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振り向くと、そこには黒髪を完璧な結い髪にまとめ、紫の小紋姿が美しい。美人画から出てきたような美女が立っていた。


杜若様が小さく喉を鳴らす音と、美女が赤い唇を開くのは同時だった。


「杜若様。お帰りなさいませ。その方が環様ですわね?」


そうだと、杜若様が肯定すると美女は意味深に微笑んで私を見つめた。


「環様。初めまして。私、杜若家の女中頭、|梅千夜《うめちよ》と申します。これから環様のお世話係をさせて頂きます。よろしくお願いします」


美女、いや。梅千夜さんにぺこりと頭を下げられた。私も挨拶をする。


「初めまして。私は環と申します。こちらこそ、よろしくお願いします。その、頭を上げて下さい。様付けも結構です。出来る限り自分の力でいろんなことを、挑戦して行きたいと思っていますので、こちらこそご指導ご鞭撻、ビシビシお願いしますっ」


ばっと頭を下げると、何やら杜若様と梅千夜さんが会話を始めたが、二人のひそやかな声はすぐにやんだ。

二人の交わした会話が少し気になってしまったけど、私などが勘繰っても仕方ない。


ポンと肩を叩かれて、顔を上げると杜若様が苦笑していた。


「環。これから、この梅千夜が家のことなどを案内してくれるそうだから、後のことは梅千夜に任そうと思う。何かあれば梅千夜に、なんなりと申し付けるといい」


やれやれと言わんばかりに、後ろに結んだ長い髪を払う杜若様。


梅千夜さんはニコリと笑うだけ。

その様子をみて……二人は似てる気がした。

二人とも綺麗な人だからかもしれない。気のせいかなと思った。


「はい。わかりました。梅千代さんにしっかりと教えて頂きます」


「俺はこれから用事や仕事がある。夜になれば、少し時間が出来るから、一度環の様子を見に来ようかと」


「私のことならば、お気になさらず。私は大丈夫ですから。私のことなど全く気にせずに、お仕事頑張って下さいっ」


杜若様がご多忙と言うのは私でも察しがつく。

私になんか気を使わなくていいし、この只者じゃ無い雰囲気を持つ、梅千夜さんが居て下されば困ることはないだろうと思った。


なのに、杜若様は綺麗な紫紺の瞳をきゅっと細め。

梅千夜さんは口元に袖を当てて、肩を震わせていて、何か笑いを堪えているように見えた。


「色々と気を使って下さり、ありがとうございます。では、また」


これ以上、今からお仕事がある杜若様を足止めする訳には行かない。杜若様がこの場を立ち去りやすいように、会話を切り上げたのだけども。


梅千代さんが「ちっとも靡いてない」と、くすくすと楽しげに笑っていた。

杜若様は深くため息を吐いていた。


変なことを言ってしまったのかと、思ったときには「さぁ、環様。ご案内致します。こちらへ」と、梅千夜様が歩き出した。


肩を落として、悩ましい表情をしている杜若様にペコリと頭を下げてから、梅千夜さんのあとを追うのだった。

帝都・狐の嫁入り物語〜嫁いだ先は前世の私を殺した天敵

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