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燕
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ここはハートの国。
自らが作り上げた規律を最も重んじた、ハートの妃の息子がクイーンを務める国である。
規律と合理性を重んじる国民性で知られており、時間厳守、規律厳守の精神は国内外で評価が高く、その真面目な気質は王にはじまり民草まであまねく人々に共通すると言われている。
その一方で、キングやジャックの交代スピードが異常なほどに早いと言われている。
「今日は確か新しいジャックが来るんだったか?」
私の王がそう言った。
幼少期より勤勉な子だ。よく、予定を把握している。
同じ王城で働くものであっても、末端にいる者のことまで把握できることが、彼の最たる強みだろう。
この国を任せる者を彼にして正解だった。事あるたびにキングである彼はそう思った。
「ええ、そうですよ。よくご存じですね」
「どんな者なんだ?」
「まだ会ったことがないので分かりませんが、エリザさんとクラブの国のジャックさんが育てた拾い子だそうで」
私は幼少期より顔見知りである彼ら二人の顔を浮かべた。
二人の緑色の服が私に笑いかける絵を浮かべた。
おそらくキングである彼も幼少期より知り合いの彼らの顔を思い浮かべているのだろう。
彼の兄とクラブの国のクイーンとジャックは仲が良かった。
見ていて微笑ましくなる、喧嘩するほど仲がいいと言えるような犬猿の仲。
「ほう、あの二人が育てたのか。期待できるな」
「ええ、そうですね」
私は王の執務室から出た。赤い重厚な扉、黄金の握り玉。いつになっても綺麗なままの部屋。
あの執務室に入ったのはあの子で何人目だろうか。
そして、ジャックが来るのも、これで何人目だろうか。
長い生の中で何度指折り数えたか、もう私はわからない。
待ち合わせの私用の応接室。明るい紅で染め上げたような部屋に母の遺品がちらほらと置いてある。
そこに彼はいた。稲穂のような明るい茶髪が目を引く。
彼がクラブの国のクイーンとジャックに育てられたという少年らしい。
彼の幼少期に会ったことがあるような気がするのだが、その頃とあまり変わっていない。
あの頃のままの明るい顔をしている。彼の生い立ちは相当なものだったはずだが。
彼は、ジャックがおらず困っていた私にエリザさんが寄越してくれた客人でもある。
失礼のないように、そして近づきすぎないようにしなくては。また、彼らを亡くしてしまわぬように。
「初めまして。ハートの国のクイーン、本田菊と申します」
「えっと、存じ上げております?俺はフェリシアーノ・ヴァルガスです!」
「よろしくお願いします!」
「楽にしてくださって構いませんよ」
「私は敬われるべき人間ではありませんから」
「え、じゃあお言葉に甘えて」
聞き慣れた訛り。この訛りは確かスペードの国のものだったはずだが。
彼は紛れもないクラブの国出身者。
だが、この訛りを聞き惑うはずがない。キングである彼も、その兄もスペードの国出身だから。
「その訛りは、スペードの国のものですか?」
「うん!よくわかったね。クラブの国では聞かれたことないのに」
「いえ、どちらかというと訛っているのはこちらの方なんです、お恥ずかしながら。クラブの国もスペードの国もダイヤの国も比較的似ているんですが」
「私の母は東の国出身でして、この国の言語になかなか馴染めず変な癖がついてしまいまして。それが国民にも移ってしまって」
「そうなんだ!でもなんでスペードの国って?」
「アーサーさんの口調と似ておりますゆえ」
「バレないようにした方が良いと思いますよ。キングは幼少期にスペードの国の魔術師大型処刑でお兄様を亡くされて以来スペードの国がお嫌いですから」
彼の兄が亡くなったのは、私のせいだった。
「?キングはハートの国出身じゃないんだ?」
彼の疑問を見るとどうやら彼はキングの選出方法に疎いらしい。それもそうだ。
一般人の知るところではないのだから。
それでも、身近にクイーンとジャックがいたのに気が付かないものだろうか。
「キングはクイーンが適性を見出した者であればどの国の者でもなれます。ジャックと同じですね」
「キングは唯一の肉親である兄君を亡くされ途方に暮れていたところを私が拾い育てました」
彼は可哀想な子だった。だから私は彼に王の適性を見出した。
持たざる者の苦しみを知るものはそれを知らないものより善政を敷ける。私はそう知っているから。
初めから恵まれたものは弱者の身を思いやることができない。
民草のことを考えた治世を敷ける者こそが、ハートの国のキングにふさわしい。
だが、彼の兄が亡くなったのは紛れもなく私の責任だった。私があの人を止めることができなかったから、あの人は私のためにあんなことを。
「そうなんだ。でも同郷のことが言えないなんて残念」
「そうですね。ですが、彼の方でも折り合いがついているかもしれません。今度折を見て話してみましょう」
「それに、彼は聡い子ですから。話していたら気がつくかもしれませんね」
「なんにせよ。まずはキングと親交を深めることが大事ですよ」
「ようこそ。ハートの国へ」
「これからよろしくお願いしますね」
コメント
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読みました!第4話、菊さんとフェリシアーノくんの初対面の空気感がとても好きです。「敬われるべき人間ではありませんから」って言いながらも、控えめに距離を取ろうとする菊さんの不器用な優しさが伝わってきました。それから「彼の兄が亡くなったのは、私のせいだった」の一文にドキッとしました…。過去に何があったのか気になりすぎます。細かい訛りの設定も世界観に奥行きがあって素敵でした。続きが気になります!