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「バーカ。
どこから来たかって、先生がこの人アメリカ人だって言ってたじゃん!」
「そうだよ、緒方のバーカ」
男子ふたりの野次が飛んだところで、ちょうどチャイムが鳴った。
(よ、よかった……)
私がほっとして息を吐き出したのと、チャイムに混じってレイが答えたのは同時だった。
『アメリカのロサンゼルスだよ。
だけど今日は、ミオのとなりの部屋から来てる』
その言葉に、見るつもりはなかったのにレイを凝視した。
けれど反応したのは私だけで、ほかの三人は最後まで聞き取れなかったらしい。
「えっ、なんて言ったの?」
緒方さんが私に尋ねたけど、答えられるはずもないし、「な、なんでもない!」と、答えにならないことを言うのが精いっぱいだ。
(もう、レイのバカ! 信じらんない……!)
なんでそんなこと言うのよ、私を困らせて楽しんでるの……!?
レイを見ていられずに顔を背けて立ち上がる。
その時、先生がレイを呼び、彼は返事をして遠ざかっていった。
「……なんか、すごい人だったな、あの人。
オーラがやばいっていうかさ」
「ほんと。マジでハリウッド俳優みたいだったな」
呆然とする中川くんと谷田くんのとなりで、緒方さんがずっとレイの後ろ姿を目で追っている。
この場の空気から逃げ出したくて、ひとり机を元に戻していると、突如杏の声が聞こえた。
「澪ーっ!! ちょっとーっ!!」
何度も手招きする杏の傍で、佐藤くんも戸惑いながら私を見ていた。
(あぁ、杏……)
私は軽い頭痛がする中、力なく笑った。
本当、この一時間で昨日の遊園地と同じくらい体力を消耗した気がする。
それもこれもレイのせいだと思いつつ、私は苦笑いのままふたりに手を振り返した。
「どういうことーっ!
澪はレイさんが来るの知ってたの!?」
よろよろと杏に近付けば、杏が興奮した様子で声を張り上げるから、私は慌てて人差し指を唇にあてた。
「しーっ!
杏ってば、声が大きいよ」
「あっ、ごめんごめん!
ってか、やっぱ澪も知らなかったんだー」
「知らなかったよ、すっごい驚いたんだから」
事前に知っていたなら心づもりだってできたし、杏たちにも先に話して対策も練っていたはずだ。
そう思うとため息が漏れるけど、黙っていた佐藤くんが感嘆としたふうに言った。
「けどほんと、すげー驚いた。
レイさん見た瞬間、幻かと思って固まったよ」
「私も私も! もう呆然としちゃった」
佐藤くんに同調した杏は、大きく頷いて顔を見合わせた。
(その気持ちはよくわかるよ……)
私もレイを見て呆然としたし、最後に不意打ちでまでされたから、まだ動悸が治まらない。
「レイさんがうちのグループに回ってきた時、へんな緊張がすごかったよ」
「うちも超緊張したよー!
ってかそういや、別のグループが「彼女いますか」って聞いてたらしーよね」
「あぁ、それなんだけど」
どうやら佐藤くんはその話の詳細を知っているらしい。
私はなぜかドキドキしつつ、佐藤くんと杏の話に耳を傾けた。
「なんかさ、1人目の女子がそれ聞いて、レイさん笑ってかわしたらしいよ。
けど2人目も同じ質問したらしくって、それでさ」
そこで一呼吸置いた佐藤くんは、遠慮がちに私を見た。
「「いないって言えば、俺と付き合ってくれるの?」って、すげー笑顔で聞いたらしい」
「……えーっ!
レイさん……そうだったんだ」
両手を口に当てて驚く杏のとなりで、私はすぐにその情景が思い浮かんだ。
だから女子たちは、キラースマイルにやられて顔が真っ赤だったんだろう。
「ちょっと、どうするの澪!」
「えっ。どうするって、どうもしないよ」
杏は興奮したまま私の肩を揺さぶる。
「まぁ……。
あれはその場を収めるための、レイさんの方便だってわかってるしね」
「えっ、あっ、そっか!」
佐藤くんが私を気遣うように言うと、杏はほっとしたように笑い、手を離した。
(いやいや、ちょっと待って……!)
この様子だと、やっぱりふたりは私とレイの仲を信じている気がする。
「あのね」と否定のような弁解をしかけた時、それより先に、杏が思い出したようにこちらを睨んだ。
「そうだ、ってか澪ー!
レイさんにあんな態度はひどいよ。
さっきの授業中「話しかけないで」オーラ全開だったじゃん!」
杏の発言に、佐藤くんも「あぁ……」と、眉を下げて私を見る。