待ち合わせ場所に美奈子が立っていて、千秋は顔が緩んでしまった。
披露宴からずっと会いたいと思っても誘えなくて、今夜会えることになって待ち遠しくて仕方なかった。
「美奈子」
声を掛けると、美奈子は千秋の方を見た。
「電車降りたってLIN入ったからそろそろだと思ってた」
笑顔で美奈子が千秋に近付く。
お互いなんとなく恥ずかしくて笑ってしまった。
「もう店は予約してあるから。こっちだよ」
千秋が美奈子の背中に手を回した。
美奈子はエスコートされてドキッとする。
何か特別に悪いことをしているわけではないのに、美奈子はドキドキが止まらない。
「毎日LINしてたせいか、こうして会うと新鮮だよね」
「そうだね。千秋君の声聞くのも久しぶり」
LINはできても、電話で話す時間はなかった。
「今度は時間見つけて、電話もしようか」
千秋が言うと美奈子は笑顔で頷く。
「でも私の愚痴、電話で聞いたら嫌になるかも」
「泣くから?」
「ひどーい!泣かないもん!楽しくおしゃべりするもん」
拗ねるように美奈子が言うと、その顔が愛おしすぎて千秋は優しい目で美奈子を見る。
「やっぱり今夜会ってよかった。美奈子を元気にしたかったから」
「千秋君」
千秋の優しさに、美奈子は胸が締め付けられた。
手を伸ばせば捕まえられる距離にいるのに、その距離が遠い。
友達として会っている自分が、甘えて良い相手ではないと美奈子は自分に言い聞かせる。
「美奈子?どうした?」
大人しくなった美奈子を千秋は気にかける。
「ううん。お腹空いてきちゃったから、どんな素敵なお店に連れて行ってくれるのか楽しみだと思って」
「期待してて。本当に素敵な店だからさ」
千秋との会話は本当に癒される。
今夜だけは独身に戻ったつもりで、裕介のことも忘れて楽しみたいと思った。
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