TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

フリーズ

一覧ページ

「フリーズ」のメインビジュアル

フリーズ

4 - 第3話:具現化

♥

9

2025年04月27日

シェアするシェアする
報告する

第3話:具現化
朝。

外の吹雪が弱まり、カナは窓の外を見た。


雪原の先に――誰かが立っていた。


それは人だった。いや、“人のようなもの”だった。

背丈も、輪郭も、父・タカユキにそっくり。


けれど、近づくほどに違和感が増していく。

顔が、ない。輪郭が、歪んでいる。

風が吹くたびに身体が霞み、まるで記憶のなかの誰かが歩いているようだった。




「父さん……?」


カナの声に、その影は一瞬だけ立ち止まり、ゆっくりと振り返った。

顔はなかった。けれど、“返事のような風”が吹いた。


ソウタが駆け出そうとしたとき、父が腕を掴んだ。


「近づくな。あれは……俺が差し出したものだ」


その瞬間、テレビがついた。


「能力具現化、安定率:低」

「対象:記憶保持“中”」

「用途:不明」

「観察継続中」




その日、ライオン像は喋らなかった。


雪山の中央に埋もれ、左目の光が消えていた。

口元の石が崩れかけ、風で砕けた雪が舞っている。

まるで、自分が出した“存在”に力を吸われているように見えた。


石像の首元に新たな亀裂が入っていた。

それでもその顔は、無表情のまま空を睨んでいた。


誰かの命を、まだ待っているように。




午後、隣の小屋に暮らすブラジルの家族・アルメイダ家が姿を現した。

陽気そうな声で手を振る母・マリア。その背後には、音もなく動く“影”がいた。


「彼女たち、提出したの?」


「能力よ。“音楽”だって」

マリアが笑いながら言った。


そのとき、風のなかに――旋律が流れた。

雪の粒がリズムを刻み、空気が震えた。

だが、曲は途中で壊れたレコードのように歪み始めた。


突如、影が暴れた。風が爆ぜ、ドローンが一機落ちる。

アルメイダ家の父が叫んだ。「マリア、止めろ!」


「無理よ! 子どもが歌わないと……!」




再び、ソウタが震えながら前へ出た。


「やめて!」


その声に、風が止まった。

旋律も影も、すっと凍るように沈黙した。


具現体は、子供の声にだけ反応した。




夜。

テレビが、いつもの黒い画面を揺らしながら言った。


「具現化安定率:不安定」

「使用には十分な“祈り”が必要です」

「祈りを怠れば、存在は暴走します」




その夜、カナは夢を見た。

雪の中、父の姿が遠ざかる夢だった。


追いかけようとしたら、ソウタの手が、ぐっと袖を引いた。

「行っちゃダメ。カナが行ったら、戻れなくなる」


気づけば、窓の外の雪の奥に――また、あの顔のない“父”の影が立っていた。


あれは、本当に父じゃない。

けれど、誰よりも私たちを見ている気がした。




ライオンは、もう喋らなかった。

でもきっと、見ていた。

無表情なその石の顔で。

私たちの“祈り”が、足りるかどうか――見極めるように。



loading

この作品はいかがでしたか?

9

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚