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夜、宿屋の食堂で雑談をしていると、ジェラードが現れた。


「こんばんわー♪」


「あ、ジェラードさん。こんばんわー」

「「こんばんわ」」


「……こちらの方は初めましてかな?

僕はジェラード、よろしくね♪」


「初めまして、私はリーゼロッテ。リーゼって呼んでね」


「おっけー、リーゼちゃんね」


早速の『ちゃん』付けは流石というべきか。

一気に距離が縮むよね、敬称が違うだけで。


「今日は『循環の迷宮』に行ってみたんですけど、リーゼさんとはそこでお会いしたんですよ」


「へー。今日は入口までだっけ?」


「はい。中に入るのは準備してからかな、と思いまして。

もし良ければジェラードさんも一緒に行ってみませんか?」


「え、僕も? うーん……それって時間が掛かるよね。

何階を目指すの?」


「5階まで行ってみて、あとは様子を見ながらかな……と」


「それくらいなら戦力は大丈夫そうだけど……。でも、全部で5日くらいは使っちゃうか……。

うーん、厳しいね。今回は控えておくよ」


「そうですか、残念……」


ジェラードは王族のお屋敷で色々とやっているみたいだから、このタイミングで5日も空けてしまうのは難しいのだろう。

今回は素直に諦めることにするか。


「ジェラードさんの剣術、見てみたかったですね」


「ジェラードさんがいれば百人力だったんですけどね~」


「本当は行きたいんだよ!? でも、ここはルーク君とエミリアちゃんに頑張ってもらおうかな。

……ところで、リーゼちゃんも行くの?」


「ええ、そのためにご一緒させてもらっているの」


「なっるほどー♪」


「あ、そうだ。

ジェラードさん、リーゼさんは情報操作の魔法を使えるんですよ!」


「本当? 凄いね!」


「さっきまで、全部に掛けてもらっていたんです。

ジェラードさんのもいかがですか?」


「えぇ!? ジェラードさんも何か持ってるの?

アイナさんたち、どれだけ独占してるのよ……」


私の言葉に、リーゼさんも呆れていた。

1つでも珍しいところ、すでに4つに魔法を掛けてもらっているのだ。


「アイナちゃん、ごめん。今はあれ、持っていないんだ」


「え? そうなんですか?」


「ちょっと、とある場所に置いてきてね。あ、失くしたわけじゃないから安心して!」


「はぁ……」


ジェラードの手首を見ると、確かにブレスレットは付けられていなかった。

うーん? まさか、誰かにあげたとかではないと思うけど……。


「ひとまずアイナちゃんたちが誰かに狙われることは無くなったから、それは安心だね。

うん、心配事が1つ減ったかな」


「情報操作の魔法、私が使えれば問題ないんですけどね。

……ちなみに私でも覚えられるものですか?」


「そうね。少し特殊な魔法だからかなり勉強はいるけど、アイナさんなら覚えられるんじゃないかな。

私は教えるのが得意じゃないから、教えられないけど」


「む、それは残念……。

となれば、どこで覚えれば良いのやら」


「まっとうな場所なら、魔術師ギルドで相談した方が良いんじゃない?

お金か、他の条件を提示されると思うけど」


それって逆に言うと、まっとうではない場所で教えてくれるところがある……ってことだよね?

でもそういうところだと、悪の道に引きずり込まれてしまいそう? それは嫌だから、私はまっとうな道を歩こう。


「やっぱり対価は必要ですよね。出せる範囲なら良いんですけど……」


「私が交渉してあげても良いよ?

でもひとまずそれは忘れて、ダンジョンに集中しようよ」


「そうですね……。予定はいつくらいが良いかな?

ダンジョン探索も日単位で時間が掛かりますし、王様に謁見したあとのが良いですよね」


「そういえば、大聖堂からはまだ連絡がきませんね。

日程が決まれば知らせてもらえるはずなのですが……」


「……はぁ?

アイナさんたち、王様に謁見するの? 私、何だか凄い人たちを捕まえちゃったわね……」


「あはは。まぁいろいろありまして……」


さすがに会ったばかりのリーゼさんを謁見の場には連れていくわけにはいかないし、この話は早々に終わらせてしまおう。


「それではダンジョン探索は、大体1週間後くらいを目安にしておきましょう。

大聖堂からの連絡があったら、そのあと調整して確定させるってことで。

リーゼさんもそれで良いですか?」


「うん、大丈夫。

それまでは冒険者ギルドでも覘いていようかな?」


「分かりました。えぇっと、それじゃ私たちはどうしましょう。

レオノーラさんに装飾魔法を教えてもらうのがありますし、個人的な話で申し訳ないですが、錬金術師ギルドの図書室も使ってみたいんですよね」


「それなら、レオノーラ様とも予定を詰めてしまいますか。

……となると、わたしはまた大聖堂に行きたいです。明日は自由行動にしますか?」


「そうですね。ルークも大丈夫?」


「はい、もちろんです。

ちなみに、私はアイナ様に付いて行ってもよろしいですか?」


「え? 別に良いけど――

……あ、いや。ギルドの奥の方って、多分ルークは入れないと思うから……」


「むぅ、それは残念です……。

では私は、武器屋の本店とやらに行ってみることにしましょう」


「ああ、結構遠くにあるところだよね。了解、ごめんね」


「いえ、大丈夫ですのでご心配なく」


「……さて、それじゃ僕はもう寝ようかな?」


「あれ、もうですか?

まだあんまり、お話をしてないのに」


「今日は何だか疲れちゃってね~。それじゃ、みんなお休み♪

リーゼちゃんも、良い夜を♪」


「ええ、ありがとう。ジェラードさんも良い夢を」


ジェラードが立ち去ると、リーゼさんも立ち上がった。


「それじゃ、私も寝るとしようかな。

少し街を離れるときがあるかもしれないけど、夜はできるだけここに戻って来るから」


「分かりました、おやすみなさい」

「「おやすみなさい」」


挨拶を交わしたあと、リーゼさんはこの宿屋に取った部屋に戻っていった。

残ったのはいつもの三人だ。


「……新しい人がいると、少し緊張しますね」


「あはは、分かりますー」


「人となりが分からないと、そうですよね」


リーゼさんの場合は『最初から仲間に』って感じだったからね。

ルークとジェラード、アドルフさんは仲間になる前にいろいろあったし、エミリアさんは最初にまず恩があったし。

今までは信用ができてから仲間に……って流れだったけど、今回は違うから……やっぱり、どこか疲れてしまう。


「でも、情報操作の魔法も掛けてもらいましたから、これでひと段落ですよね。

あ、ジェラードさんのがまだですけど」


「そういえばジェラードさん、ブレスレットを置いてきたって言ってましたけど……どこに置いてきたんでしょうね?

『風刃』は結構強い効果だそうですし、悪用されないかが心配です……」


「ジェラードさんのことだから、さすがに悪用されるところには置かないと思いますよ。

でもやっぱり、強い効果のものは悪用されるのが怖いですよね……」


特別に強いものを作れば破格の値段で売れるだろうけど、どこでどう使われるのかはやっぱり怖い。

売ったあとのことは私に責任は無いかもしれないけど、逆に言えば、売った時点で何らかの責任が生まれるかもしれない。


……あれ? 何だかおかしいこと言ってる……?


「戦闘関連のものは、高く売れるようなものはあまり手放したくないですね……。

やっぱり私は、薬を作ってるのが性に合ってます」


「お薬は人助けになりますからね。うん、アイナさんらしくて良いと思いますよ!」


一部には洒落にならない効果の薬もあるけどね。性格変更ポーションとか。

でも基本的には、人助けができる良い分野。ファーマシー錬金、最高です!


……分野といえば、そういえばホムンクルス錬金っていうのもあるんだっけ?

生命を扱うのって怖いから、私はやらなさそうだけど……でも一応、少しくらいは調べてみようかな。


よーし。明日は錬金術師ギルドに行くことだし、しっかり勉強することにしよう!

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