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黒星
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「美味しいイタリアンの店があるんだけど、一緒に行ってくれないかな」
「そ、そんなことでいいんですか…?ご飯を一緒に食べるだけで」
「俺にとっては『そんなこと』じゃないよ。ただ、さっちゃんとゆっくり話せる時間が欲しいだけ」
ふっと横に傾いた怜治さんの唇から
まるで耳元で囁くような低いトーンの甘い声が流れ、僕の胸の奥は一瞬で熱くなった。
でも、それと同時に、僕の心の中にずっと燻っていた純粋な疑問が溢れ出た。
「あの……今更ですけど、なんでそこまで親切にしてくれるんですか?
その言葉を聞いた瞬間、怜治さんは一瞬だけ、ハンドルを持つ手の動きをピタリと止めかけた。
けれど、すぐに何事もなかったかのように前を向き直ると
「好きだからだよ」と、あまりにも短く、ストレートに答えた。
「へ……?じょ、冗談ですよね?」
あまりの破壊力に僕が助手席で硬直すると、怜治さんは含み笑いをした。
「──どうだろうね?」
怜治さんは片頬だけで薄く笑いながら続ける。
彼は片方の口角だけで薄く、どこか意味深な笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「さっちゃんこそ、どう思う?俺が君を守るのは『ただの善意』以外に理由がないと証明できる?」
試すような問い掛けに、言葉が詰まる。
確かに、僕たちの関係には、連絡先を交換しただけの単なる店員と客
大人と高校生という枠組みでは説明のつかない
曖昧で熱を帯びた部分が多すぎる。
「なんてね。答えなくていいよ」
怜治さんはポンッと僕の肩を優しく叩き、再びいつもの穏やかな口調へと戻った。
「そんなことより、もうすぐ家に着くよ」
そう言って、彼は静かにアクセルを踏み込み、車を加速させた。
この大人の男の人が、一体どこまで本気で
どこまでが冗談なのか、僕には全く分からなかった。
それでも――。
少なくともこの密閉された車内の中にいる間だけは
僕の安全と世界のすべてが、彼によって完璧に保証されているような気がした。
◆◇◆◇
あれから、数日が経過した
ある日の学校のSHR中のこと。
窓際の自分の席に座って、僕はノートの端に落書きをしながら、ぼんやりと外の景色を眺めていた。
すると、机の中に忍ばせていた携帯の通知音がブブッとバイブレーションを鳴らした。
こっそりスマホの画面を開けば、そこにはずっと待っていた名前が浮かび上がる。
【お疲れさま。今日もいつも通り校門の近くで待ってるね】
怜治さんからのメッセージ。
たったそれだけの一文を見ただけで
さっきまでの退屈で憂鬱だった授業の疲れや
身体の底に溜まっていた重苦しさが、一瞬でスッと消え去っていく気がした。
コメント
1件
えっと……もう、冒頭の「好きだからだよ」って、あの温度感で短く言われると心臓に悪いですね。怜治さんの冗談とも本気とも取れる含み笑いや、肩をポンと叩く仕草の優しさに、こちらの胸までぎゅっとなりました。そして最後、スマホの通知一瞬で憂鬱が消える描写、すごく共感します。そういう日常に溶け込む“特別”って、たまらないですよね🤍