が住む町だけだ」
実はそんなに大きくない国なのだろうか?
先へ行かなくていいと言われたが、他の属性の印を得られれば魔法に長けそうではある。
それよりもシーニャとフィーサだ。彼女たちのことがどうしても気になる。フィーサが光の所にいるのは聞いているが、シーニャは一体どこにいるというのか。
もし幻惑魔法にでもかかっているとしたら……。
「光の所に行きたいが、すぐに行けるのか?」
「お前ごとき人間、それも風と火の印だけでは無理だと思うけど?」
「――だったらお前の言うことは無視して土と氷、水も手に入れればいいだけのことだ」
ラーナの介入もあったとはいえ、勝負に負けておきながらこの態度とは潔くない神すぎるだろ。
やはり手っ取り早く力を示して――
「ま、待て! そ、そうじゃない。他の属性は認められなければ与えられないんだ」
「それなら戦ってもらうだけだ」
「違う……ボクとアグニは別だけど、水は闇に行かないと得られない。光の所に行くにはまず闇に行く必要があるんだ。とにかく、全て手に入れるつもりなら闇の所に行けばいい」
「何だ、それならそうと言ってくれ」
教えたくなかったかと思えばそうでも無く、単なるひねくれものというだけだった。
「ボクは何も出来ないし、しない。闇に行くつもりなら向こうから使いが来るさ……」
「それなら、来る前におれが行けばいいだけだ」
火の印と風の印は割とすんなり得られた。しかし元々試練を受けにここに来たわけじゃない。おれとしてはすぐに出て行きたいところだがまずはシーニャを探さなければ。
ルティも完全回復したことだしな。性格に問題があるが、ラファーガにもっと詳しく聞いておくことにしよう。
「なぁ、使いってのはどこから――」
話しかけようとすると、すでにラファーガの姿は無くなっていた。
全く、勝負に負けても不親切なままだったな。そんなことを思っていると、突然ルティの叫び声が響いた。
「キャァァァッ!?」
ん?
また何か大げさに騒いでいるのか?
そう思っていたおれの前に、
「おっ! シーニャ! 無事だったのか!」
気にしていたシーニャの姿があった。
「……オマエと戦う。オマエ倒して、森に帰る……邪神さま、喜ぶ」
姿を見せた直後、シーニャは爪を立てて攻撃してきた。
様子がおかしい。
「お、おい! シーニャ、どうした? 何でおれに攻撃を?」
「黙れ……ニンゲン、倒す。ニンゲン、敵」
まさかシーニャも何かに惑わされているのか?
いやに戦う気があるようだが、おれはシーニャの強さを知っている。
ここはルティも加えて、
「ルティ!? お、おい、どうした?」
「アック様~……毒が~毒が~」
さっきの悲鳴はシーニャにやられたのか。回復系のシーニャではあり得ない毒攻撃だが。
「ニンゲン、消す!」
闇の使いが来ると言っていたがまさか、そういうことなのか?