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観念した私は、その日の夜、全員に自宅へ来てもらうことにした。
先にひなを連れて自宅に戻った私は、ひなをお風呂に入れて、ご飯を食べさせた。
動物園が余程楽しかったのか、ずっと動物の話をしている。
「ホウちゃんのママはね、いっちゃんっていうの。ホウちゃんはいーっつもいっちゃんといっしょなの」
大輝に買ってもらったぬいぐるみの本体、ホッキョクグマのブースがとても気にいったらしく、ずっとその話をしている。
「ホウちゃん、ママはいるけどパパはいないんだって。ひなといっしょだねー」
ドキッとした。
ひながパパの話をするのは初めてだったから。
でも言わなかっただけで気にしているのかもしれない。
考えてみたら当たり前だよね。お友達にはお父さんがお迎えに来る子もたくさんいるんだから。
それにしても、ホッキョクグマの世界にもシングルマザーっているのかしら?
一人で子育てしているの?
いっちゃんも大変ねぇ……って、実際には飼育員さんがいて、いっぱいお世話をしてもらっているんだろうけど。
違う違う。そうじゃなくて。
ひなの『パパ』の話よ。
ひなにパパがいるって言ったらどう思うだろうか。
今日会ったおじちゃんがパパだと知ったら。
会いたい……よね?
鷹也は大輝の従姉ががシングルマザーだと言うことを千鶴ちゃんから聞いていたようだ。
どのように伝わっているかはこの際目を瞑ることにして、ここで重要なのは大輝の従姉、つまり私がシングルマザーだと知ってしまったことだ。
自分が父親だと気づいただろうか。
ひなは同じ月齢の子供と比べると一回り小さい。いつも三歳児には見られないのだ。だから気づかないかもしれない……。
動物園に行っていっぱい遊んで疲れたのだろう。
夕食を食べ終わることには、うつらうつらとし始めた。
「ひなー。ご馳走様しよう! さ、歯を磨くよー」
「んー……」
ふらふらするひなを抱き上げて、歯磨きを済ませ、ベッドに入れたところで、電話が鳴った。
大輝からだ。
「俺たちはいいよ。今日は行かない。まずは二人で話し合うべきなんじゃないか?」
「大輝……」
「俺は正直ムカついてる。理由はどうであれ、4年も放置していたあの兄貴にな」
「それは……」
「何があったのか知らないけど、ひなって存在がいるんだ。杏子が考えるべきはひなのことだ。ひなにとって何が一番いいのか考えろ。……そうすれば、答えを迷うこともないだろう?」
「大輝…………うん。ありがとう」
電話を切って考える。
ひなにとって一番いいこと……。
言われるまでもなくわかっていたことだ。ここ数日悩んでいた。
鷹也を取り巻く環境が思っていたのとは違ったこと。
私が選択してきた行動は間違っていたんじゃないかって……。
あの時、どうしてもっと話し合わなかったのだろう。
それに、再会したあの夜だって、光希さんのことをちゃんと聞くべきだったのよ。
私は、怖かったんだ。
鷹也が森勢商事の後継者だと知って、その上許嫁がいるとまで言われて、私とは違う世界の人だったという事実が。
それに、私の仕事のことを否定されて……。
ちゃんと聞いて、鷹也がどう考えているのかもっと知るべきだった。
ピンポーン
来た。
インターフォンに鷹也が映っている。
全てを話す時が――――――。