テラーノベル
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🐱side
朝が来たのか、夜なのか、
もう分からなくなっていた。
カーテンは開かれない。
時計もない。
それでも、
ふみやが起きているかどうかで時間を測るようになった。
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fmy「起きてる?」
声が聞こえると条件反射みたいに身体が強張る。
ym「……起きてる」
前なら無視してた。
今は返事をしないほうが怖い。
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ふみやは俺を縛らなくなった。
鍵も目の前ではかけない。
fmy「逃げないでしょ」
それだけ言われて部屋に一人にされる。
——逃げられる。
頭では分かってる。
でも足が動かない。
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逃げた先で何をすればいい?
誰に何を説明すればいい?
考えた瞬間吐き気がした。
だから俺はここにいる。
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fmy「今日、外出る?」
ふみやが何でもないことみたいに聞く。
ym「……え」
fmy「散歩。気分転換」
“許可”だとすぐ分かった。
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外の空気は思ったより冷たかった。
足が震える。
人の声。
車の音。
全部がうるさすぎる。
fmy「大丈夫?」
背中に触れられてびくっとする。
でも離れなかった。
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ふみやは俺から一歩も離れない。
腕を取る。
腰に手を回す。
誰が見ても恋人みたいに。
——その認識が少しだけ楽だった。
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fmy「逃げないの?」
小声で聞かれる。
試すみたいな口調。
ym「……逃げない」
答えた瞬間ふみやの指が強く絡んだ。
fmy「だよね」
満足そうに笑う。
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夜。
部屋に戻るとどっと疲れが出た。
身体が自分のものじゃない感じ。
fmy「薬、飲む?」
差し出される。
拒めばどうなるか分かってる。
無言で受け取った。
fmy「偉いね」
その一言が胸に刺さる。
褒められるようなこと何もしてないのに。
でも嬉しいと思ってしまう。
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ベッドに横になるとふみやがすぐ隣に来た。
近い。
息がかかる。
fmy「ゆうまくんさ」
ym「……なに」
fmy「もう戻らなくていいよ」
何に、とは言わない。
でも分かる。
元の生活。
元の自分。
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fmy「ここにいればいい」
囁きが呪いみたいに落ちる。
否定する言葉は浮かばなかった。
代わりに胸の奥が静かになる。
反抗する気力はもう残っていない。
怒鳴るのも、
抵抗するのも、
全部疲れた。
それよりこの人の機嫌を外さないほうが楽だ。
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fmy「俺さ」
ふみやが唐突に言う。
fmy「ゆうまくんがいない世界、考えたことない」
重い。
でも嫌じゃなかった。
ym「……俺も」
気づいたらそう答えていた。
一瞬空気が止まる。
次の瞬間、
強く抱きしめられた。
fmy「それでいい」
低い声。
fmy「それだけでいいんだよ」
逃げ道が完全に塞がった音がした。
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外はまだ存在している。
でも俺にとっての世界はこの部屋とふみやだけ。
それ以外はノイズだ。
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たまに夢を見る。
メンバーと笑ってる夢。
ステージに立ってる夢。
目が覚めると胸が苦しくなる。
でもふみやの腕に触れるとすぐに落ち着く。
ym「……ここでいい」
誰にともなく呟く。
それを聞いたふみやが静かに笑った。
勝者の顔だった。
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反抗していた頃の俺はもういない。
でも完全に壊れてもいない。
壊れかけのまま必要とされる。
それが一番離れられない。
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今日もこの人の声で目を覚ましこの人の許可で息をする。
それが当たり前になった。
たぶんこれが共依存なんだ。
分かっているのに抜け出す気はない。
だってもう戻り方を忘れてしまったから。
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