コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「相変わらず、紳士だよな、お前は」
「そうか? まあ、それが売りなんでね」
「はは、変わってねぇな、お前は」
郁斗としては、ひとまずこの状況を維持しつつ、これから来るであろう恭輔や応援を待ちたいと思っていたのだが、迅がそんなものをいつまでも待つはずはない。
「悪いが、俺はこれから人と会う約束をしてんだ。取引だからな、遅れると信用問題に関わるんだわ」
「へえ? それはそれは。けどな、俺も引けねぇんだよ。分かるだろ?」
お互い一歩も引かない緊迫した状況が続く。
相手の出方を窺っているようだ。
それが数分程続いただろうか、先に口を開いたのは――
「さてと、そろそろ終わりにしようぜ。埒が明かねぇから、勝負をしよう」
勝負をしようと持ち掛けた迅だ。
「勝負?」
「ああ。これさ」
言いながら迅は懐からもう一丁の銃を取り出した。
それは回転式拳銃。
「……へぇ? ロシアンルーレット……って訳か?」
「流石、察しが良いな。これなら全ての決着が付いて良いだろ?」
「まあ、確かに決着は付くはな、どっちかが死ぬっていう結末で」
いくら勝負を付けるにしても、これはどうなのか。目の前で行われる会話に詩歌は声すら出せず、ただただ怯えていた。
「いくと……さん……やめて……」
ロシアンルーレットなんて無謀とも言える勝負は止めて欲しい。そんな思いから詩歌は必死に訴えかける。
「……なぁ郁斗、良いだろ? お前が勝てば、嬢ちゃんと共にここから無傷で出れる。そうだろ?」
「ああ、そうだな……」
この勝負に絶対勝ち目が無い訳ではないが、迅相手に下手な小細工をしたところで見破られてしまうだろう。
かと言って何の小細工も無しに勝負を受けるとなると、最早運任せになってしまう。
詩歌が居なければ、それも有りだと郁斗は思う。悪運は強い方だと自負しているから。
しかし今は、確実に詩歌と共にここを出る事が最優先。
となると、一か八かのこの勝負を受ける訳にはいかないのだ。
「……悪いが、今は止めておく。お前と完全に二人って状況なら、俺はいつでも受けてやる」
「はっ! そんなにこの女が大切か? そうかそうか。それじゃあ仕方ねぇな。俺はもう女を連れて出ねぇと間に合わねぇ。テメェにはここで死んでもらう」
そして、迅のその言葉と共に再び二人は銃を構え、互いに銃口を向け合った。
(取引き材料の詩歌を殺す事はしねぇだろう。狙いは俺だ……けど、もう一度迅の手に渡れば、確実にこの場から連れ去られる……)
詩歌の元へ近付けば彼女を危険に晒してしまい、かと言って迅より詩歌から離れようとすれば、迅が近付き彼女を盾として逃げるかもしれない。
(こうなると、もうアイツより先に引き金を引くしか……)
お互いの出方を待っているのか、瞬き一つせずに互いを注視した、その時、
「迅……お前、俺を待たせるつもりなのか? 随分偉くなったなぁ」
足音立てずに近付き、そう声を掛けて来た人物が一人。
「ま、黛さん……約束の時間までまだ数分ありますよ?」
「数分で片がつくのかよ? そいつ、結構な手練だろ? 俺は待たされるのが嫌いなんだよ。知ってんだろ?」
現れたのは詩歌の行方を探していた黛組の組長――黛 弥彦だった。