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「あ、こ、これ……」
「え?」
「プリン……。これならあの子も食べられるんじゃないかと思って」
「ひなに? ありがとう! プリン大好きなの。……あがって?」
「ああ……お邪魔します」
冷蔵庫にプリンをしまって、コーヒーを入れる。
「あ、コーヒー入れちゃったけど、そう言えばごはんは? もう8時よね」
「……まだだけど、コーヒーだけでいいよ。今は食べたい気分じゃないし」
「そう……」
私も同じだ。ひなには食べさせたけれど、私自身は食べ物が喉を通らなかった。
内緒で産んだことを伝えるとなると、緊張して空腹も感じない。
コーヒーを出してリビングのソファに座ったものの、何から話せばいいのかわからない。
すると、鷹也の方が先に話し出した。
「ずっと探してた」
「え?」
「ロスに着いて、すぐにメッセージを送ったのに既読にならなくて。杏子、俺をずっとブロックしたままだっただろう?」
「……」
「別れてからブロックされているのはわかっていた。でも、さすがにあの夜を過ごした後なんだから、解除してくれていると思ってた」
「……」
「俺、今でもわからないんだ」
「……わからないって、何が?」
「俺たちが何で別れたのか。俺がマンションを借りる前、杏子に避けられているときがあったことは覚えてる。けど、マンションを借りてからはうまくいってたよな? 少なくとも俺はそう思ってた。杏子は違ったのか?」
うまくいっていたよ。表面上はね。でもずっと不安だった……。
「……不安要素に蓋をしていたの」
「それは俺の実家が森勢商事だということか?」
「それもある……」
「それもある? 他にもあるってこと? なんだよ、他の不安要素って――」
「……光希さんのこと」
「光希? 光希って…………黒島光希のことか? あいつ、杏子にも何かしてたのか⁉」
杏子にも……?
「あの人、自分は鷹也の許嫁だって……」
「はぁ⁉ 黒島が許嫁? あり得ないっ。あの我が儘で自分勝手な女が許嫁? 勘弁してくれよ。想像しただけで吐き気がする」
「……やっぱり」
あの人の虚言だとは思っていたけれど、面と向かって否定してくれるとホッとしている私がいる。
「一体誰がそんなことを杏子に言ったんだ?」
「本人」
「は?」
「会いに来たの。会社で待ち伏せされて……」
「チッ……そういうことか。杏子にまで……。それで、信じたのか? あの女が何を言ったか知らないけど、嘘を吹き込まれて、そっちを信用したのか? 許嫁がいるのに杏子と付き合ってたと? 7年も?」
「だって……実家のことも、私は知らなかったし……」
「それは……学生同士の付き合いで、家のこと言うのは重いだろう? それに……実際重いんだよ、うちの両親が」
「え?」
両親が、重い?
「杏子、俺と入れ替わった時、親父に会った?」
「あ、うん……なんか、お見合いをセッティングして悪かったとか。あのハーレムにいい子はいなかったか? とか聞かれた」
「ハァ……あのくそ親父め! 親父は恋愛脳なんだよ」
「恋愛脳?」
「親父は母さんが好きすぎて、母さんが大学を卒業するなり結婚したんだ。翌年には俺が生まれた。つまり自分は大恋愛の末結婚したから、早く俺にも結婚して、早く子供を作れって言うんだよ。こっちの都合も考えず『結婚!』『孫!』ってうるさいんだ」
「はぁ……」
たしかにそんなことを言ってたわ。
「それで、お見合いにハーレム」
「はっきり言って迷惑している」
「……」
「だから、許嫁とかありえないんだ」
「どうして?」
「結婚は愛する人と結ばれるものだと思っているから。暑苦しい親父だけど、そこは一本筋が通っているんだ。見合いも、単なるきっかけだとしか思っていない。親父はそこから大恋愛が始まることを期待している」
「なるほど……」
「黒島のことは、俺が昔から嫌っているから、勧めるなんてあり得ないよ」
「嫌ってる?」
「さっきも言ったけど、あいつ小さいときからめちゃくちゃ性格悪かったんだ。あんな性悪女、好きになれないって両親だけじゃなく千鶴も知ってるよ」
「え、でもお母様は? 光希さんとすごく仲が良さそうだったけど」
「は? 母親と会ったの?」
「……待ち伏せされてホテルのラウンジに連れていかれたの。そこに『鷹也ママ』って人が現れたわ。一緒にエステに行くんだって、待ち合わせしていたみたい」
「確かに黒島のおばさんとうちの母親は仲が良かったけど、娘の性格の悪さは知っていたはずだ」
「……」
「それに今は母親も黒島家とは縁を切ってるよ」
じゃあ、あのカードキーは?
「まだ何かあるのか? 黒島が原因だったんだろう? この際全部言ってくれないか」
「カ、カードキーを見せられたの……」
「カードキー?」
私はあの時のことを覚えている限りで詳細に話した。
「それは……」
そこで鷹也が言葉を詰まらせた。
やっぱり何かあるの?