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「すげーなぁ。
あんな笑えるなんて、なに話してたんだろ」
中川くんが言えば、となりのグループの男子がこちらを向いた。
「なんか、女子のだれかが「彼女はいますか」って聞いたらしーぜ」
「えーっ、それでそれで?」
反応したのは、尋ねた中川くんじゃなくて緒方さんだった。
そのとなりで、私は思わずむせそうになる。
「さぁ、なんて答えたのかまでは知らねーけど、なんかへんなこと言ったらしーよ」
「へんなことぉ?
まぁいいや、うちらもそれ聞こうよ!」
「ほ、本気!?」
はしゃぐ緒方さんに、私は動揺から喉にかかかったような声になった。
「え、いいじゃんー!
なんて答えたか気になるし、それなら質問も簡単だしさ」
「おお、もうそれでいいじゃん、質問なんてテキトーでいいよ」
中川くんも谷田くんもどうでもよさそうに頷き、質問が決まった。
(もう……それならそれでいいや)
どちらにせよ会話に加わる気はないし、私は小さく息をこぼすと、レイの様子を窺う。
レイは佐藤くんのグループの次に、杏のグループに移った。
いらないことを言わないかと、見ていて本当にひやひやする。
けれど何事もなく「会話」しているようで、一応はほっとした。
そうしてレイが最後に私たちのグループに来た時、脈がいつもの三倍くらい速くなった。
『こんにちは。 初めまして』
レイはいつもの穏やかな笑みで挨拶をした。
対する私たちは、口ごもってほぼなんの反応もしない。
私はさっと目を逸らすし、はしゃいでいた緒方さんは、ドキドキしているのか固まっている。
それに男子たちふたりも、レイのオーラに気圧されているようだった。
それでもレイは気にした様子もなく、膝を折って私たちと目線を合わせた。
『えーっと、それじゃ、みんなの名前は?』
「えっ、えーっと」
中川くんたちは顔を見合わすと、すぐに口を開いた。
名前を名乗るのは一番易しいし、ここはみんな余裕でクリアだ。
私は自分の番で、彼を見ずに『ミオです』と言った。
レイは今日ずっと教室を回っていただけあって、質問には慣れていた。
みんなが答えやすそうなこと、たとえば「好きな料理は?」なんかを話題に振っていて、それなりに会話になっている。
『なら次は……流行っている遊びはなに?』
「遊びって……スマホゲームって英語でなんていうの?」
「しらねー。
スマホ見せて、『ゲーム』って言えばいいんじゃない?」
レイの質問に、男子ふたりは本当にスマホを見せている。
端っこでその様子を眺めていると、レイがおもむろに言葉を切った。
『じゃあ、これが最後の質問。
だれかロサンゼルスに、日本人の知り合いはいない?』
その質問に、私は反射的に顔をあげた。
それと同時に、谷田くんが「は?」と間の抜けた声で聞き返す。
「えっ、今なんつったの?」
「広瀬、なんて? ロサンゼルスだけ聞き取れたんだけど」
谷田くんと中川くんが同時に私を見る。
だけど私は思わぬ質問に動揺して、咄嗟には答えられなかった。
「……あー……。
えっと……「ロサンゼルスに、日本人の知り合いはいますか?」って」
「あ、そうだったの?
なんで突然そんな具体的なこと聞くんだろ。「ノー」だよNO!」
谷田くんが答えれば、ほかのふたりもレイに「NO」と伝えている。
レイは何事もなかったかのように頷くと、笑って話題を変えた。
『そっか。それなら俺からの質問は終わり。
みんなから、なにか質問はない?』
レイはこのグループに来てから、一度も私を見ない。
にも関わらず今のは不意打ちで、体から汗が吹き出した。
(もう、急になんなの。なんでそんなこと言うのよ)
私のことをからかってるか、それとも―――。
彼の意図がわからず、私は動悸を逃がすように壁際の時計に目をやる。
あと数分でチャイムが鳴るから、このまま何事もなく終わってほしい。
「えーっと、『日本に来てどれくらいですか?』」
だれが質問するか私以外の三人でつつきあっていたけど、仕方なしに中川くんがレイに尋ねた。
(ちょっと、それ打ち合わせと違うじゃん……)
そうは思ったけど特に問題もなく、レイは少し考えてから言った。
『えーっと、3週間くらいかな』
「えっ、そんな最近だったんだ!
じゃあ、『どこから来たんですか?』」
驚きのまま緒方さんが尋ねたのも、やっぱりさっき言っていたのと違う質問だった。