「プッ……クスクス。そういえば、猫さんたちと古葉さんって、いつもこうなんです。古葉さんって、猫に凄くモテますから……」
「あははは。休憩がてら、猫屋をちょっと覗いてみようよ?」
「ええ。その方が古葉さんも喜んでくれます」
猫屋はここ八天街では、猫しかいない珍しいペットショップだった。店長が気に入ればそのお客さんは、無料で好きな猫が貰えるという逸話があった。ただし、未だ誰も無料では貰えたことはないそうだ。そんな八天街の変わった店で、猫好きの古葉さんはアルバイトをしていた。なんでも、店長に凄く懐かれてここで働くようになったとか。
店内は所狭しと猫の入ったショーケースがある。俺と音星は、奥のレジにいる古葉さんに挨拶をした。
「ただいま。やっぱり地獄はひどく熱かったよ」
「ただ今、戻りました。古葉さん」
「ああ、巫女さんたちか……ついさっき地獄から帰ってきたの? おかえり。大丈夫だったか? ふーん。何? 凄く熱かったって? 溶岩?? そりゃ、汗掻くわなあ」
俺たちはたわいない言葉を交わした。と、自然に妹が落ちたはずの八大地獄の話になった。
「へえー、妹さんが冤罪で地獄へねえ。お前も大変なんだなあー。なあ、巫女さん」
「そうなんだそうです」
「……阿鼻地獄……」
「あん?」
「どうしたんです。火端さん?」
俺は額にぺちぺちとアイスが入っていた空の袋を当てて、考えた。
「阿鼻地獄は無間地獄とも呼ばれていて、八大地獄の最下層にあるんだ。そこまで落ちたら……もう転生ができないらしいんだ。もしも、妹が……」
「……ひゅーっ、お前なあ……そりゃ、考え過ぎだろ」
「……そうですよ。火端さん。考え過ぎですよ」
古葉さんは、大きな欠伸をした。
その時、大勢の猫が一斉にドアに向かって鳴き出した。ニャ―、ニャ―、ニャ―。俺はドアの方を見ると、子供を連れたお客さんだった。
俺は頭を降って、悪いことは考えないことにした。妹はといかく無事のはず。どうせ、いつもの口笛を吹いて、地獄で読書でもしてるんだろう。もし、阿鼻地獄まで落ちたとしても、この俺が必ず助け出してやる。
「それでは、お後がよろしいようで。あの、火端さん。もうそろそろお暇しましてお宿へ戻りましょう。お邪魔しました」
「ああ、また気が向いたら、寄ってくれよ。猫たちも喜ぶんだ」
再び民宿を目指して、俺たちは猫屋を出た。音星はアイスをまだ食べていないので、少し早めに歩いた。
民宿へ着くと、何やら玄関先で、おじさんがしかめっ面をして立っていた。
「よお、ぼうず! 帰ってきたばかりですまないが、これを谷柿さんの旦那のところまで持って行ってくれ。場所は八天街駅の隣のビルだ。八天ビル。そこにいるぞ」
「え? ……いいけれど」
「火端さん。それでは行きましょうか」
「いや、音星は民宿で待っていてくれよ。俺だけでいいよ。簡単なガキの使いだし」
「あら? そうですか」
俺は音星を民宿へ残して、おじさんから花柄の弁当を預かった。弁当はまるで女の人の弁当のように小さかった。軽く手片手で持てるので、そこまで走って行くことにした。
勢いよく二度目の猫屋の前を通り過ぎると、一匹の白猫が俺を追い掛けてきた。
交差点を過ぎ、八天街駅の前を通ると、おじさんから聞いた。八天ビルを見つけた。
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