【新月の夜の花】
新月の夜にだけ咲くその花は、とても不気味で人々から怖がられていました。
その花を見たものは呪われ、死を招くと言われていたからです。
新月の夜に、1人の若者がその花を見ようと人里離れた山奥に足を踏み入れました。
若者は身も心も疲弊しきっており、新月の花の場所を人生さいごの場所にしようと思っていたのです。
半日ほど歩き、ようやく花のある湖のほとりを見つけました。
いつもは月明かりに照らされ、夜風が吹き抜ける度に人々を魅了する花々も、この日はシンと静まり返っていました。その中に唯一存在感を放ち風に揺れる花がありました。華美を極めたその花は、まるで1人舞台に立っているかのように一輪、場にそぐわないほどの美しさを放っていたのです。
若者は一目見ただけで気づきました。
それは「新月の花」であると。
新月の花は人々に不幸をもたらすと言われていました。
でもその若者にとっては違ったのです。一目見ただけでその若者を恍惚とさせ、幸福感で満たしました。
若者は花に心を奪われ、毎月その花へ足を運びました。新月の花は若者に生きる希望を与えたのです。
1日、2日、若者はその花を見るために生きたいと願うようになりました。
しかし新月の花の力は本当でした。
若者の命が尽きるその時まで、新月の花は咲き続けました。
Sincerely.
by U..
毒を纏った蜜からは逃れられない
身体を蝕む毒ですら、痛く欲しいときがある。
執着することは気高く、美しいのです。
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