近所から2回、苦情が来た。
1度目はifとひたすら頭を下げて謝った。
2度目はホトケたちもでてきて、今日だけは許して欲しいと懇願した。
あまりの憔悴した5人の姿に、なにかを察したのか今日だけは許してやる、と言われた。
この後のご近所付き合いがこわいな、なんてどこかで冷静な考えが浮かんで、ないこは少し笑えてきた。
いいタイミングだと、5人はいったん休憩することにした。
ホットミルクをいれ、各々黙って口に運ぶ。
「ネット上の事だから信憑性は怪しいけど」
ifがぽつりと言った。
「異世界みたいなとこに迷い込む、ってのはチラホラ見つけた。電車に乗っていたらいつの間にか、とか怪しい人物に着いて行ったら、とか。」
「うん、俺の方にも出てきた。」
「ホラゲーにもあるよ、そういう設定。それで、どうやって帰ってきてるの?」
「来た時と同じくいつの間にか、っていうのが多いかな。でも二度と戻ってこないパターンも多い…。」
ここで、ifはミルクの入ったコップを置いて俯いた。
「まろ…。」
「コメントに、戻ってくる1番の方法は強く戻りたいと思う意志を持つことだ、って書き込みがあった。」
「……。」
「なあ、ないこ。もしかして、アニキは戻って来る気がないんやないかな?」
「!まろ!」
「俺らといるの、嫌になった?だから、戻って来ないのか?」
ifの手は震えていた。
「そんな事、ないだろう。俺らのアニキだぞ?俺らをおいていなくなるなんて、そんなのありえない。」
「そうだよ、ifくん。アニキはただ巻き込まれただけ。僕らが助けて上げないと…ひゃっ!」
額に目をやってホトケが悲鳴を上げた。
額の中で、少女は悠佑の手を取っていた。そして絵の奥へと導くように歩いている。
「アニキ!」
「あにき、ダメ!そっちに行っちゃダメだ!!」
必死で呼びかける。その時。
少女が絵の中で振り向き、5人に向かってハッキリと笑った。
「なあ、どこ行くん?」
悠佑は少女に手を引っ張られていた。
少女は答えず、ずんずんと進んでいく。
やがて湖に到着した。が、少女はそのまま湖のなかに入っていく。
「ちょ…おい、まてって!」
手を掴まれている悠佑は、引っ張られるままに自らも湖のなかにはいっていく。湖は奥に行くほど深くなり、ついに腰の高さにまでなってしまった。
そこで、少女はやっと悠佑の手を離す。代わりに悠佑に抱きついた。
ずっと、いっしょ。
ちょっと目を見張って、少女を見る。少女は悠佑の腰に抱きついて顔を埋めている。
……ああ、俺が来るまで1人だったんやもんな。こんな誰もいないところでずっと1人。寂しかったよな。
悠佑は少女の頭を優しく撫でた。
「そう、ずっと一緒。もう寂しい思いはさせんからな。」
………ニキ!………!………メだ!…………!………!!
戻ってきて!!
ビクッと悠佑の肩が揺れた。
また、声が聞こえた。だんだんハッキリ聞こえるようになってきた気がする。
ここまで来たら、この声は自分に向けられているものであることがなんとなく分かってきた。
誰かが、自分を必死で呼び止めようとしている。
誰が?何から?
時々頭に浮かぶ人影は何?
俺は………どうしたらいい?
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!