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1,705
☀️チュンチュン……
カーテンの隙間から朝の光。
誰かの寝返りの音。
静かな部屋。
〇〇「……ん」
ゆっくり目を開ける。
ぼんやりしたまま、腕を動かす。
ぎゅ
樹「……っ!?」
一気に目が覚める。
樹「え、ちょ、待って」
視線を落とす。
〇〇がしっかり抱きついてる。
樹「……なんでまた俺」
ジェシー「……ふはっ」
慎太郎「戻ってるじゃん」
きょも「すごいね」
高地「寝相強いなあ」
〇〇「……んー……」
全然起きない。
むしろ少し寄る。
樹「やめろって」
小声で焦る。
その横、
北斗はもう起きてる。
無言。
ただ見てる。
北斗「……」
樹「……北斗」
小さく呼ぶ。
北斗「……」
反応しない。
樹「これ違うからな?」
北斗「……知らねえよ」
低い声。
ジェシー「朝からピリついてる」
慎太郎「タイミング悪」
きょも「落ち着いて」
高地「まだ起きてないし」
〇〇「……ん」
ゆっくり目が開く。
状況を理解し始める。
自分の腕。
抱きついてる相手。
〇〇「……え?」
樹「おはよう」
〇〇「……え??」
一気に覚醒。
〇〇「え、なんで樹!?」
樹「それこっちのセリフな」
ジェシー「おはよ〜」
慎太郎「いい朝」
きょも「おはよう」
高地「おはよう」
〇〇「ちょっと待って」
慌てて離れる。
〇〇「ごめん!!」
樹「まあいいけど」
〇〇「私ソファじゃなかった?」
慎太郎「落ちた」
ジェシー「で床」
きょも「最初樹」
高地「途中北斗」
樹「最後また俺」
〇〇「え??」
〇〇「意味わかんないんだけど」
樹「俺も」
ジェシー「寝相無双」
慎太郎「移動型」
きょも「自由」
高地「楽しそうだった」
〇〇「……北斗は?」
ふと視線を向ける。
北斗、すぐそこ。
少し距離がある。
北斗「……起きてる」
〇〇「……」
一瞬だけ空気が止まる。
昨日のこと、
少しだけよぎる。
〇〇「……」
北斗「……」
目が合う。
でもすぐ逸らされる。
〇〇「……昨日のさ」
北斗「……」
〇〇「続き」
北斗「……」
数秒の沈黙。
逃げようと思えば逃げられる。
でも——
北斗「……あとで」
〇〇「やだ」
即答。
全員「……」
ジェシー(小声)「強い」
慎太郎(小声)「朝から攻める」
きょも(小声)「いいね」
高地(小声)「うん」
樹(小声)「黙ってろ」
〇〇「また流すでしょ」
北斗「……」
否定できない。
〇〇「ちゃんと話したい」
北斗「……」
少しだけ息を吐く。
北斗「……分かった」
〇〇「ほんとに?」
北斗「……ああ」
短いけど、
今度は逃げてない。
〇〇、少しだけ安心した顔。
ジェシー「はいはい朝の空気終わり〜」
慎太郎「腹減った」
きょも「現実戻ろ」
高地「ご飯どうする?」
樹「とりあえず起きろ」
〇〇「……ごめんね、ほんとに」
樹「大丈夫だって」
ジェシー「イベントだったし」
慎太郎「楽しかった」
きょも「平和」
高地「うん」
北斗「……」
何も言わない。
でも、
さっきより少しだけ
距離が戻ってる。
そして同時に、
ちゃんと“続きがある”朝。
樹「とりあえず飯どうする?」
慎太郎「腹減った」
ジェシー「なんか作る?」
きょも「簡単なのでいいね」
高地「パンと卵あるよ」
〇〇「助かる」
北斗「……コーヒー淹れる」
静かにキッチンへ。
樹「お、珍しい」
ジェシー「家主ムーブ」
慎太郎「やるじゃん」
北斗「うるせえ」
手は止めない。
カップを並べて、お湯を注ぐ音。
〇〇、少しだけその背中を見る。
でも何も言わない。
きょも「はい、どうぞ」
高地「これも」
〇〇「ありがと」
テーブル代わりに床で軽く朝ごはん。
いつもの空気に戻ってるけど、
どこか少しだけ違う。
慎太郎「今日どうすんの?」
〇〇「昼から仕事」
樹「早くね?」
〇〇「普通」
ジェシー「売れっ子だね〜」
〇〇「やめて」
少し笑う。
北斗、コーヒーを置く。
北斗「……どうぞ」
〇〇「ありがと」
指先が少しだけ近づく。
触れない。
でも距離は近い。
〇〇「……」
一瞬だけ間。
言いかけてやめる。
樹「じゃあ食ったら解散か」
きょも「そうだね」
高地「片付け手伝うよ」
慎太郎「俺も」
ジェシー「俺は見守る」
樹「動け」
軽く笑いが起きる。
食べ終わって、バタバタと片付け。
〇〇「じゃあ行くね」
カバンを持つ。
玄関の空気。
樹「おつかれ」
ジェシー「頑張って〜」
慎太郎「寝相気をつけて」
〇〇「それは無理」
きょも「いってらっしゃい」
高地「気をつけてね」
〇〇「ありがと」
一通りやり取りして、
最後、
少しだけ間。
北斗の前。
〇〇「……」
北斗「……」
目が合う。
〇〇「あとで」
小さく。
北斗「……ああ」
短く。
それだけ。
でも——
ちゃんと約束になってる。
〇〇「じゃあね」
ドアを開けて出ていく。
(バタン)
静かになる。
樹「……行ったな」
ジェシー「行ったね」
慎太郎「さて」
きょも「どうする?」
高地「片付け続きかな」
全員、なんとなく動き始める。
その中で——
樹「北斗」
北斗「……なんだよ」
樹「今日、逃げんなよ」
北斗「……」
一瞬だけ止まる。
北斗「……分かってる」
低く。
でも今度は、
ちゃんと前向いてる。
昨日と違って、
逃げない前提の顔。
樹「スポンジどこだっけ」
高地「そこ、シンクの横」
ジェシー「はい皿流しまーす」
慎太郎「拭く係やるわ」
きょも「じゃあ並べるね」
北斗「……ゴミまとめる」
それぞれ動きながら、
水の音と食器の音。
少しだけ間があって——
樹「で」
ジェシー「うん」
慎太郎「来た」
きょも「だよね」
高地「うん」
樹「今日どうする」
ジェシー「そのまま行かせるのはもったいない」
慎太郎「でも押しすぎると逆効果」
きょも「北斗のタイミングもあるしね」
高地「うん、そこ大事」
樹「だから“きっかけ”だけ作る」
ジェシー「なるほどね」
慎太郎「場所?」
樹「外がいいだろ」
きょも「2人きりになれるとこ」
高地「自然にね」
ジェシー「でもどうやって?」
樹「簡単」
水を止める音。
樹「“忘れ物”」
慎太郎「おお」
きょも「ありだね」
高地「自然だ」
ジェシー「誰が届ける?」
全員、チラッと北斗を見る。
北斗「……は?」
樹「お前だろ」
北斗「なんでだよ」
慎太郎「流れ的に」
ジェシー「主人公」
きょも「一番自然」
高地「うん」
北斗「……」
少しだけ黙る。
でも否定しきらない。
樹「〇〇、何か忘れてたか?」
高地「ヘアゴム置いてたよ」
きょも「あとピアスも」
慎太郎「完璧じゃん」
ジェシー「ナイス小道具」
北斗「……おい」
樹「で、連絡する」
ジェシー「“届けるわ”って?」
樹「いや違う」
少しニヤっとして、
樹「“今から行くから外出れる?”」
慎太郎「うわ自然」
きょも「逃げ場ないね」
高地「いいと思う」
北斗「……強引すぎるだろ」
樹「お前一人じゃ無理だから」
ジェシー「背中押し係です」
慎太郎「サービス付き」
きょも「優しさだよ」
高地「うん」
北斗「……」
ゴミ袋を結びながら、
少しだけ考える。
北斗「……場所は」
樹「近場のカフェでいいだろ」
ジェシー「昼前ならちょうどいい」
慎太郎「〇〇も仕事前に寄れるし」
きょも「時間的にもいいね」
高地「うん」
北斗「……」
小さく息を吐く。
北斗「……分かった」
全員、止まる。
樹「よし」
ジェシー「来た」
慎太郎「決まり」
きょも「いいね」
高地「応援してる」
北斗「応援はいらねえ」
ジェシー「出たそれ」
樹「じゃあ連絡するぞ」
スマホを取り出す。
北斗「……待て」
樹「ん?」
北斗「……俺が送る」
一瞬、全員固まる。
ジェシー「おお」
慎太郎「自分でいく?」
きょも「いいね」
高地「うん」
樹「じゃあ任せた」
北斗「……」
スマホを出す。
画面を見つめる。
少しだけ、指が止まる。
でも——
打ち始める。
北斗「……送った」
樹「はや」
ジェシー「内容は?」
北斗「……普通」
慎太郎「一番いいやつ」
きょも「うん」
高地「大丈夫」
少しの沈黙。
既読がつくかどうか、
全員なんとなく気にしてる。
北斗「……」
その中で、
北斗だけが静かに待ってる。
逃げずに、
ちゃんと“次”に進む準備したまま。
樹「……あ」
スマホ見て、止まる。
ジェシー「どした」
樹「いや待って」
慎太郎「なに」
樹「〇〇、今ダメだわ」
きょも「え?」
高地「あ…」
空気が一瞬で変わる。
北斗「……なんだよ」
樹「ストーカーの件」
北斗「……」
思い出す。
北斗「……外、無理か」
高地「うん、基本NG出てる」
きょも「一人行動は止められてるはず」
慎太郎「そっか…」
ジェシー「じゃあカフェ案なしだな」
北斗「……」
一回、沈む。
でも——
樹「いや、まだある」
ジェシー「さすが」
慎太郎「次案きた」
きょも「どうする?」
樹「“中”で会えばいい」
高地「中?」
樹「現場」
慎太郎「なるほど」
ジェシー「差し入れか」
きょも「それなら自然だね」
高地「スタッフもいるし安全」
北斗「……」
少しだけ顔上げる。
樹「理由もちゃんとある」
ジェシー「忘れ物+差し入れ」
慎太郎「完璧」
きょも「時間も合わせやすい」
高地「うん」
北斗「……でも入れるのか」
樹「そこは」
全員、また北斗を見る。
樹「お前次第」
北斗「……は?」
ジェシー「顔パスでしょ」
慎太郎「〇〇の名前出せばいける」
きょも「事前に連絡しておけば大丈夫」
高地「うん」
北斗「……」
少し考える。
さっきより現実的。
逃げ道、少ない。
樹「どうする」
北斗「……行く」
即答ではないけど、
ちゃんと前を見る声。
ジェシー「いいね〜」
慎太郎「主人公復帰」
きょも「頑張って」
高地「応援してる」
北斗「だからいらねえって」
でも——
さっきより少しだけ軽い。
樹「じゃあ〇〇に連絡」
北斗「……もうしてる」
全員「え」
北斗「……さっきの」
ジェシー「タイミング神」
慎太郎「どうするって返ってくるな」
きょも「説明しよう」
高地「うん」
樹「“外出れないなら、そっち行く”でいい」
北斗「……」
少しだけ頷く。
その時——
スマホ、震える。
全員「……」
北斗、画面を見る。
既読。
そして返信。
北斗「……」
少しだけ表情が変わる。
ジェシー「なんて?」
北斗「……“外出れない、ごめん”って」
樹「よし来た」
慎太郎「想定通り」
きょも「次いけるね」
高地「うん」
樹「送れ」
北斗「……」
少しだけ間。
でも今回は迷わない。
打つ。
北斗「……送った」
ジェシー「内容は?」
北斗「……“じゃあそっち行く”」
慎太郎「いいね」
きょも「シンプル」
高地「伝わる」
少しの沈黙。
また、待つ時間。
北斗「……」
今度は、
逃げる理由がない。
ちゃんと向き合う流れ。
そのまま、
次の一歩を待つ。
スマホがもう一度震える。
全員「……」
北斗、画面を見る。
数秒。
北斗「……来た」
樹「なんて?」
北斗「“マネに聞く”って」
慎太郎「いいじゃん」
ジェシー「進んでる」
きょも「通るといいね」
高地「大丈夫だと思う」
北斗「……」
短く息を吐く。
さっきまでより、明らかに現実になってきてる。
樹「ここからは待ちだな」
ジェシー「緊張タイム」
慎太郎「落ち着け」
きょも「深呼吸」
高地「大丈夫」
北斗「うるせえ」
でも否定はしない。
そのまま、数分。
誰も大きな声出さない。
皿の音だけ少し。
そして——
また震える。
北斗、すぐ画面見る。
北斗「……」
一瞬止まる。
ジェシー「どう?」
北斗「……“短時間ならOK出た”」
全員「おお」
慎太郎「通った」
きょも「よかった」
高地「安心だね」
樹「よし決まり」
北斗「……」
画面見たまま。
その一文、何回も確認してるみたいに。
ジェシー「で?」
慎太郎「行くでしょ?」
北斗「……行く」
今度は迷いない。
樹「時間は?」
北斗「……午前中、合間あるって」
きょも「ちょうどいいね」
高地「移動も余裕ある」
ジェシー「差し入れどうする?」
慎太郎「軽いのでいいだろ」
樹「飲み物と甘いもん」
きょも「疲れてるだろうしね」
高地「うん」
北斗「……俺買ってくる」
樹「一人で?」
北斗「……すぐ戻る」
ジェシー「逃げんなよ?」
北斗「逃げねえよ」
少しだけ強く返す。
慎太郎「いい顔してるじゃん」
きょも「うん」
高地「頑張って」
北斗「だからいらねえって」
でも、
もうさっきとは違う。
ちゃんと前向いてる。
北斗、上着取る。
スマホポケットに入れる。
一瞬だけ止まって、
画面をもう一度見る。
“OK出た”
その文字。
北斗「……」
小さく息吐いて、
ドアに向かう。
樹「いってら」
ジェシー「行け行け」
慎太郎「成功祈願」
きょも「落ち着いてね」
高地「気をつけて」
北斗「……ああ」
短く返して、
ドアを開ける。
外に出る。
(バタン)
静かになる部屋。
樹「……行ったな」
ジェシー「ついに」
慎太郎「やっと動いた」
きょも「いい流れ」
高地「うん」
樹「後はあいつ次第」
誰も茶化さない。
今だけは。
ちゃんと、
“本番”に入った空気。
ーーーーーーーーー
樹「……静かすぎだろ」
ドアが閉まってから、少しの沈黙。
ジェシー「さっきまでうるさかったのにね」
慎太郎「急に現実きた感じ」
きょも「大事な場面だからね」
高地「うん」
樹「で、どう思う」
ジェシー「いけると思う?」
慎太郎「五分五分」
きょも「〇〇はちゃんと向き合うって言ってたし」
高地「そこは大きいよね」
樹「問題は北斗」
ジェシー「まあな〜」
慎太郎「言えるかどうか」
きょも「途中で引かないか」
高地「我慢しちゃいそう」
樹「それなんだよ」
少しだけ真面目な空気。
ジェシー「でもさ」
樹「ん?」
ジェシー「昨日よりはマシじゃない?」
慎太郎「確かに」
きょも「逃げてないもんね」
高地「うん、ちゃんと動いた」
樹「……まあな」
少しだけ頷く。
樹「“行く”って言った時点でな」
ジェシー「でかいよ」
慎太郎「北斗にしては」
きょも「一歩だね」
高地「うん」
樹「〇〇はどう出ると思う」
ジェシー「気づいてないでしょ」
慎太郎「今の段階だと」
きょも「でも昨日ちょっと引っかかってた」
高地「“身近な人”のとこ」
樹「だな」
ジェシー「だからワンチャンある」
慎太郎「気づくパターン」
きょも「もしくは」
高地「そこで初めて知る」
樹「どっちでもいい」
ジェシー「結局?」
樹「ちゃんと聞くかどうか」
慎太郎「〇〇次第か」
きょも「でも聞くって言ってたよ」
高地「逃げないって」
樹「なら大丈夫だろ」
少しだけ空気が軽くなる。
ジェシー「なんかさ」
慎太郎「ん?」
ジェシー「親みたいだな俺ら」
樹「やめろ」
慎太郎「見守り隊」
きょも「応援団だね」
高地「うん」
樹「……あいつらほんと遅いよな」
ジェシー「長年だし」
慎太郎「タイミングずっとズレてた」
きょも「でも今は合ってきてる」
高地「そうだね」
樹「だから今なんだろ」
ジェシー「今日決まる?」
慎太郎「そこまではいかない気もする」
きょも「でも変わるとは思う」
高地「うん、確実に」
樹「……まあ」
ソファに座り直す。
樹「ちゃんと帰ってくればいい」
ジェシー「それな」
慎太郎「変に拗れなきゃいい」
きょも「大丈夫だよ」
高地「信じよう」
少しの沈黙。
でも今度は重くない。
それぞれ、
なんとなく想像してる。
今、外で起きてること。
樹「……遅えな」
ジェシー「まだそんな経ってない」
慎太郎「待てないタイプ?」
樹「うるせえ」
きょも「落ち着いて」
高地「大丈夫」
全員、
同じ方向を見てる。
ドアの方。
帰ってくるのを待ちながら。
ーーーーーーーーー
北斗side
玄関を出た瞬間、空気が少し冷たい。
北斗「……」
ポケットのスマホに手を入れる。
さっきのメッセージ、もう一回見る。
“短時間ならOK出た”
“合間に少しだけ話せる”
北斗「……」
小さく息を吐く。
歩き出す。
いつもより少しだけ早い足取り。
でも頭の中は、全然落ち着いてない。
北斗「……何言うんだよ」
ぼそっと。
決めてきたはずなのに、
いざとなると曖昧になる。
“ちゃんと話す”
それだけで、
中身が追いついてない。
コンビニに入る。
自動ドアの音。
明るい店内。
北斗「……」
一瞬立ち止まる。
差し入れ。
何がいいか考える。
北斗「……甘いの、か」
昨日の会話、少し思い出す。
〇〇の顔。
北斗「……」
棚を見て、
いくつか手に取る。
迷って、
戻して、
また取る。
北斗「……分かんねえ」
結局、
無難なやつをいくつか。
飲み物も。
レジに持っていく。
店員「○○円です」
北斗「……はい」
会計済ませて、
袋を受け取る。
外に出る。
また少しだけ静か。
北斗「……」
歩きながら、
スマホを取り出す。
〇〇とのトーク画面。
既読のまま。
北斗「……」
打とうとして、
止まる。
“今から行く”
さっき送った。
もう後戻りできない。
北斗「……」
画面消して、
ポケットに戻す。
現場に近づくにつれて、
少しずつ現実味が増してくる。
北斗「……だる」
でもその言い方、
昨日より弱い。
本気で嫌なわけじゃない。
むしろ——
逃げられないって分かってるだけ。
建物が見える。
スタッフの出入り口。
北斗、少し立ち止まる。
北斗「……」
深く息を吐く。
ここから先、
もう“普通の会話”じゃ終わらない。
〇〇が待ってる。
ちゃんと、
向き合うって言った顔で。
北斗「……」
ドアに手をかける前に、
もう一度だけ考える。
言うか、
言わないか。
北斗「……」
答えは出てない。
でも——
北斗「……行くしかねえだろ」
小さく呟いて、
ドアを開ける。
中に入る。
もう、
戻れない位置まで来てる。
スタッフ「おはようございます」
北斗「……おはようございます」
軽く頭下げて中に入る。
見慣れない現場の空気。
人の動き、機材の音。
北斗「……」
少しだけ落ち着かない。
周りを見て、
それっぽい人に声かける。
北斗「すみません、〇〇いますか」
スタッフ「あ、控室です。今ちょうど空いてますよ」
北斗「……ありがとうございます」
案内されて、廊下を進む。
足音がやけに響く。
ドアの前で止まる。
「姫野〇〇」と書かれたプレート。
北斗「……」
一瞬だけ呼吸止める。
ノックする。
コンコン
〇〇「はーい」
中から声。
北斗「……入るぞ」
ドアを開ける。
〇〇「……あ」
目が合う。
少しだけ驚いた顔。
でもすぐ、
少しだけ柔らかくなる。
〇〇「ほんとに来たんだ」
北斗「……言っただろ」
〇〇「うん」
少しだけ間。
昨日と違う空気。
逃げ場のない距離。
北斗「……これ」
袋を差し出す。
〇〇「え?」
北斗「差し入れ」
〇〇「……ありがと」
受け取る。
指先が少し触れる。
ほんの一瞬。
でも、
お互い分かる距離。
〇〇「開けていい?」
北斗「好きにしろ」
袋を覗く。
〇〇「……あ、これ好き」
少し笑う。
北斗「……適当」
〇〇「でも当たってる」
その一言で、
少しだけ空気がやわらぐ。
〇〇「ありがと」
北斗「……ん」
短い返事。
でも、
さっきよりちゃんと目が合う。
〇〇「座る?」
北斗「……ああ」
近くの椅子に座る。
距離は近いけど、
さっきまでの“逃げ場ない感じ”とは少し違う。
ちゃんと向き合うための距離。
〇〇「……」
袋を閉じて、
北斗の方を見る。
〇〇「で」
北斗「……」
〇〇「昨日の続き」
北斗「……」
逃げられない。
でも今回は、
逃げない。
〇〇「でさ」
北斗「……」
〇〇「昨日の“好きな人”の話」
北斗「……」
〇〇「ちゃんと聞くって言ったじゃん」
北斗「……ああ」
〇〇、少し身を乗り出す。
〇〇「どんな人なの?」
北斗「……は?」
〇〇「いや、気になるでしょ普通に」
北斗「……」
言いづらい。
でも逃げられない。
北斗「……別に」
〇〇「え、なにそれ」
少し笑う。
〇〇「もっとあるでしょ」
北斗「……」
〇〇「優しい人とか?」
北斗「……まあ」
〇〇「可愛い系?」
北斗「……は?」
〇〇「違うの?」
北斗「……」
否定も肯定もしない。
〇〇「じゃあかっこいい系か」
北斗「……」
〇〇「しっかりしてる人?」
北斗「……してるな」
〇〇「へえ〜」
興味津々。
でも——
完全に他人の話として聞いてる。
北斗「……」
ズレてる。
〇〇「その人さ」
北斗「……」
〇〇「気づいてるの?」
北斗「……いや」
〇〇「え、じゃあ言った方がいいよ!」
即答。
北斗「……」
来た。
〇〇「絶対気づかないってそれ」
北斗「……」
〇〇「だってさ」
〇〇「普通に接してる人が急にって、分かんなくない?」
北斗「……」
昨日の言葉、そのまま。
刺さる。
〇〇「だからちゃんと伝えないと」
北斗「……」
〇〇「応援するよ」
笑う。
無邪気に。
北斗「……いらねえよ」
反射で出る。
〇〇「なんで!」
北斗「……」
言えるわけない。
〇〇「いいじゃん応援」
北斗「……」
〇〇「その人絶対嬉しいよ」
北斗「……」
ズレてる。
全部。
でも、
どこかで分かってる。
〇〇は悪くない。
ただ気づいてないだけ。
〇〇「で、どこが好きなの?」
北斗「……」
一番聞かれたくないやつ。
〇〇「顔?」
北斗「……違う」
〇〇「性格?」
北斗「……まあ」
〇〇「どんな?」
北斗「……」
少しだけ間。
北斗「……近い」
〇〇「え?」
北斗「……距離」
〇〇「距離?」
北斗「……無駄に近い」
〇〇「あーいるねそういう人」
北斗「……」
〇〇「天然でしょそれ」
北斗「……」
その通りすぎる。
〇〇「振り回されるタイプだ」
北斗「……」
まさに今。
〇〇「でも楽しそうじゃん」
北斗「……は?」
〇〇「だってさ」
〇〇「そういう人って、嫌だったら無理でしょ」
北斗「……」
言い返せない。
〇〇「好きだから気になるんでしょ?」
北斗「……」
核心。
でも本人は気づいてない。
〇〇「いいじゃん」
また笑う。
〇〇「頑張れ」
北斗「……」
小さく息吐く。
北斗「……ほんとに」
〇〇「ん?」
北斗「……分かってねえな」
〇〇「なにが?」
首かしげる。
北斗「……」
言うか、
やめるか。
北斗「……」
目の前にいる。
距離も近い。
気づいてない顔。
北斗「……」
振り回されてるのは、
間違いなく自分。
(コンコン)
スタッフ「〇〇さん、次お願いします」
〇〇「……あ、はーい!」
一瞬で現実に戻る。
〇〇「ごめん、出番きた」
北斗「……」
タイミング、最悪。
でも——
どこかで少しだけ助かる。
〇〇「あとちょっとだったのに」
北斗「……仕事優先しろ」
〇〇「するけど」
少しだけ不満そうに笑う。
〇〇「ちゃんと続き聞くからね」
北斗「……」
逃げ道、消える。
〇〇「逃げないでよ?」
北斗「……逃げねえよ」
小さく。
でも今度は本音。
〇〇「ほんとに?」
北斗「……ああ」
〇〇「じゃあ後で」
立ち上がる。
鏡を軽く見て、身だしなみ整える。
〇〇「差し入れありがと」
北斗「……別に」
〇〇「あとで食べる」
北斗「……好きにしろ」
〇〇「うん」
ドアの方に向かう。
でも一瞬だけ止まる。
振り返る。
〇〇「北斗」
北斗「……なに」
〇〇「その人、絶対ちゃんと聞いてくれるよ」
北斗「……」
〇〇「だから大丈夫!」
また笑う。
無自覚に。
北斗「……」
言葉、出ない。
〇〇「じゃあ行ってくる」
北斗「……ああ」
ドアが開く。
(バタン)
静かになる控室。
北斗「……」
さっきまでの会話が残ってる。
“応援する”
“大丈夫”
北斗「……は」
小さく乾いた笑い。
北斗「……ほんと、バカ」
でもその言い方、
きつくない。
どこか少しだけ、
救われてるみたいな響き。
北斗「……」
椅子に座ったまま、
天井を見る。
言えなかった。
結局、
誤魔化したまま。
でも——
北斗「……次は」
小さく呟く。
完全には逃げてない。
むしろ、
次に繋がってる。
北斗「……」
立ち上がる。
このまま帰るか、
待つか。
少しだけ迷って——
北斗「……」
ドアの方を見る。
まだ、
終わってない。
北斗「……」
ドアの前で止まる。
帰ろうと思えば帰れる。
差し入れも渡した。
会話も一応した。
北斗「……」
でも——
足、動かない。
北斗「……はあ」
小さく息吐いて、
そのまま壁にもたれる。
廊下の少し端。
邪魔にならない位置。
北斗「……」
待つ理由なんて、
いくらでも作れる。
でも本当は—
ただ、帰りたくないだけ。
スタッフが行き来する。
北斗は目立たないようにスマホを見るふり。
でも全然見てない。
北斗「……」
時間、やけに遅い。
数分。
もっと長く感じる。
その間も、
さっきの言葉が頭に残る。
“ちゃんと聞くからね”
“逃げないでよ?”
北斗「……」
逃げてない。
でも、
言えてもいない。
北斗「……だる」
小さくぼやく。
その時——
スタッフ「すみません、こちらでお待ちですか?」
北斗「……あ、はい」
軽く頭下げる。
スタッフ「もうすぐ終わりますよ」
北斗「……ありがとうございます」
また一人になる。
北斗「……」
待つって決めた瞬間、
もう後戻りできない。
でも今回はそれでいい。
少しして——
ドアが開く音。
スタッフの声。
〇〇「ありがとうございました!」
その声。
北斗、反射で顔上げる。
〇〇が廊下に出てくる。
〇〇「……あ」
目が合う。
一瞬だけ驚いた顔。
〇〇「え、まだいたの?」
北斗「……」
少しだけ間。
北斗「……待ってた」
〇〇「……」
ほんの一瞬、
空気が変わる。
さっきとは違う、
ちゃんとした“意味”のある沈黙。
〇〇「……そっか」
少しだけ柔らかくなる。
〇〇「ありがと」
北斗「……別に」
でも、
今回は逸らさない。
ちゃんと見てる。
〇〇「じゃあ」
少し近づく。
〇〇「続き、聞く?」
北斗「……」
逃げ場ない。
でも——
さっきと違う。
北斗「……ああ」
小さく頷く。
〇〇「どこ行く?」
北斗「……ここじゃ無理だろ」
〇〇「確かに」
少し考えて、
〇〇「屋上、行ける」
北斗「……」
〇〇「人いないし」
北斗「……分かった」
2人で歩き出す。
並んで。
でも少しだけ距離ある。
さっきより、
ほんの少しだけ緊張した空気。
でも、
逃げてない。
ちゃんと、
続きに向かってる。
屋上のドアを押して外に出る。
少し強い風。
〇〇「わ、風つよ」
北斗「……人いねえな」
〇〇「でしょ」
フェンスの近くまで歩く。
少しだけ距離を取って並ぶ。
〇〇「じゃあ」
北斗「……」
〇〇「続き」
北斗「……」
言うタイミング。
今。
でも——
〇〇「どんな人だっけ」
北斗「……」
またそこから。
〇〇「距離近い人でしょ?」
北斗「……ああ」
〇〇「天然で振り回すタイプ」
北斗「……」
〇〇「でも優しいんでしょ?」
北斗「……まあ」
〇〇「いいじゃん」
笑う。
〇〇「絶対いい人じゃん」
北斗「……」
いい人、なのかは知らない。
でも、
そう言われると否定もできない。
〇〇「でさ」
北斗「……」
〇〇「会えてるの?」
北斗「……会えてる」
〇〇「いいなー」
北斗「……は?」
〇〇「だってさ、会えない人より全然いいじゃん」
北斗「……」
ズレてる。
でも—
変に納得もする。
〇〇「じゃあもうほぼ勝ちじゃん」
北斗「……なにが」
〇〇「距離近いんでしょ?」
北斗「……」
〇〇「話せるんでしょ?」
北斗「……ああ」
〇〇「ならいけるって」
北斗「……」
軽い。
全部軽い。
でも、
その軽さに救われてる自分もいる。
〇〇「ちゃんと伝えなよ」
北斗「……」
〇〇「絶対気づいてないよ、その人」
北斗「……」
その通り。
目の前にいるのに。
〇〇「こういうのってさ」
北斗「……」
〇〇「言われないと分かんないじゃん」
北斗「……」
今、言えばいい。
ここで。
全部そのまま。
北斗「……」
でも——
〇〇がこっち見てる。
いつも通りの顔で。
全く疑ってない顔で。
北斗「……」
言葉、止まる。
〇〇「ね」
北斗「……なに」
〇〇「頑張れ」
またそれ。
北斗「……」
小さく息吐く。
北斗「……お前さ」
〇〇「ん?」
北斗「……ほんとバカ」
〇〇「え、なんで!」
笑う。
〇〇「急に悪口?」
北斗「……」
もう言えない。
タイミング、逃した。
〇〇「でもいいじゃん」
北斗「……」
〇〇「応援してるから」
北斗「……いらねえよ」
〇〇「なんでよ!」
変わらないやり取り。
いつも通り。
北斗「……」
結局、
いつも通りで終わる。
北斗「……もういい」
〇〇「え、もう終わり?」
北斗「……ああ」
〇〇「えー」
少し不満そう。
〇〇「ちゃんと聞けてないんだけど」
北斗「……十分だろ」
〇〇「全然足りない」
北斗「……」
それ以上は言わない。
言えない。
〇〇「まあいいや」
あっさり引く。
〇〇「また今度聞く」
北斗「……」
また今度。
その言葉に、
少しだけ救われる。
〇〇「ありがとね、来てくれて」
北斗「……別に」
〇〇「ほんと優しいよね」
北斗「……」
その“優しい”も、
全部ズレてる。
〇〇「その人もさ」
北斗「……」
〇〇「絶対好きになるよ、北斗のこと」
北斗「……は?」
一瞬止まる。
でも——
〇〇「だっていいやつだもん」
笑う。
無自覚に。
北斗「……」
言葉、出ない。
北斗「……もういいわ」
小さく吐く。
〇〇「なにそれ」
笑う。
北斗も少しだけ笑う。
諦めたみたいに。
北斗「……帰るぞ」
〇〇「うん」
2人で屋上を出る。
結局、
何も言えなかった。
でも——
完全に終わったわけでもない。
振り回されたまま、
気づかれないまま、
それでも少しだけ、
前に進んでる気がするまま。
屋上のドアを閉めて、2人で階段を降りる。
さっきまでの空気が少しだけ残ったまま。
無言。
でも気まずくはない。
廊下に戻った瞬間——
「あ、〇〇さん!」
少し明るい声。
〇〇「ん?」
振り向く。
後輩ジュニアの子。
〇〇「あ、おつかれ」
後輩「おつかれさまです!」
少し緊張してる。
でも目がキラキラしてる。
後輩「今ちょっといいですか?」
〇〇「いいよ」
北斗「……」
少しだけ後ろで見てる。
後輩「えっと、その…」
〇〇「うん」
後輩「ずっと言いたくて」
〇〇「なに?」
後輩「〇〇さんのこと、ほんとに尊敬してて」
〇〇「え、ありがとう」
後輩「アイドルとしても、俳優としても」
〇〇「……」
少しだけ照れる。
後輩「自分も、そうなりたいって思ってて」
〇〇「うん」
ちゃんと聞いてる顔。
優しい。
北斗「……」
その横顔、少しだけ見る。
後輩「もしよかったら」
〇〇「うん?」
後輩「連絡先、交換してもらえませんか?」
一瞬だけ間。
〇〇「……あー」
少しだけ悩む顔。
マネの顔が浮かぶ。
でも——
後輩の真っ直ぐな目。
〇〇「いいよ」
後輩「え、ほんとですか!?」
〇〇「うん!」
スマホを取り出す。
北斗「……」
その光景、
少しだけ目に入る。
後輩「ありがとうございます!」
嬉しそう。
〇〇「でも無理しないでね」
後輩「え?」
〇〇「自分のペースでいいと思うし」
後輩「……はい」
〇〇「頑張りすぎないで」
後輩「……はい!」
〇〇、連絡先を渡す。
後輩、大事そうに見る。
後輩「ほんとにありがとうございます」
〇〇「こちらこそ」
後輩「またご挨拶させてください!」
〇〇「うん」
軽く手を振って、
後輩は去っていく。
静かになる廊下。
北斗「……」
〇〇「いい子だったね」
北斗「……ああ」
短く。
〇〇「頑張ってほしいな」
北斗「……」
その言い方、
さっき自分に向けられてたのと似てる。
〇〇「ね」
北斗「……なに」
〇〇「北斗も頑張れ」
北斗「……」
またそれ。
北斗「……お前な」
〇〇「ん?」
北斗「……ほんとブレねえな」
〇〇「なにが?」
北斗「……」
言えない。
結局また、
同じところに戻る。
でも——
北斗「……行くぞ」
〇〇「うん」
並んで歩き出す。
さっきより少しだけ、
距離が近いまま。
ーーーーーーーーー
樹「……あいつ、まだ帰ってこねえな」
ジェシー「いいじゃんいいじゃん」
慎太郎「今一番いいとこでしょ」
きょも「集中してるはずだよ」
高地「うん」
リビング。
もう完全にくつろぎモード。
ジェシー「はい俺のターン」
慎太郎「うわそれズルいって!」
樹「いや今のは上手い」
きょも「ナイス」
高地「盛り上がってるね」
ゲームの音と笑い声。
さっきまでの“作戦会議”の空気はどこへやら。
ジェシー「てかさ」
慎太郎「ん?」
ジェシー「普通に帰ってくると思ってた?」
樹「思ってた」
きょも「短時間って言ってたしね」
高地「うん」
慎太郎「でもさ」
コントローラー持ちながら、
慎太郎「まだってことは、いい感じってことじゃね?」
ジェシー「それな」
樹「……どうだろな」
ジェシー「なにその顔」
樹「いや、あいつだから」
きょも「確かに」
高地「詰めきれない可能性もあるね」
慎太郎「えー」
ジェシー「でも〇〇も向き合うって言ってたし」
樹「そうなんだけどな」
少しだけ考える顔。
その間もゲームは続く。
慎太郎「うわ負けた!」
ジェシー「よっしゃー!」
きょも「強いね」
高地「次やる?」
樹「俺いく」
ジェシー「来いよ」
コントローラー交代。
樹「……」
少しだけ無言で操作。
ジェシー「集中してる」
慎太郎「珍し」
きょも「考えてるね」
高地「うん」
樹「……」
ふっと息吐く。
樹「まあでも」
ジェシー「ん?」
樹「帰ってきた時の顔で分かるだろ」
慎太郎「それな」
きょも「確かに」
高地「分かりやすいもんね」
ジェシー「良くも悪くも」
樹「だから待つしかねえ」
慎太郎「長期戦」
きょも「見守り継続」
高地「応援団だね」
ジェシー「役職多いな」
笑いが戻る。
またゲームに集中。
でも——
時々ふっと、
全員の意識が同じとこに行く。
玄関の方。
樹「……遅えな」
ぽつり。
ジェシー「まだ言う?」
慎太郎「待てない人」
きょも「大丈夫だよ」
高地「うん」
でも内心は、
全員同じ。
今、
外で何が起きてるのか。
ちょっと気になってるまま。
ーーー
玄関のドアが開く。
〇〇「ただいまー」
樹「おかえり」
ジェシー「おかえり〜」
慎太郎「おつかれ」
きょも「おかえり」
高地「おかえりなさい」
北斗「……ただいま」
〇〇「ちょっと手洗ってくる」
そのまま奥へ。
水の音が流れる。
リビングでは——
ジェシー「同居感すご」
慎太郎「完全に住人」
きょも「自然だね」
高地「うん」
樹「で?」
北斗「……」
樹「どうだった」
北斗「……別に」
ジェシー「出たそれ」
慎太郎「一番分かりやすい」
きょも「でも一緒に帰ってきてるし」
高地「悪くはないね」
北斗「……うるせえ」
小さく返す。
水の音が止まる。
少しして——
〇〇「おまたせ」
リビングに戻ってくる。
そのまま視線に入るのは、
床に広がるメンバーとゲーム。
〇〇「……なにしてんの」
ジェシー「平和な時間」
慎太郎「日常です」
きょも「いつもの」
高地「うん」
樹「やる?」
〇〇「この空気なに」
少し笑う。
〇〇「さっきまでなんか色々あったのに」
北斗「……知らねえよ」
ジェシー「切り替え大事」
慎太郎「メリハリ」
きょも「いいことだね」
高地「うん」
〇〇「絶対なんか話してたでしょ」
樹「まあな」
ジェシー「内緒」
〇〇「気になるんだけど」
慎太郎「教えない」
きょも「そのうちね」
高地「うん」
〇〇「やだ気になる」
ちょっとだけ拗ねる。
北斗「……」
その横顔を見る。
さっきまで屋上で話してたのと同じ人。
でも今は完全に“家の中の〇〇”。
〇〇「てかさ」
ジェシー「ん?」
〇〇「北斗、ちゃんと頑張ってたよ」
全員「……」
一瞬止まる。
北斗「……は?」
〇〇「ちゃんと話してくれたし」
ジェシー(小声)「評価きた」
慎太郎(小声)「でかい」
きょも(小声)「いいね」
高地(小声)「うん」
樹(小声)「静かにしろ」
北斗「……別に」
〇〇「別にじゃないって」
笑う。
〇〇「応援してるから」
北斗「……」
またそれ。
でも、
さっきより少しだけ違う重さで響く。
〇〇「で?」
樹「ん?」
〇〇「なにしてんの」
ジェシー「ゲーム」
慎太郎「見て分かるやつ」
〇〇「混ざる」
きょも「どうぞ」
高地「いいよ」
樹「来いよ」
〇〇、座る。
自然に、
北斗の隣。
距離、近い。
〇〇「なにこれ」
ジェシー「対戦」
慎太郎「負けたら罰ゲーム」
〇〇「え、やば」
笑う。
北斗「……」
横を見る。
いつも通りの距離。
いつも通りの顔。
北斗「……」
気づいてないまま。
でも——
“ただいま”って言って戻ってくる場所に、
自分がいる。
テレビの画面に夕方の色。
窓の外も少しずつ暗くなってる。
🌃時計は18:00。
ジェシー「うわもうこんな時間?」
慎太郎「はや」
きょも「ほんとだ」
高地「夕方だね」
樹「集中しすぎ」
〇〇「普通に疲れた」
コントローラーを置く。
ジェシー「弱音出た」
慎太郎「最下位の人が言ってます」
〇〇「うるさい」
笑う。
北斗「……」
その横で静かに画面見てる。
でも意識は少し別のところ。
〇〇「てかさ」
樹「ん?」
〇〇「今日どうする?」
ジェシー「どうするって?」
〇〇「夜ごはん」
慎太郎「もうその時間か」
きょも「何食べる?」
高地「買いに行く?」
一瞬、空気が止まる。
“外”
そのワード。
〇〇「……あ」
自分でも気づく。
〇〇「外は無理か」
少しだけ気まずそうに笑う。
樹「まあな」
ジェシー「今日は家だな」
慎太郎「何か作る?」
きょも「簡単なのでいいね」
高地「材料あるよ」
〇〇「じゃあそれでいい」
少しホッとした顔。
北斗「……」
その様子を見る。
〇〇「ごめんね」
樹「何が」
〇〇「なんか制限ばっかで」
ジェシー「気にすんなって」
慎太郎「むしろ理由できていい」
きょも「一緒にいられるしね」
高地「うん」
〇〇「……ありがと」
少しだけ小さく笑う。
北斗「……別に」
ぽつり。
〇〇「なにそれ」
笑う。
北斗「……事実だろ」
〇〇「まあそうだけど」
また軽い空気に戻る。
樹「じゃあ役割決めるぞ」
ジェシー「俺食う係」
慎太郎「却下」
きょも「作る側来て」
高地「手伝って」
ジェシー「えー」
〇〇「私何する?」
樹「座ってろ」
〇〇「は?」
慎太郎「危ないからな」
ジェシー「保護対象」
きょも「大事に扱います」
高地「任せて」
〇〇「なんかムカつくんだけど」
でも少し笑ってる。
北斗「……包丁触んなよ」
〇〇「子供扱いじゃん」
北斗「……当たってるだろ」
〇〇「ひど」
笑う。
北斗「……」
その笑い声、
少しだけ安心する。
キッチンが少し賑やかになる。
音と会話が混ざる。
〇〇はソファに座って、
その様子を見てる。
〇〇「なんかさ」
ジェシー「ん?」
〇〇「家みたいだね」
慎太郎「家だよ」
きょも「ここ北斗の家」
高地「うん」
〇〇「いやそうじゃなくて」
少しだけ柔らかい声。
〇〇「なんか、安心する」
一瞬だけ静かになる。
北斗「……」
手、少し止まる。
でもすぐ動かす。
北斗「……ならいいだろ」
〇〇「うん」
短いやり取り。
でも、
ちゃんと意味がある。
外には出れない。
制限もある。
でも——
この中だけは、
ちゃんと守られてるみたいな空気。
キッチンからいい匂いが広がる。
大きめの鍋がドン、とテーブルの真ん中に置かれる。
湯気。
〇〇「うわ、でか」
慎太郎「しゃぶしゃぶです」
ジェシー「豪華〜」
きょも「いいね」
高地「温まるよ」
樹「とりあえず座れ」
みんなで囲む。
自然と円になる形。
〇〇もその中に座る。
北斗の隣。
また近い。
〇〇「なんかさ」
ジェシー「ん?」
〇〇「こういうの久しぶり」
慎太郎「鍋?」
〇〇「うん」
きょも「確かに一人じゃやらないよね」
高地「みんなでやるものだし」
樹「じゃあ今日は特別な日だな」
〇〇「なにそれ」
少し笑う。
北斗「……肉入れるぞ」
ジェシー「待ってまだ早い」
慎太郎「順番あるから」
きょも「野菜先ね」
高地「うん」
〇〇「厳しい」
樹「鍋ルールな」
〇〇「めんど」
でも楽しそう。
鍋に野菜が入っていく。
ぐつぐつ音。
湯気で少し視界がぼやける。
ジェシー「はい、そろそろ肉」
慎太郎「きた」
きょも「いくよ」
高地「どうぞ」
〇〇「やった」
箸を伸ばす。
北斗「……取りすぎ」
〇〇「早い者勝ちでしょ」
北斗「……違う」
〇〇「いいじゃん」
笑う。
結局そのまま取る。
北斗「……」
何も言わないけど、
少しだけ呆れた顔。
樹「平和だな」
ジェシー「ほんとそれ」
慎太郎「さっきまでの空気どこいった」
きょも「でもいいね」
高地「うん」
〇〇「おいしい」
素直に言う。
北斗「……ならよかったな」
〇〇「うん」
少しだけ間。
鍋の音だけが響く。
〇〇「ね」
北斗「……なに」
〇〇「今日さ」
北斗「……」
〇〇「ありがと」
北斗「……別に」
〇〇「来てくれて」
北斗「……」
少しだけ手止まる。
北斗「……気にすんな」
〇〇「気にする」
笑う。
北斗「……」
また振り回される。
でも、
嫌じゃない。
ジェシー「はいはいそこ」
慎太郎「空気」
きょも「いい感じ」
高地「うん」
樹「静かに食え」
笑いが混ざる。
鍋はどんどん減っていく。
外には出られない夜。
でも——
この中は、
ちゃんと温かい。
湯気がもくもく。
ぐつぐつ音。
〇〇「よし」
箸で肉をすくう。
ジェシー「いけいけ」
慎太郎「いきなりか」
きょも「気をつけてね」
高地「熱いよ」
北斗「……やめとけ」
〇〇「大丈夫」
そのまま口へ。
〇〇「……っっ!!」
固まる。
数秒。
〇〇「熱っっ!!」
慌てて口押さえる。
ジェシー「ほら言った」
慎太郎「学ばないタイプ」
きょも「猫舌だもんね」
高地「無理しないで」
〇〇「むりむりむり」
水探す。
北斗「……ほら」
コップ差し出す。
〇〇「ありがと!」
すぐ飲む。
〇〇「はぁ……やばい」
ジェシー「顔真っ赤」
慎太郎「かわいそうに」
きょも「冷ましてからね」
高地「ふーってして」
〇〇「してるって」
でもまたすぐ箸持つ。
北斗「……やめろ」
〇〇「今度は大丈夫」
北斗「……無理だろ」
〇〇「いける」
また肉取る。
ジェシー「またいくの?」
慎太郎「強い」
きょも「チャレンジャー」
高地「気をつけてね」
〇〇、ふーってする。
でも甘い。
そのまま口へ。
〇〇「……っっ!!」
再び。
〇〇「熱いって!!」
ジェシー「二回目」
慎太郎「成長ゼロ」
きょも「かわいいね」
高地「無理しないで」
〇〇「無理じゃない!」
涙目。
北斗「……バカだろ」
〇〇「うるさい」
でも笑ってる。
北斗「……貸せ」
〇〇「え?」
北斗、箸を取る。
肉を軽くすくって、
ちゃんと冷ます。
北斗「……これ」
〇〇「え」
差し出される。
〇〇「……いいの?」
北斗「……いいから」
〇〇、少しだけ戸惑って、
そのまま食べる。
〇〇「……あ、おいしい」
北斗「……だろ」
ジェシー「なにそれ」
慎太郎「急な優しさ」
きょも「いいね」
高地「うん」
〇〇「最初からそうしてよ」
北斗「……自分でやれ」
〇〇「無理だった」
笑う。
北斗「……知ってる」
また肉をすくう。
今度は自然に、
少し冷ましてから渡す。
〇〇「……」
何も言わないけど、
ちゃんと受け取る。
〇〇「ありがと」
北斗「……ん」
ジェシー「はいはい」
慎太郎「見てられない」
きょも「いい空気」
高地「うん」
樹「静かに食えって」
笑いが混ざる。
湯気の中、
少しだけ距離が近くなる。
〇〇は相変わらず猫舌で、
北斗は相変わらず振り回されてる。
〇〇「ねえ」
ジェシー「ん?」
〇〇「席変えていい?」
慎太郎「急だな」
きょも「どうしたの?」
〇〇「こっち暑い」
北斗「……鍋の前だからな」
〇〇「それもあるけど」
少しだけ顔しかめる。
〇〇「ずっとここだとさ」
ジェシー「うん」
〇〇「熱いの来るじゃん」
慎太郎「当たり前」
〇〇「だから」
きょもを見る。
〇〇「きょもー」
きょも「え、俺?」
〇〇「席変わって」
きょも「いいよ」
即答。
高地「優しい」
ジェシー「さすが」
慎太郎「対応早い」
北斗「……」
無言。
〇〇、すっと立つ。
北斗の横から離れる。
ほんの少しだけ距離が空く。
北斗「……」
箸、止まる。
きょもと場所チェンジ。
〇〇はきょもの隣へ。
〇〇「ありがと」
きょも「どういたしまして」
高地「これで食べやすいね」
〇〇「うん」
ジェシー「これで火傷回避?」
慎太郎「無理そう」
〇〇「するから!」
笑う。
北斗「……」
少しだけ視線を向ける。
さっきまで隣にいたのが、
少し遠くなる。
樹「どうした」
北斗「……別に」
すぐ前に鍋。
でも、
さっきと見え方が違う。
きょも「はい、これ冷ましてるよ」
〇〇「え、優しい」
きょも「北斗方式」
〇〇「なるほど」
そのまま食べる。
〇〇「おいしい」
笑う。
北斗「……」
ジェシー「引き継がれてる」
慎太郎「技術継承」
高地「いいね」
樹「平和だな」
〇〇「ね」
また笑う。
北斗「……」
少しだけ息吐く。
なんでもない席替え。
ただそれだけなのに、
少しだけ、
さっきと違う感覚が残る。
でも——
ちゃんと見える距離にはいる。
鍋の中、だいぶスカスカ。
野菜もほとんどなくて、
残ってるのは少しの肉と、しらたきくらい。
慎太郎「え、もうこんだけ?」
ジェシー「はやすぎ」
きょも「食べたね」
高地「ほんとだ」
樹「減り方えぐいな」
〇〇「だって美味しいもん」
笑う。
箸を伸ばす。
北斗「……それ最後だぞ」
〇〇「え」
鍋を見る。
ほんとに少ない。
〇〇「じゃあこれ私!」
慎太郎「待て待て」
ジェシー「最後はじゃんけんでしょ」
きょも「ルール発動」
高地「平等にね」
〇〇「えー」
樹「ほらいくぞ」
全員、手を構える。
北斗も無言で参加。
〇〇「絶対勝つ」
慎太郎「自信どこから」
ジェシー「いくぞ」
全員「最初はグー」
一斉に出す。
結果——
ジェシー「よっしゃ!」
慎太郎「うわ負けた!」
きょも「惜しい」
高地「ジェシーだね」
樹「決まり」
〇〇「えーーー」
本気で悔しそう。
ジェシー「いただきまーす」
最後の一口を取る。
〇〇「最悪」
慎太郎「顔出てる」
きょも「分かりやすいね」
高地「かわいい」
〇〇「かわいくない」
北斗「……」
その様子見て、
小さく息吐く。
北斗「……ほら」
自分の器から、
少しだけ残してたやつをすくう。
〇〇の方に差し出す。
〇〇「え」
北斗「……食えよ」
〇〇「いいの?」
北斗「……いらねえし」
〇〇「嘘でしょ」
でも受け取る。
〇〇「ありがと」
少しだけ嬉しそう。
北斗「……ん」
ジェシー「それズルくね?」
慎太郎「裏ルート」
きょも「優しいね」
高地「うん」
樹「結局そうなるか」
〇〇「おいしい」
最後の一口。
満足そうに笑う。
鍋は空っぽ。
湯気だけが残る。
慎太郎「食ったな〜」
ジェシー「満腹」
きょも「いい時間」
高地「うん」
樹「片付けるぞ」
〇〇「やる」
立ち上がる。
北斗「……いいって」
〇〇「やる」
北斗「……」
少しだけ見て、
北斗「……じゃあ水」
〇〇「はーい」
自然な流れで動く。
さっきの距離も、
席替えも、
全部そのまま流れて——
また、
いつもの距離に戻ってる。
19:30を指す。
シンクの水音も落ち着いて、鍋はすっかり片付けモード。
樹「……で」
ジェシー「ん?」
樹「明日どうすんの問題」
慎太郎「出た」
きょも「大事」
高地「うん」
〇〇「なにそれ」
タオルで手拭きながら戻ってくる。
樹「いや普通に」
樹「全員ここ泊まるのかって話」
ジェシー「昨日の流れね」
慎太郎「また雑魚寝?」
きょも「それはそれで楽しいけど」
高地「でも明日あるしね」
〇〇「明日みんな仕事でしょ?」
ジェシー「あるね」
慎太郎「朝から」
きょも「現場違うけど」
高地「早い人は早い」
樹「だから」
樹「ここで判断」
〇〇「なにを」
樹「帰るか、泊まるか」
ジェシー「究極の選択」
慎太郎「大げさ」
きょも「でも大事だよ」
高地「うん」
〇〇「私はここだけど」
あっさり。
全員「そりゃそう」
ジェシー「住人」
慎太郎「固定枠」
きょも「安心」
高地「うん」
北斗「……」
特に何も言わない。
でもそれが普通になってる。
樹「問題は俺らな」
ジェシー「どうする?」
慎太郎「帰れなくはない」
きょも「でもちょっとだるい」
高地「移動時間あるしね」
ジェシー「泊まりたい気もする」
樹「でも明日」
慎太郎「朝弱い人いるしな」
ジェシー「誰のこと?」
樹「お前」
笑い。
〇〇「無理しなくてよくない?」
ジェシー「ん?」
〇〇「普通に帰れば」
慎太郎「正論」
きょも「確かに」
高地「無理はよくない」
樹「だな」
ジェシー「じゃあ帰るか〜」
慎太郎「解散ムード」
きょも「片付けも終わったし」
高地「ちょうどいいね」
〇〇「おつかれ」
ジェシー「また来るわ」
慎太郎「寝相気をつけて」
〇〇「無理」
きょも「おやすみ」
高地「気をつけてね」
樹「じゃあな」
それぞれ立ち上がる。
帰る準備。
玄関に向かう流れ。
北斗「……」
その様子を見てる。
〇〇も少し後ろから見てる。
ジェシー「北斗、送らなくていい?」
北斗「……いい」
慎太郎「大丈夫か?」
北斗「……平気」
樹「じゃあ行くわ笑」
ドアが開く。
ジェシー「おつかれー」
慎太郎「またな」
きょも「ありがとう」
高地「バイバイ」
樹「じゃあな」
(バタン)
静かになる部屋。
急に広く感じる。
〇〇「……静か」
北斗「……だな」
さっきまでの賑やかさが消える。
〇〇「なんかさ」
北斗「……」
〇〇「一気に現実戻った感じ」
北斗「……」
〇〇「でも楽しかった」
北斗「……ああ」
短い返事。
でも同じ感覚。
〇〇「ありがとう」
北斗「……何が」
〇〇「全部」
北斗「……」
少しだけ間。
北斗「……別に」
〇〇「そればっか」
笑う。
北斗「……」
また、
2人だけの空間。
昨日と同じで、
でも少し違う夜が始まる。
静かになったリビング。
片付け終わったテーブルの上に、まだ少しだけ余韻みたいな空気が残ってる。
〇〇「でさ」
北斗「……」
〇〇、ソファに座り直す。
〇〇「今日の続き」
北斗「……」
少しだけ間。
北斗「……まだそれ言うのかよ」
〇〇「言うよ」
即答。
〇〇「応援するって言ったじゃん」
北斗「……」
北斗の表情、ほんの少しだけ崩れる。
北斗「……お前さ」
〇〇「ん?」
北斗「……ほんとに分かってねえな」
〇〇「なにが?」
きょとん。
完全に“他人の恋バナ聞いてる顔”。
北斗「……」
ここで言えばいいのに。
でも、
また喉で止まる。
〇〇「で、どうなの?」
北斗「……何が」
〇〇「その人」
北斗「……」
〇〇「ちゃんといけそう?」
北斗「……」
またその方向。
北斗、視線を逸らす。
北斗「……まあ」
〇〇「ほらやっぱり」
ぱっと明るくなる。
〇〇「いけるじゃん」
北斗「……」
〇〇「絶対うまくいくよ」
北斗「……」
言われれば言われるほど、
違う方向に進んでいく会話。
〇〇「だってさ」
〇〇「ちゃんと話してるし」
北斗「……」
〇〇「ちゃんと会えてるし」
北斗「……」
〇〇「もうそれほぼ勝ちじゃん」
北斗「……」
違う。
全部。
でも、
言えない。
〇〇「その人さ」
北斗「……」
〇〇「絶対ちゃんと見てくれる人だと思う」
北斗「……」
少しだけ、息が詰まる。
“見てくれる人”
今の距離で、
一番見てるのは誰だ。
〇〇「頑張れ」
笑う。
また軽く。
北斗「……」
北斗「……応援とかいらねえって言ってんだろ」
〇〇「なんでよ!」
〇〇「応援されて嫌な人いないでしょ」
北斗「……」
いる。
ここに。
でも言えない。
〇〇「てかさ」
〇〇「私ちょっと羨ましい」
北斗「……は?」
一瞬、止まる。
〇〇「そんなちゃんと好きになれるのいいよね」
北斗「……」
その言葉、
一番ズレてるのに、
一番刺さる。
〇〇「私とかさ」
〇〇「そういうのよく分かんないし」
北斗「……」
〇〇「でも応援はするよ」
にこっと笑う。
無自覚に、
まっすぐに。
北斗「……」
もうダメだな、と思う。
言うタイミングも、
空気も、
全部一瞬で逃げた。
北斗「……もういい」
〇〇「え、また?」
北斗「……ああ」
立ち上がる。
北斗「……終わり」
〇〇「まだ途中じゃん!」
北斗「……十分だろ」
〇〇「全然足りないってば」
北斗「……」
軽く息吐く。
北斗「……お前ほんとバカ」
〇〇「急に悪口やめて」
笑う。
北斗も少しだけ笑う。
でもその裏で、
何も言えなかったことだけが残る。
北斗「……」
ソファの背に手をかけて、
天井を見る。
このまま言えないまま、
また“応援される側”で終わるのか。
〇〇「ねえ」
北斗「……」
〇〇「その人、ちゃんと幸せにしてあげてね」
北斗「……」
それ、
今一番むずい注文。
北斗「……ああ」
それだけ返す。
短く。
でも、
それ以上はもう出てこない。
夜は続く。
言えなかった言葉だけ置いたまま。
〇〇「てかさ」
北斗「……」
〇〇、少し笑いながら。
〇〇「好きな人いたんだね、北斗」
北斗「……」
一瞬、空気が止まる。
北斗の視線がゆっくり動く。
北斗「……は?」
〇〇「え、違うの?」
軽く首かしげる。
〇〇「ずっとその話してたじゃん」
北斗「……」
言葉、詰まる。
〇〇「ちゃんと聞いてたよ?」
〇〇「距離近い人でしょ、天然で振り回す人でしょ」
北斗「……」
〇〇「いるじゃん、そういう人」
さらっと言う。
本当に“他人の恋バナ”として。
北斗「……」
ジェシーの言葉よりタチが悪い。
気づいてないのに、当てにきてる。
〇〇「でもさ」
〇〇「北斗そういうのちゃんと考えてて偉いね」
北斗「……」
褒められてるのに、
全然嬉しくない。
〇〇「てか意外」
北斗「……何が」
〇〇「そういう話しないタイプかと思ってた」
北斗「……」
してる。
今ずっとしてる。
〇〇「応援するね」
にこっ。
またそれ。
北斗「……」
北斗「……お前さ」
〇〇「ん?」
北斗「……ほんとにそれでいいのか」
〇〇「なにが?」
北斗「……」
全部。
でも言えない。
〇〇「いいよ」
あっさり。
〇〇「だって幸せそうじゃん」
北斗「……」
違う。
全然違う。
でも、
その“違う”を説明する言葉が出ない。
〇〇「頑張ってね」
北斗「……」
また終わらせにくる。
軽く、優しく、無自覚に。
北斗「……はあ」
小さく息を吐く。
北斗「……もういい」
〇〇「え、また?」
北斗「……ああ」
立ち上がる。
北斗「……お前とは話になんねえ」
〇〇「なんで!」
笑いながら追う。
〇〇「ちゃんと応援してるだけじゃん!」
北斗「……それが余計だって言ってんだよ」
〇〇「ひどっ」
でも楽しそう。
北斗「……」
結局、
今日も言えない。
誤解されたまま、
応援されて終わる。
でも不思議と——
そのまま隣にいる距離だけは、
変わらないまま夜が続いていく。
〇〇「ねえってば」
北斗「……」
リビングの空気は静か。
さっきまでの笑いも落ち着いて、
2人だけの音になる。
〇〇「なんで怒ってんの」
北斗「……怒ってねえ」
〇〇「嘘」
北斗「……」
ソファの背に手かけたまま、
少しだけ顔逸らす。
〇〇「応援してるだけなのに」
北斗「……それがだるいって言ってんだよ」
〇〇「えー」
少しだけ不満そう。
でもどこか軽い。
〇〇「普通嬉しくない?」
北斗「……」
普通じゃないから困ってる。
北斗「……嬉しくねえよ」
〇〇「なんで」
北斗「……」
言えよ、って自分でも思う。
でも—
目の前の顔見た瞬間、
全部止まる。
〇〇「変なの」
くすっと笑う。
〇〇「まあいいや」
あっさり引く。
その感じも、
余計に振り回される。
〇〇「でもさ」
北斗「……」
〇〇「その人のこと、ちゃんと好きなんでしょ?」
北斗「……」
一拍。
北斗「……ああ」
小さく。
〇〇「じゃあいいじゃん」
北斗「……」
〇〇「応援するしかないじゃん、私」
北斗「……」
“私”って言い方。
完全に外側の人。
北斗「……」
少しだけ笑う。
諦めたみたいに。
北斗「……ほんとバカ」
〇〇「また言った!」
クッション投げる。
北斗、軽く受ける。
北斗「……当たってるだろ」
〇〇「当たってない!」
でも笑ってる。
そのやり取り、
完全にいつも通り。
北斗「……」
少しだけ肩の力抜ける。
北斗「……風呂入る」
〇〇「逃げた」
北斗「……逃げてねえ」
〇〇「絶対逃げた」
北斗「……うるせえ」
そのまま洗面所の方へ歩く。
〇〇「ちゃんと続き聞くからね!」
後ろから声。
北斗「……」
足止まらないまま、
北斗「……知らねえよ」
でも小さく返す。
ドア閉まる。
(ガチャ)
〇〇「……」
リビングに一人。
〇〇「なんかさ」
ぽつり。
〇〇「変なの」
でも—
少しだけ考える顔。
さっきの会話、
少しだけ引っかかってる。
〇〇「……まあいっか」
すぐ戻る。
ソファにごろんと寝転ぶ。
北斗がいないと、
ちょっと静か。
〇〇「……」
天井見る。
でも—
そのままスマホいじり出す。
深く考えない。
いつも通り。
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