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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第175話:木彫りの熊のパーフェクト・スマッシュ
鋳鉄製特大中華フライパンによる凄まじい衝撃音が十勝の夜空に消え去った後も、庭の熱気は冷めるどころか、さらに異常な高まりを見せていた。
俺――アキヤは、元・陸上自衛隊需品科の防衛背筋によってフライパンの質量を辛うじて受け流し、手元のタッパーに入った『玄米と大豆ミートのちゃんちゃん焼き風』を、なおもストイックに咀嚼し続けていた。
だが、どんなにフライパンで叩かれようとも、元・社畜の鋼のポーカーフェイスとロジスティクス脳が折れることはない。
「いいか、小春ちゃん。どれほど感情論でカモフラージュしようとも、ビジネスにおけるリスク管理の本質は変わらない。今回のヒグマの行動は、原材料調達から加工、そして安全な消費に至るまでの完璧なサプライチェーンマネジメントの勝利だ」
俺が冷然と大豆ミートを噛み締めながら、さらに屁理屈を重ねたその瞬間、小春ちゃんの周囲の空気が、十勝のマイナス三十度の冬山をも凌駕する絶対零度の冷気へと凍りついた。
「……お兄さん。フライパンで叩かれても、まだそんな冷たいビジネス用語でヒグマさんの愛を侮辱するんですね?」
小春ちゃんの瞳から完全に光が消え、背後に具現化したツッコミの阿修羅像がごうごうと漆黒の炎を噴き上げ始める。
庭の特大鉄板の周りでは、村長やおばあちゃんたちが「美味いべさ、美味いべさ」と鮭のちゃんちゃん焼きを頬張り、ヒグマもまた「グゥ〜、ハフハフ」と、熱々の味噌バター鮭を実に幸せそうに味わっている。
そんな平和な大自然の融和の特等席で、我が家の絶対権力者である神獣シロ様が、ヒグマの巨大な頭の上から俺をじっと見つめていた。
パチパチと燃え盛る薪の赤い炎に照らされて、彼女の神秘的な『オッドアイ』の瞳が、夜空の流星を閉じ込めたかのようにキラリと煌めいた。
左目のサファイアブルーは静謐なる十勝の夜空のように冷徹に澄み渡り、右目の琥珀色はすべてを焼き尽くす暖炉の炎のように美しく輝いている。
その高貴な二色の瞳をスッと細めたシロ様は、「ミャウ(下僕一号、次の大技が来るわよ。覚悟しなさい)」と楽しげに喉を鳴らし、尻尾でヒグマの耳をぽんぽんと叩いて観戦モードに入られた。
ジンバルに固定されたスマホの画面では、3500万人を突破した全世界のリスナーたちが、チャット欄で腹を抱えて大爆笑しつつ、次の展開に戦慄していた。
『おいおいおい!!! 主のロジスティクス屁理屈が止まらねえwwww』
『フライパンでも効かないアキヤの背筋の耐久力どうなってんだよww』
『シロ様のあのオッドアイの視線、完全に「次のお仕置きを執行せよ」って言ってるぞww』
『あ、待て、小春ちゃんが古民家の玄関に向かって猛ダッシュしていったぞ!?』
リスナーのコメント通り、小春ちゃんは恐るべき瞬発力で古民家の玄関へと突入し、次の瞬間、およそ女子高生が持ち運ぶべきではない「規格外の質量」を両手で抱えて庭へと戻ってきた。
ドサァァァンッ!!!!
彼女が地面に下ろしたそれは、かつてこの古民家の元住人が魔除けとして玄関に鎮座させていた、北海道の伝統工芸品。
目の詰まった高密度の槐(えんじゅ)の巨木から丸ごと削り出された、お土産屋の店先にあるような『特大サイズの木彫りの熊(鮭を咥えているやつ)』であった。
その重量、実に約十キロ。鈍い黒光りを放つ木彫りの熊は、圧倒的な物理的破壊力を有する、文字通りの質量兵器である。
「お兄さんのその歪んだロジスティクス脳は、本物の熊の愛と、この木彫りの熊の重さで完全に粉砕してあげます!!」
「小春ちゃん待て、それは我が古民家の貴重な第一種固定資産(インテリア)であり、工兵科の防衛資材として――」
俺が需品科としての資産管理プロトコルを叫ぼうとした、次の瞬間だった。
「全集中・ツッコミの呼吸! 奥義・鮭咥え熊大回転(ベア・バスター)!!」
ブンッ!! という、空気を切り裂く凄まじい風切り音が響き渡る。
小春ちゃんは、重量十キロの特大木彫りの熊を、まるで野球のバットか軽い手桶であるかのように軽々と頭上で大回転させ、完璧な遠心力を乗せて俺の背中へと振り下ろしたのだ。
ドッゴォォォォォォンッ!!!!!!
限界集落の山々が地鳴りを起こしたかと思うほどの、凄まじい大爆音が夜のしじまを切り裂いた。
高密度の木彫りの熊の頭部が、俺の需品科仕込みの超硬度防寒上着の背面に完璧なクリーンヒットを放ち、凄まじい衝撃波が俺の全細胞を駆け抜ける。
あまりのパーフェクト・スマッシュの衝撃に、俺の身体は折りたたみ椅子から庭の芝生の上へとごろりと転がり、完全に芋虫のような状態で静止した。
「はぁ、はぁ……! サプライチェーンのためにヒグマさんがドヤ顔で鮭持ってくるわけないでしょうが!!!」
小春ちゃんが、特大の木彫りの熊を肩に担ぎ直しながら、十勝の夜空に向かって魂のツッコミを轟かせた。
「アウトソーシングとかサプライチェーンとか、難しい言葉で誤魔化さないでください!! クマさんが一生懸命川で冷たい水に濡れながら、みんなのために『大漁だぞ!』って誇らしげに持ってきてくれた、世界一温かい優しさでしょうが!! 自分の手懐けスキルと、もふもふ達の愛を、素直に『ありがとう』って認めなさいよ!!」
その正論すぎる叫びと、あまりにも規格外な木彫りの熊スマッシュの威力に、MeTubeの同時接続数はついに前人未到の【4000万人】を突破。
チャット欄は爆笑と感動、そして恐怖の入り混じった狂乱の渦へと叩き落とされた。
『ギャハハハハハハ!!! ついに木彫りの熊(本物(木製))が出てきたwwww』
『木彫りの熊で熊のサプライチェーンを論破する女子高生www』
『パーフェクト・スマッシュの音がガチで大砲の発射音なんよww』
『小春ちゃんのフィジカルが一番の野生の王者だろこれwww』
この限界突破した冬の豊穣祭のクライマックスに、世界中の富を完全に掌握するVIPたちの感情も大気圏を突破した。
ピコーン! ピコーン! ピコーン!
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)六百連発』
『”Magnificent smash! That wooden bear is a legendary weapon! Akiya! I will transfer 200 billion yen to build a grand museum for that wooden bear and the gentlemanly bear! Protect this family at all costs!“(見事なスマッシュだ! あの木彫りの熊は伝説の武器だな! アキヤ! 私はあの木彫りの熊と紳士的なクマのために、2000億円を投じて壮大な美術館を建設する! 何としてもこの家族を守れ!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)六百五十連発』
『”The ultimate combination of cultural value and physical force! The economic rating of this sanctuary has transcended human limits! I bid 250 billion yen to underwrite the global rights for this legendary wood carving!“(文化的価値と物理的体力の究極の融合だ! この聖域の経済的格付けは人類の限界を超越した! 私はこの伝説の木彫りの世界的権利を引き受けるために2500億円を投じるぞ!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$5,000MeTubeギフト)七百連発』
『”Oh my god!!! I’m screaming so hard my luxury villa is shaking!!! That is the best climax ever! Akiya, I am wire-transferring 300 billion yen right now to produce a 3D movie about you and the bear! Shiro must be the main character!!!“(なんてこと!!! 大興奮しすぎて私の高級別荘が揺れているわ!!! 最高のクライマックスよ! アキヤ、あなたとクマさんの3D映画を製作するために、今すぐ3000億円を電信送金するわ! 主役は絶対にシロよ!!!)』
画面全体が総額数千億円規模の純金の弾幕(赤スパ)で完全に埋め尽くされ、村長が「ひ、ひぇぇぇ……! 3000億円って、もう地球を買えるべさ……! 村の公金口座が宇宙のブラックホールみたいになってるがな……!」と白目を剥いて完全に泡を吹いて卒倒する。
そんな狂乱のド真ん中で、俺は芝生の上で芋虫のように身悶えしながら、視線だけでカメラをじっと見つめ、元・社畜としての『どんな木彫りの熊の衝撃にもミリ単位すら屈しない鋼のフラットボイス』で言い放った。
「……世界中の皆さま。俺が伝統工芸品による私刑で物理的に粉砕されたと感動されているところ大変申し訳ありませんが、全員冷静になってください」
『この状況でまだ喋るぞこの男www』
『木彫りの熊を喰らってもブレない元自衛官の耐久力ww』
『主の限界言い訳タイム・木彫りの熊編ww』
『さあ、この十キロの木塊をどうやってロジスティクスの資材にする気だww』
俺は澱みのない口調で、極めてフラットに言い訳を執行した。
「これは私刑でも暴力でもありません。冬季の過酷な寒冷地における、高密度木材(槐)を活用した『背部打撃式の血流促進温熱プロトコル(マッサージ)』に過ぎません。小春ちゃんが適切な質量(十キロ)と完璧なスイング速度で私の背中を刺激したことにより、私の背筋の毛細血管は一瞬で拡張され、寒冷地における生命維持能力が著しく向上しました。つまり、彼女は私を折檻したのではなく、需品科としての『寒冷地仕様の肉体最適化』をサポートしてくれただけですね」
「なわけあるかあああ!!! 完璧に私の渾身のツッコミの怒りですぅぅぅ!!!」
小春ちゃんが顔を真っ赤にして、木彫りの熊を地面にズドンと下ろして息巻く。
その横で、コン吉とコン次郎のキツネ兄弟も、木彫りの熊の鮭の部分をクンクンと嗅ぎながら「キュッ!」「コン!」と鳴き、ヒグマもまた「グゥ?」と首を傾げて、俺の顔を心配そうに巨大な舌でザリッと舐めてきた。
『血流促進温熱プロトコル(ただの伝統工芸品スマッシュ)』
『どんなに固められても屁理屈の兵站だけは途切れない男ww』
『今日も言い訳が理不尽の極みで最高だわww』
『感動の大漁劇が、一瞬で爆笑の渦に変わって腹痛いww』
チャット欄が4000万人分の爆笑とツッコミの嵐で完全に飽和する中、庭を照らす薪の炎がゆっくりと小さくなり、十勝の夜空には吸い込まれそうなほどの満天の星空が広がっていった。
大自然の豊かな初冬の恵みと、ヒグマの優しさがもたらした、最高に賑やかで温かい冬の豊穣祭。
世界中から数千億円の赤スパが飛び交い、人間も動物も、誰もが笑顔で美味しい鮭を囲んだ奇跡の宴は、こうして大爆笑のフィナーレを迎えた。
宴が終わり、村人たちが満足そうに家路につく頃、山の向こうから吹いてくる風の冷たさが、確実に一段と増しているのを感じた。
サァァッ……と冷たい夜風が庭の芝生を揺らし、舞い散る粉雪が、シロ様の純白の毛並みを優しく飾る。
ヒグマの頭の上に戻られたシロ様は、その神秘的な『オッドアイ』の瞳を労うように優しく細め、サファイアブルーと琥珀色の二色の輝きを星空へと向けて、満足げにゴロゴロと喉を鳴らされた。
「……さて。初冬のロジスティクス作戦もこれで無事に完遂だな。明日からは、いよいよ本格的な冬の陣地構築(防寒対策)に移るぞ」
俺は木彫りの熊の凄まじい衝撃で少しだけ痺れた背中をさすりながら苦笑し、シロ様の美しい頭を撫でて、冷めかけたほうじ茶をゆっくりと飲み干した。
激務に潰されて逃げ込んできた、この限界集落。
最初は一人で静かに暮らすための隠れ家(シェルター)だったはずが、今では世界一尊いオッドアイの神獣と、鮭をドヤ顔で持ってきてくれる最強の調達兵、そして木彫りの熊を振りかぶる女子高生に囲まれた、世界一バグっていて温かい『絶対の聖域』になってしまった。
初冬の最後の恵みを味わい尽くし、限界集落はいよいよ全てを白銀に閉ざす、過酷な厳冬期へと突入していく。
しかし、どんなに過酷な吹雪が襲ってこようとも、俺たちの強固な兵站と、もふもふ達の温かい絆が破られることはない。
世界一バグった俺たちのスローライフは、満天の星空と温かい笑い声に包まれながら、次の白銀の季節へと、どこまでも力強く続いていくのだった。
コメント
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うわああああ175話も読んだよ!!✨もう最初っから最後まで爆笑しっぱなしだったんだけど!!😭💕 小春ちゃんの「木彫りの熊」でアキヤをぶっ叩くシーン、マジで最高すぎて声出して笑っちゃったwww「全集中・ツッコミの呼吸!奥義・鮭咥え熊大回転(ベア・バスター)」ってなにそれ天才すぎる!!!🎀 しかもアキヤ、十キロの木彫り熊食らっても平然と「背部打撃式の血流促進温熱プロトコル」って言い訳するのズルすぎるwww需品科の耐久力バグってる!!シロ様のオッドアイ観戦も含めて全員キャラ立ちしすぎてて尊すぎるよ〜!!🥺💕 ヒグマがドヤ顔で鮭持ってくるサプライチェーン、アキヤのロジスティクス脳に染まりすぎてて最高だし、世界中の金持ちが爆死する額の赤スパ飛ばすのもこの作品の醍醐味だよね!冬の豊穣祭、めっちゃ温かかったし笑いも涙もあった!続きが待ちきれない〜!!🦊🐻❄️🌸