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『ずっと好きなのに、私じゃないんだね。』第9話「帰り道、もう少しだけ頑張ろう」
夕方、午後5時すぎ。
「……はぁ、はぁ……」
私は、ゆっくりと帰り道を歩いていた。
いつもなら20分くらいで帰れる道。
なのに今日は、もう30分以上歩いている。
頭はずきずきするし、身体は重いし、足にも力が入らない。
「……あと、ちょっと……」
そう呟いて、前を向く。
でも、家まではまだ遠い。
今日は学校でもずっと具合が悪かった。
松川くんにも及川さんにも心配をかけてしまったから、これ以上迷惑をかけたくなくて。
大丈夫って言って、ひとりで帰ってきた。
……本当は、ちょっと怖かった。
「……っ、気持ち悪い……」
立ち止まって、近くの塀にそっと手をつく。
視界がぼんやりする。
頭痛も、さっきよりひどくなっている気がした。
「……もう、やだ……」
ぽつりと零れた声が、自分でも驚くほど弱々しかった。
泣きそうになって、慌てて目をこする。
今日、何回泣きそうになったんだろう。
及川さんのことでも泣いて。
身体がつらくても、我慢して。
「……あと少しだから」
自分に言い聞かせて、また歩き始めた。
そのとき。
制服のポケットの中で、スマホが震えた。
画面を見ると、及川さんからだった。
及川徹:○○、今どこ?
続けて、もう一件。
及川徹:まだ家着いてないの?
「……及川さん……」
返信しようとしたけれど、指先がうまく動かない。
少し考えてから、短く打った。
○○:今帰ってるところ!もうすぐ着くよ!
送信。
本当は、まだかなり遠い。
でも、心配させたくなかった。
すると、すぐに返信が来た。
及川徹:……本当に?
及川徹:今日、具合悪かったんでしょ
及川徹:無理してない?
「…………」
どうして。
どうして、そんなに心配してくれるの。
彼女さんがいるのに。
私のことなんて、放っておけばいいのに。
目の奥が熱くなった。
○○:大丈夫だよ!心配しないで☺️
そう送って、スマホをしまう。
そして、また歩き出した。
*午後5時40分*
帰り始めてから、もう1時間近くが経っていた。
「……っ、はぁ……」
足が重い。
頭が痛い。
身体が熱いような気もする。
もう少しなのに。
あと少し歩けば、家に帰れるのに。
一歩進むたびに、景色が揺れる。
「……あれ……?」
ふらっ、と身体が傾いた。
慌てて近くのガードレールにつかまる。
「……っ、危な……」
心臓がどきどきしていた。
立っているのも、だんだんつらくなってきた。
それでも、私はスマホを取り出した。
お母さんに連絡しようかな。
でも、心配かけちゃう。
友達に頼ろうかな。
でも、みんなもう家に帰っているだろうし……。
「……どうしよう」
小さく呟いた、そのとき。
スマホが鳴った。
着信:松川一静
「……まっつん?」
驚きながら、電話に出る。
「……もしもし?」
『おー、○○? 今どこ?』
いつも通りの、のんびりした声。
「……えっと、帰り道だよ」
『……まだ帰ってねえの?』
「……うん、ちょっとゆっくり歩いてて」
『は? 学校出てから結構経ってね?』
「……あはは、大丈夫大丈夫!」
いつものように笑って答えた。
けれど。
『……お前、声おかしくね?』
「……え?」
『具合悪いんだろ』
「……そんなことないよ」
『……○○』
松川くんの声が、少しだけ真剣になった。
『今、どこにいんの?』
「……あとちょっとで家だから」
『そうじゃなくて、場所』
「…………」
答えようとした、その瞬間。
また視界がぐらりと揺れた。
「……っ」
思わず、その場にしゃがみ込む。
『……おい!? ○○!?』
電話越しに、松川くんの声が大きくなった。
『どうした!? 返事しろ!』
「……ごめん……ちょっと……」
『ちょっとじゃわかんねえって! 今どこ!?』
「……道の、途中……」
『だから、どこだよ!』
心配してくれているのがわかる。
でも、頭が痛くて、うまく説明できない。
「……まっつん、ごめ……」
『謝んなくていいから! 近くに何がある?』
私は震える手で周りを見渡した。
「……コンビニ、が……ある……」
『わかった。そこの店の中か、安全な場所で座ってろ。無理して歩くなよ』
「……うん……」
『今、誰かに迎えに来てもらえるか確認するから。電話、切んなよ』
「……まっつん……」
『ん?』
「……ありがと……」
その言葉を最後に、私は目を閉じた。
もう、頑張って歩かなくていいのかな。
少しくらい、誰かに頼ってもいいのかな。
そう思ったら、涙が一粒こぼれた。
*その頃、及川徹*
スマホを握ったまま、及川は眉をひそめていた。
君からの最後のメッセージ。
○○:大丈夫だよ!心配しないで☺️
いつもと同じ、明るい文章。
でも、今日の君の顔が頭から離れなかった。
青白い顔。
ふらついた身体。
それでも笑っていた君。
「……全然、大丈夫じゃないじゃん」
思わず呟いた、そのとき。
松川からメッセージが届いた。
松川:及川、○○と連絡取ってる?
「……え?」
すぐに返信する。
及川:さっきまでLINEしてたけど。どうしたの?
数秒後。
松川:具合悪いみたいで、まだ帰れてない。今電話してるけど、かなりしんどそう
及川の顔から、笑みが消えた。
「……は?」
もう一度、メッセージを読み返す。
まだ帰れていない。
かなりしんどそう。
「……なんで……」
すぐに君へ電話をかけようとした。
けれど、その直前。
彼女からメッセージが届いた。
彼女:徹くん、今電話できる?♡
画面を見つめる。
いつもなら、すぐに返事をしていたはずだった。
なのに、今は。
君がひとりで帰っている姿しか、頭に浮かばなかった。
「……ごめん」
小さく呟き、松川に電話をかける。
「……まっつん! ○○、今どこ!?」
*そして、帰り道*
私はコンビニの近くで、座って休んでいた。
松川くんが電話で話している声が、遠くに聞こえる。
『……ああ、わかった。今、場所確認してる』
少しして、松川くんが私に声をかけた。
『○○、もう少しだけ待ってろよ』
「……うん……」
そのとき。
松川くんのスマホから、聞き慣れた声が漏れてきた。
『まっつん! 俺もそっち行くから!』
……及川さん?
ぼんやりする頭で、私は顔を上げた。
『及川、落ち着け。今、状況確認してるから』
『落ち着けるわけないでしょ!? ○○、具合悪いんでしょ!?』
聞いたことがないくらい、焦った声。
胸がきゅっと痛くなった。
……及川さん。
そんなに心配してくれるの?
でも。
私は小さく首を振った。
「……まっつん……」
『ん? どうした?』
「……及川さんには……言わなくて、いいよ……」
声が震えた。
「……彼女さん、いるから……」
電話の向こうが、一瞬静かになった。
私は目を伏せた。
「……心配、かけたくない……」
本当は。
本当は、来てほしかった。
及川さんに会いたかった。
でも、そんなことを願ってしまう自分が、嫌だった。
好きだから。
まだ、好きだから。
だからこそ、これ以上優しくされたら、きっとまた期待してしまう。
……ねえ、及川さん。
私はもう、あなたにとって心配するだけの相手なのかな。
それとも。
ほんの少しでも、大切な人なのかな。
答えがわからないまま、私は膝を抱えた。
夕焼けが、少しずつ暗くなっていった。
——つづく。
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コメント
1件
うわあ……今回めっちゃ心臓にきた……。体調悪いのに無理して「大丈夫」って笑う主人公、見ててこっちまで苦しくなったよ。松川くんの真剣な電話も良かったし、及川さんの焦った声が聞こえた瞬間は「あっ」てなった。それでも「彼女さんがいるから」って遠慮しちゃうの、痛いほどわかるし切ない……。続きが気になりすぎる!