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「普通の女子って、どうやって生きてるの?」
私は、いつもひとつの疑問を抱えて生きてきた。
四半期決算という、営業部にとっての一大イベントを終えた夜。周囲の同僚たちは「お疲れ様ー!」と威勢よくジョッキを傾け合っているけれど、私には遠い異世界の出来事のように感じられた。
渋谷のチェーン店の居酒屋で、私はただひたすら安酒を煽っていた。普段なら、周囲に合わせて適当なペースで飲める。
けれど、今夜は違った。銀座で見かけた、陽一さんの妻を愛する「パパの顔」が脳裏から離れない。
(……結局私みたいな変態じゃなくて、やっぱり普通の幸せな家庭を選ぶんだよね)
心に空いた穴を塞ぐように、私は目の前のレモンサワーを流し込んだ。
黙っていれば「儚げで品がある」なんて持て囃される。けれど、それは私が必死に作り上げた「擬態」の産物に過ぎない。
寄ってくる男たちは皆、私の外見しか興味はなく、中身がBL好きの欲望まみれの変態だと知れば、一様に「そんな人だと思わなかった」と失望の言葉を遺して去っていく。
モテるのなんて、ちっとも嬉しくない。私が欲しかったのは、たったひとりに、この歪な内側まで肯定されることだけだったのに。
過去の傷が、アルコールに溶けて疼き出す。大学時代、初めて付き合った彼氏に、私がBL同人漫画を描いていることがバレたあの夜。彼が向けた「気持ち悪い」という、ゴミを見るような軽蔑の目。
一時期は必死に「普通の女子」を演じた。BLを封印し、女子向けの恋愛映画で泣く練習もした。でも、すぐに限界がきた。
そんな私を、陽一さんだけは「面白い」と笑ってくれた。私の変態性も、濃すぎる性癖も、全部ひっくるめて「傍にいてほしい」と選んでくれたのだと信じていた。それなのに。
妊娠中の元カノをエスコートする彼は、紛れもなく「普通の正しい世界」の住人だった。最初から、私のような人間が入り込める隙間なんて、どこにもなかったのだ。
「……もう、いい。私は誰にも選ばれない。どうせ、一生一人ぼっちの人生なの……っ」
喉を焼く酒が、じわりと目頭を熱くする。
もともと酒癖は良くない。こんな精神状態でヤケ酒なんてした日には、確実に潰れて記憶が飛ぶと分かっていたはずなのに。
「……あ、れ。……ちょっと、回るの早い……かも……」
胃の奥が熱くなり、急激に視界が回り出す。限界を悟った時には、もう遅かった。
私は、そのままテーブルに突っ伏した。