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フリーズ

3 - 第2話:最初の提出

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9

2025年04月26日

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第2話:最初の提出
「“能力”って……何を出せっていうんだよ……」


朝、父・タカユキの低い声が小屋に響いた。

テレビは何も映していない。ただ黒い画面の中に、薄く“命”と“能力”という文字だけが静かに揺れていた。


「走る速さとか? 頭の良さ?」

カナが言うと、母・ユミが首を横に振った。

「そんなの……どうやって渡すの? どうやって戻るの?」


答えはなかった。




昼過ぎ。風が止み、空がわずかに開けた。

父が「見てくる」と言い残して、外へ出た。


雪原の中央、昨日と同じ場所に、あの石のライオン像が座っていた。


雪に半ば埋もれたその体は、昨日よりもさらに傾いているように見えた。

石の表面には、長く裂けたような新しいヒビ。

右目の光が、一瞬だけチカチカと点滅した。


そして、像の口から――また、あの声。


「本日、最初の提出を……待つ」

「命でも。能力でも。どちらでも……かまわない」


それだけを繰り返す。

まるで自分でも意味がわかっていないかのように。




その夜、小屋に戻った父の顔は、青ざめていた。


「……俺の“記憶力”を、提出する」

「昔のことは、もうどうでもいい」


母が叫んだ。「勝手に決めないで!」


「カナやソウタが何かを失うより、俺のほうが――」


テレビが急に明るくなった。


「提出、受理」

「能力《記憶保持レベル:中》が雪山に還元されます」


その直後。

小屋の窓から見える雪が、形を変えた。


風が渦を巻き、真っ白な空間に、黒い人影のようなものが浮かび上がった。

顔もなく、声もない。ただ、どこか父に似た背中をしていた。




夜9時。

テレビが再び点灯する。


「本日の死者:1名」

「祈り……受理:マシロ ソウタ」

「視線を逸らした者:未登録家族1、氷化完了」


画面の下に、名前のない“死者”の映像が映った。

男が、像を睨むようにして、吹雪の中で立ち尽くしている。

次の瞬間、音もなく全身が氷に包まれた。


そして、何もなかったかのように雪が降り積もった。




「ソウタ、祈ったの?」


カナが聞くと、弟はうなずいた。


「こわかったから……でも、ライオンに“ありがとう”って言ったら、あったかくなった」


テレビは消えた。


カナは、ライオン像のほうを思い浮かべた。

雪に埋もれ、無表情で壊れかけたあの像は、

今夜もきっと、ただそこに座り続けているのだろう。


何を思うこともなく。

ただ、“提出”を待ち続ける。




家族の中で何を守るか。

それを決めるのは、命令ではなかった。

――それぞれの祈りの形だった。



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