三章 喪失
20話 「喪」
私の名前は海魔碧、起きたら突然女になっていた。
そんな私だが、今は、失踪している旧き友人『導』を見つけ出すべく、行きつけの情報屋に向かっている。
そしてその道中、『導』といた頃の話を、親友の鬼魔にしていたのだった。
「…ごめんね?こんな暗い話しちゃって。」
「いや、大丈夫だよ。…お前の方が大丈夫か?寂しくな いか?嫌なこと思い出させちゃったよな?」
「うん…大丈夫。別になんともないよ。
それに、その『導』に会いに行くんだか
ら、寂しくなんかないよ。」
「ならよかった…。」
こうは言ったものの、実のところ、すごく泣きたいというのが本心である。
でも、私はこれに耐えなきゃいけないんだ。
あの時の悲しみを乗り越え、それ以上の楽しさを生み出さなきゃいけない。
「苦しくなったら言えよ?私たちがしっかりケアしてやるからさ」
「…」
だめだよ、そんなこと言ったら。耐えられなくなっちゃう。
でも…それでいいのかも。
そう考え始めてしまったら最後だ。その後はまた、涙が止まらなくなる。
「…っ」
「泣きたいんだな。いいぞ。」
「…うぅっ…鬼魔…ありがとう…」
昔感じていた、「愛」というものが、実に2000年ぶりに感じられたような気がしたのだ。
気付くと、私の顔は涙でいっぱいになっていた。
どれだけ泣いたのだろう。その時の記憶がない。
「あれ…」
「っと、どうした?」
鬼魔に支えてもらったが、なぜか急に力が抜けた気がした。
過去に力が抜けることは何度もあったが、今回のそれは何か違う。
「なんだろう…頭が…ぼんやりしてきた…」
「…大丈夫か?うp主、呼ぶか?」
「…え?」
「え?」
「うp主って、だれ?っていうか…お姉ちゃんは、だ れ?」
私は…誰だ?
私が誰なのか、そして今看病してくれているお姉ちゃんが一体誰なのか、分からない。
唯一覚えているのは、こうして「読者」に語りかけることだけだ。
「うう…」
「おはよう、碧。起きたんだな。」
「あの…お姉ちゃん、碧…って、誰なんですか? さっきからずっと碧、碧って…」
「本当に覚えてないんだな。いいか?お前の名前は海魔碧だ。今こそそんな姿だが、一応男で神だぞ」
そ、それは、本当なんだろうか?
説明してもらっていて悪いが、いまいち信用できない。
私は神なんて大役こなせないし、女なのだって違和感がない。むしろ男になったほうが戸惑うかもしれない。だから今は…
「信じがたいですね…っていうか、信じたくありませ ん。」
「そっか…じゃあ私のことは鬼魔って呼んでね」
「いや、鬼魔姉が良いと思う」
「だまれチョコの欠片が」
あ、良いなぁそれ。
「じゃあ鬼魔姉って呼びます」
「えぇ…」
「やったあ純粋な妹ちゃんの完成だぁ…これはそのテの 人が大喜びするぞー。さっそくあの人に電話しなきゃな…ははは」
「鬼魔姉…むにゃ…」
あーあーだめだなあ鬼魔姉〜
もっと露出控えないと狙われちゃうよ〜
「いつの間に寝てたんだ?」
「はあ…『導』捜索の前にこいつの記憶を戻さなきゃい けないんだから面倒くさいよなぁ…」
「えー純粋無垢な碧もいいじゃーん」
「こっちの気がもたねえよ…」
そんな会話をしているのは知らず、すやすやと眠る私であった。
終
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