せっかくシーニャと再会出来たかと思ったら、ルティとは状況が異なる状態で現れた。その姿はどう見ても、初めて出会った時より人間嫌いが全面に出ているように見える。
「はふぅ~あふぅぅ……アック様、毒を何とかしてくだ――」
「いや、大丈夫のはずだぞ? お前、おれに息を吹き込まれて耐性が出来てるはずだろ……」
「そ、そういえばそうだったような……? じゃ、じゃあこの痛みは何でしょう?」
シーニャが毒付与攻撃出来たのは意外だった。それよりも問題は攻撃の素早さだ。気配を殺して近付いて来たとはいえ、ルティに傷を与えるとは驚きだ。
「多分爪のせいだ。エプロンをよく見てみろ」
「爪ですか~? エプロン……あっ! ほ、本当です! 切り裂かれていますっ」
「そのエプロンの素材は分からないが、体に切り傷が残っているのか? あるなら……」
「い、いえいえいえ!! 全く問題ありませんっっ! それはまだ早すぎますよっ!」
何を言っているのか全く不明だな。
ともかく、毒ではなく爪による急襲で違いない。ルティの頑丈さはおれを遥かに凌《しの》いでいて回復速度も上だ。いかに鋭い爪だろうともルティに致命傷は負わせられないはずが、突然の急襲に対処しきれずに爪による攻撃を受けてしまったようだ。
「……ところで、ラーナは?」
「戻っちゃいました」
「魔石に?」
「はい。わたしを水で冷やしてくれまして、そのすぐ後です!」
あの子が出てくる仕組みがよく分からないが、テイムしているのに勝手に戻るとは意味が分からない。以前も気付いたらいなくなっていたし、装備系のテイムは勝手が違うということか。
「ウウウ……!!」
おっと、シーニャの方を気にしなければ。
しかしどうしたものか……?
「アック様、どうされるんですか?」
シーニャを洗脳させている奴が邪神だとすると、この先絶対戦うことになる。そうだとしても出来ればシーニャだけを元に戻して、厄介な所は関わらないようにするべきか。
「シーニャを何とか抑えたいんだが……」
「そういうことでしたらっ! わたしが戦います! その間にアック様は魔石に聞いてみてはいかがですか~?」
「ルティが戦うのか? 相手はいつものシーニャじゃないし、遊びでも無いんだぞ?」
「もちろん分かっていますよ~!」
毒は耐性があったからいいとして、不意打ちを受けたのを気にしているようだ。
「……それなら、少しの間頼めるか?」
「お任せ下さいっ! わたし、久しぶりに本気出したくなりまして!!」
お気に入りのエプロン装備が破られたのも腹が立ったらしい。普段から口喧嘩はもちろん、本気で戦う寸前にまで発展させる二人だ。今のシーニャとルティでどれくらい戦えるのか興味はある。
それはともかく、魔石に聞くとは魔石ガチャをしろという意味のはずだ。困ったことがあったらガチャをするという認識が彼女たちにはある。警戒からかシーニャはおれの方に近づいて来ない。そうなると今が絶好の機会か。
よし、
【Uレア 獣化出来る】
【SSSレア クリティカルリング 獣化専用】
【SSSレア ラジェーションリング 対闇:ダメージ吸収】
むぅ、これは……。少しばかり当たりだろうか。獣化出来るのはいいが言葉は通じて欲しいな。獣化専用の指輪はいいとしても、そうじゃない指輪の使い道が分からない。
とりあえず今は”ラジェーションリング”を着けておく。獣化するのはルティの戦いが済んでからだ。
「ウウウッ!!」
「おっと、ここから先は行かせませんよ~! あなたはわたしと戦うんです!!」
「ドケ、ニンゲン!! 消す、消す……」
「わたしも人間扱いしてくれるんですね~! 正気に戻った時にはいい加減名前で呼んでもらいたいものです」
ルティと闇シーニャは向き合ったままでまだ戦ってもいない。おれの方に向かって来るのを阻止しつつ、ルティは何か嬉しそうに話している。魔法同士の戦いでは無く、どちらも物理攻撃がメイン。素早さでは闇シーニャが勝るが、破壊力はルティに分がある。
止めるべきタイミングを見計らいながらまずは見守るしかない。