テラーノベル
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第18話 君ならこの世界を選ぶ?
夕暮れの時計塔。
オレンジ色の光が古い石畳を長く染め、静かな風が二人の髪を揺らしていた。
梓は手すりにもたれ、街並みを眺めている。
その隣へ、あやがゆっくり歩いてきた。
「ここにいたんだ。」
「ああ。」
梓は短く返事をする。
しばらく二人とも何も話さない。
空間に静寂がおちる
「ねえ 梓話ってなに?」
あやが不思議そうに首を傾げる
「あや」
「一つだけ、聞いてもいいかな。」
その声は神妙でどこか緊張感を孕んでいた。
「もちろん」
その声色に あやは真剣な眼差しで梓をみつめる
梓は懐中時計を指先で小さく転がす。
蓋は閉じたまま。
白銀の蓋に、夕陽の光が反射していた。
「……もし」
「世界が、ある日突然」
「少しだけ、巻き戻ったら。」
あやはゆっくりと首を傾げる。
「……巻き戻る?」
その言葉を聞いた瞬間。
梓の指先が、懐中時計を強く握った。
「うん」
「時間を戻す」
「ただ過去へ移動する、という意味じゃないよ
もっと根本的なもの。」
梓は空を見上げる
そこには、いつもと変わらない夕焼けが広がっている。
けれど彼女の視線はまるで
この景色の裏側を視てしまったようにみえた。
「世界が…」
あやがまるで確信に触れたように小さく目を見開く
「昨日に戻るとか?」
梓は首を横に振る。
「もっと前だよ」
「今日も」
「この学園でのエル 澄 栞 琥珀 ロクとの記憶も」
「そして私たちがここで出会ったことも」
「全てが最初から、やり直しになったら。」
あやは黙って梓を見る。
「……梓。」
「どうして、そんなこと聞くの?」
その問いに 梓はすぐには答えなかった。
いつもの梓なら、必要な情報だけを整理して、正確な答えを返す。
けれど 今日は違った。
言葉を選んでいる。
まるで、口にした瞬間に何か大切なものを壊してしまうかのように。
「……ただ、知りたいんだ。」
「もし…もし本当に、全部やり直せるとして。」
「それは救いなのか。」
「それとも……」
梓の声が、わずかに途切れる。
ーー今ここにあるものを、奪うことになるのかー
「何か..理由があるの?」
あやはただ そう一言だけ聞いた。
梓はしばらく黙っていた。
夕暮れの風が、時計塔の鐘をかすかに揺らす。
遠くで、学園の生徒たちの笑い声が聞こえる。
いつも通りの放課後
いつも通りの世界
……なのに
梓には、それがとても脆いものに見えた。
「……ある。」
やがて、梓は小さく答えた。
「あの日から..」
あやが少し目を細める。
「あの日?」
梓は懐中時計を見る。
白銀の蓋に映る自分の顔。
そこには、いつもの冷静な表情があった。
けれど、その奥には迷いがあった。
「僕は、一度。」
「世界が壊れる瞬間を見た。」
風が止まり 静寂が訪れる
まるで時が止まったように
「あや」
梓が語りかける
「君たちが知らない場所で 世界は何度も、選択を迫られている。」
「苦しみのない世界を作るために。」
「完璧な幸福を与えるために。」
「何度も、何度も 」
「世界は修正されてきた。」
あやは黙って聞いている。
「でも….」
梓の指が、懐中時計を握り直す。
少し苦しそうに呟く
「完璧になればなるほど」
「何かが失われていった」
「人は傷つかなくなった ….悲しまなくなり
争いもなくなった。」
あやが心配そうに梓の顔を覗き込む
「……でも」
一瞬だけ 梓の声が揺れる
「笑う理由も」
「誰かを大切に思う理由も 少しずつ、消えていった。」
「痛みを消した後に残るのは 平坦化して個として『生きる』が存在しない世界になったんだ。」
「世界を巻き戻すのは傷つけるためじゃない
ただ もう一度自分の意思で歩き出すための」
「保護なんだ」
夕陽が二人の影を長く伸ばす。
「だから もう一度、世界を戻すべきなのか。」
「それとも」
「『今』ある不完全な世界を守るべきなのか。」
梓は目を伏せる。
「僕には、分からなくなった。」
あやは、しばらく何も静かに聞いていた
梓を見つめる。
いつも正しい答えを探している人。
未来を計算し
過去を記録し
最善の選択を選び続けてきた存在。
「分からない」
それは はじめて彼女が零した本音だったのだ。
「あや」
梓が静かに名前を呼ぶ。
「もし 君が全部を知っていたとして。」
「この世界にある悲しみも 失敗も」
「 いつか失われる可能性も」
「全部分かった上で」
小さく吸い込んで
「それでも」
梓はまっすぐあやを見つめる
「この世界を選ぶ?」
コメント
1件
うわあ、このエピソード、重くて綺麗で一気に持っていかれました…。梓が「分からない」って零すシーン、すごく響きました。あの、いつも正解を計算してる彼女が初めて見せる迷い。それに「世界を巻き戻す=保護」っていう捉え方、なるほどなあと。苦しみを消すと同時に笑う理由も消える、そのトレードオフの描写が切なくて。最後の「この世界を選ぶ?」って問いかけ、読んでるこっちにも投げかけられた気がしました。続き、気になります…!
#AI擬人化